記事・インタビュー

2020.05.22

Dr. Toshiのアジアで7年間外資系病院の臨床医として働いて分かったコト(4)

はじめまして。ベトナムはホーチミン市にあるRaffles Medical Groupで、総合診療医とBusiness Development Consultantを兼任して働いている中島 敏彦です。Business Developmentは日本でいうところの事業開発部にあたります。

まえがき

この記事を書いたのは日本がまだ“ビフォーコロナ”だった2019年末でした。”ウィズコロナ”の時代の始まりとともに、世界の在り様が日々大きく変わってきています。このような時代の中で、我々医療者のキャリア形成の在り方は大きく変わるでしょう。医師の働き方はどうなるのか? パラレルキャリアを持ったほうがよいのか? 医局に所属していたら生き残れるのか? 遠隔診療はどの程度普及するのか?

アフターコロナの時代に医療界がどうなっているのか、全く想像がつきません。もしかすると、何が起こるか分からない海外にわざわざ働きに行くことを考えること自体、正気の沙汰でなくなっているのかもしれません。

しかしこのウィルス恐慌の時代になるずっと以前から、海外の民間企業でキャリア形成していくには、常に周囲の状況やニーズに合わせて自分を最適化させることが求められていました。「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ」ということです。おそらくこれからの日本でも、このようなスキルが必要になることでしょう。

この記事を読んでくださっている方々が、新しい時代の中で役立ちそうなアイディアを私の経験の中から見つけてくだされば幸いです。

外資系医療機関での働き方と海外でキャリアを形成 - ①

前回【勤務先の探し方、外資の医療機関が求める人物像】でお伝えしましたが、日本人医師が臨床医として働ける海外の医療機関はほとんどの場合が商業主義のため、「利益をもたらすことができる従業員」を求めます。勉強させてもらうつもりで入職すると、あっという間にクビになることがあります。

そこで今回は、外資系医療機関での働き方と海外でキャリアを形成において一番重要なことをお伝えします。

「とにかくクビにならないこと」。これに尽きます。

日本人に限らず、海外の医療機関で働く医者が解雇された、契約更新してもらえなかったなんてことはよく聞く話です。せっかく海外に来たのに何事も成さないままクビにされ、すぐに日本に帰ってしまったらキャリア形成にも何もなりません。むしろキャリアの中断です。自分探しの旅に海外に行ってみたようなものです。ええ、まあいいですよね、自分探し。

日本でももちろん解雇は存在しますが、海外で「解雇」はより簡単に行われ、とても身近なものです。いなくなった同僚はたくさんいます。むしろ生き残っている同僚の方が少ないんじゃないかな?

だから常に「クビにされたらどうしよう」と考え続けなければいけません。理想は勤務先に「お願いだからやめないでね」と言わせることですが、現実的には「クビにされたらどうするかを決めておく」ことが重要です。英語で言うと“Hope for the best and prepare for the worst.”(最善を願い、最悪に備えろ)です。ちょっとカッコよくなりましたね。

つまり「現在勤めている職場で勤務を継続しながら、常に次のキャリアプランを考える」のです。この話は次回【外資系医療機関での働き方と海外でキャリアを形成 – ②】で改めてします。

さて、では「クビにされないためにはどうしたらいいか?」について考えます。

冒頭で述べたとおり「利益をもたらすことが出来る従業員」であり続けることです。しかしただ利益を出せばいいというわけではありません、「持続的に利益を出す」ことがとても大事です。さらに言うなら「毎年利益が増加し続ける」ことも次の段階として重要です。

例えば、一時の利益のために無駄な治療をしまくったり、後先を考えず高額な治療をしたら信用をなくしますよね? 悪い噂は一瞬で広がります。

また海外には日本人医師が少ないとはいえ日本人が働ける国には必ず数名いて、大抵はそれぞれ別の病院に勤めています。そして患者さんは病院を選ぶことができ、日本にいる時以上に口コミや評判に左右される印象があります。これでは持続的に利益をもたらすことはできません。

そもそも利益を得るためにおかしな診療をするなんてこと自体が私には受け入れられません。結局、持続的に利益を出すためにはどのようなことが求められるのでしょうか? 私自身、いまだに最適解を探しながら働いています。

現在実践していることは、

  • まずは持続的に患者さんが来てくれる状態を作る
  • そのために信用を築き病院の評判を上げる
  • ベトナムの医療情報が少ないので情報提供や講演を積極的に行う(信用を築くため)参照:これだけは是非チェック!!ベトナム進出前・進出後に必要な当地医療事情
  • 日本人の持っている医療保険が良質とはいえ限度額があり、使い過ぎれば更新ができないこともあるので、コスト意識を持って無駄な検査や治療は極力避ける

結局は「現地の総合診療医として最適化し、かつビジネスの仕組みを理解する」ということが重要だと思っています。

そのために私が現地臨床医として大事にしているのは、

  • 問診力をつけて無駄な検査や治療をしない
  • 臨床医としてスキルや専門性などをUpdateし続ける
  • 正しい情報発信し続けるために現地医療事情に精通する
  • ベトナム邦人社会に貢献する

こうすることで「日本人臨床医としての価値と外資系企業の従業員としての価値」の両方を維持することができます。

特に海外の医療機関がビジネス戦略として重視しているのはSocializationとNetworkingによる集患ですので、医師であっても社交の場に出ることを求められることがあります。日本でよくある医者同士の集まりではありません。海外で働く日本人ビジネスマン、その家族が対象です。

この部分は日本で若い医師が経験する業務ではないと思うのですが、やってみると大変おもしろく、集患のためにとても効果が高いです。そしてここでも【勤務先の探し方、外資の医療機関が求める人物像】でお伝えしたコミュニケーションスキルやキャラクターが問われます。

さて次回は【外資系医療機関での働き方と海外でキャリアを形成- ②】についてお伝えしようと思います。

次回に続く。

<プロフィール>

中島 敏彦(なかじま・としひこ)
病院総合診療認定医、産業医、泌尿器科専門医

1977年生まれ。秋田大学医学部卒業後、千葉大学泌尿器科、JCHO東京新宿メディカルセンター、静岡県立静岡がんセンターなどで10年間勤務。2013年よりシンガポールのNippon Medical Careで総合診療、熱帯医学、渡航医学などを学ぶ。その後は北京、ハノイでInternational SOSで邦人患者の治療に携わり、2017年からはRaffles Medical GroupのInternational Departmentに所属するホーチミンクリニックで日本人総合診療医/Business Development Consultantとして勤務。
また日本とベトナムの架け橋となるべく、ベトナムにある日系商社Clover plus co.,ltdのアドバイザーとして、日本の医療産業がベトナムに進出するための支援なども行っている。海外勤務歴7年。
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中島 敏彦

Dr. Toshiのアジアで7年間外資系病院の臨床医として働いて分かったコト(4)

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