記事・インタビュー

2020.05.01

Dr. Toshiのアジアで7年間外資系病院の臨床医として働いて分かったコト(1)

はじめまして。ベトナムはホーチミン市にあるRaffles Medical Groupで、総合診療医とBusiness Development Consultantを兼任して働いている中島 敏彦です。Business Developmentは日本でいうところの事業開発部にあたります。

まえがき

この記事を書いたのは日本がまだ“ビフォーコロナ”だった2019年末でした。”ウィズコロナ”の時代の始まりとともに、世界の在り様が日々大きく変わってきています。このような時代の中で、我々医療者のキャリア形成の在り方は大きく変わるでしょう。医師の働き方はどうなるのか? パラレルキャリアを持ったほうがよいのか? 医局に所属していたら生き残れるのか? 遠隔診療はどの程度普及するのか?

アフターコロナの時代に医療界がどうなっているのか、全く想像がつきません。もしかすると、何が起こるか分からない海外にわざわざ働きに行くことを考えること自体、正気の沙汰でなくなっているのかもしれません。

しかしこのウィルス恐慌の時代になるずっと以前から、海外の民間企業でキャリア形成していくには、常に周囲の状況やニーズに合わせて自分を最適化させることが求められていました。「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ」ということです。おそらくこれからの日本でも、このようなスキルが必要になることでしょう。

この記事を読んでくださっている方々が、新しい時代の中で役立ちそうなアイディアを私の経験の中から見つけてくだされば幸いです。

Raffles Medical Groupについて

はじめに、みなさんはRaffles Medical Group(RMG)というグループをご存じでしょうか? General Practice(総合診療)とInternational Patients Services(国際診療)を得意としており、シンガポール国内で100拠点余りのクリニックと、総合病院であるRaffles Hospitalを運営しています。在留邦人の間では日本人専用クリニックのRaffles Japanese Clinicが有名です。

私の勤務先はそことは別の部署であるRaffles International Clinics(RIC)所属の、ベトナム・ホーチミン市にあるRaffles Medical HCMC(RMH)です。もともとはInternational SOS HCMC Clinicでしたが、合弁により現在のRMHとなりました。私自身も当初はInternational SOSに所属する医師でした。

RICは大阪、香港、上海、北京、ハノイ、ホーチミン、プノンペンなどでクリニックを運営しているほか、中国の重慶市で700床の総合病院を開設し、上海にも400床の総合病院を2020年に開設する予定です 。(2020年4月当時)

母体がシンガポールなので、どこのクリニックに行っても共通言語は英語です。加えて医師やスタッフもさまざまな国から来ているため、院内では英語、フランス語、日本語、ベトナム語、中国語(福建、広東)、マレー語、イスラエル語といった言語が飛び交います。

これらの病院やクリニックは「International」と名乗ってることからも、主な患者さんは当然、世界各国から来る旅行者や現地に住む外国人です。また現地富裕層の方々も来ます。

私自身も総合診療医として主に日本人の患者さんに対応しています。また日本にいたときの専門は泌尿器科と緩和医療でしたので、この分野の症状のある患者さんが来れば、日本人に限らず英語で診療にあたります。

このようにMulticultural(多文化的)で学べることが多い職場なのですが、RICで勤めている日本人医師は極めて少なく、常に常勤医を募集している状態です。

海外に出てみると、「母国から離れて働く医師」というのは決して稀な存在ではないことに気が付きます。特にアジアにはビジネスチャンスを狙い世界各国から多くの企業が進出しているため、それに伴い外国人医師のニーズもとても高いのです。

一方、海外の民間病院で臨床医として働く日本人医師が少ない原因としては、

  • 日本語での情報が少ない
  • 日本国内でのキャリア形成と大きく違う
  • 先行者が少ないためキャリアプランが想像できない

などがあるではないでしょうか。

そこで、これから海外で働くことを目指す方々が遭遇しそうな出来事について、何回かに分けてお伝えしようと思います。

まず、私自身が渡航前に特に困ったのは(今も困っている事は多いです)

  • 最低限どれくらいの英語力が必要なのか
  • 海外の病院ではどんな働き方なのか? 当直はあるのか?
  • 仕事の探し方や就職の仕方
  • 採用されるために必要な条件、求められる人物像
  • 外資系医療機関での働き方
  • 海外でのキャリア形成の仕方
  • 海外で働くメリット/デメリット
  • 日本に帰った後のキャリアプラン
  • 現地での生活

など、挙げていくとキリがありません。
しかし結論として特にお伝えしたいことは、

  • 海外で医師として働くと、日本で外国人診療をするための知識が身につく
    ⇒ 日本の国際診療や渡航医学領域で活躍するチャンス!
  • 海外の民間医療機関において日本人医師のニーズは意外と高い
    ⇒ 一度飛び込んでフィットしてしまえばクビになりづらい!
  • 臨床医として働くだけでなく、ビジネスプランの作成やマーケティング、広報などさまざまな場面で活躍できる
    ⇒ 将来日本で開業する場合に経験が役立つかも!?
  • 在留邦人社会は日本人医師を強く求めている
  • 外資系組織で働くにはそれなりの戦略が必要
  • 病院やクリニックで働く以外にもいろいろなチャンスがある
  • 臨床医として海外で働きたいのであればRaffles Medical GroupのInternational Departmentはおススメ

ということです。

それでは、次回は【海外の医療機関で求められる英語力】について書きます。

<プロフィール>

中島 敏彦(なかじま・としひこ)
病院総合診療認定医、産業医、泌尿器科専門医

1977年生まれ。秋田大学医学部卒業後、千葉大学泌尿器科、JCHO東京新宿メディカルセンター、静岡県立静岡がんセンターなどで10年間勤務。2013年よりシンガポールのNippon Medical Careで総合診療、熱帯医学、渡航医学などを学ぶ。その後は北京、ハノイでInternational SOSで邦人患者の治療に携わり、2017年からはRaffles Medical GroupのInternational Departmentに所属するホーチミンクリニックで日本人総合診療医/Business Development Consultantとして勤務。
また日本とベトナムの架け橋となるべく、ベトナムにある日系商社Clover plus co.,ltdのアドバイザーとして、日本の医療産業がベトナムに進出するための支援なども行っている。海外勤務歴7年。
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中島 敏彦

Dr. Toshiのアジアで7年間外資系病院の臨床医として働いて分かったコト(1)

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