記事・インタビュー

2020.05.08

Dr. Toshiのアジアで7年間外資系病院の臨床医として働いて分かったコト(2)

はじめまして。ベトナムはホーチミン市にあるRaffles Medical Groupで、総合診療医とBusiness Development Consultantを兼任して働いている中島 敏彦です。Business Developmentは日本でいうところの事業開発部にあたります。

まえがき

この記事を書いたのは日本がまだ“ビフォーコロナ”だった2019年末でした。”ウィズコロナ”の時代の始まりとともに、世界の在り様が日々大きく変わってきています。このような時代の中で、我々医療者のキャリア形成の在り方は大きく変わるでしょう。医師の働き方はどうなるのか? パラレルキャリアを持ったほうがよいのか? 医局に所属していたら生き残れるのか? 遠隔診療はどの程度普及するのか?

アフターコロナの時代に医療界がどうなっているのか、全く想像がつきません。もしかすると、何が起こるか分からない海外にわざわざ働きに行くことを考えること自体、正気の沙汰でなくなっているのかもしれません。

しかしこのウィルス恐慌の時代になるずっと以前から、海外の民間企業でキャリア形成していくには、常に周囲の状況やニーズに合わせて自分を最適化させることが求められていました。「強い者、賢い者が生き残るのではない。変化できる者が生き残るのだ」ということです。おそらくこれからの日本でも、このようなスキルが必要になることでしょう。

この記事を読んでくださっている方々が、新しい時代の中で役立ちそうなアイディアを私の経験の中から見つけてくだされば幸いです。

海外の医療機関で求められる英語力

私は海外に来てから、次の2つの形態の職場で働いた経験があります。それぞれの特徴とともに紹介します。

① 日本人だけを診療する日本人向け医療機関

  • マネージャーや人事が日本人で、英語を使わないでも働くことができる
  • 面接や就職の手続きを日本語でサポートしてくれるので入職が楽
  • クリニックのライセンスの規定で、日本人以外を診察してはいけないことになっているケースが多い

② 英語で診療する外国人向け医療機関

  • マネジメントサイドに日本人スタッフがいないため、面接から就職に際しての書類申請、移住のための手続き他、全て英語で行う
  • 院内共通語が英語のため、医療スタッフとの会話やメールは全て英語
  • 外国人患者さんの診療は英語が基本

海外で日本の医師免許で臨床ができる職場は大体①か②です。②の場合には別途、「勤務地のMinistry of Health(保健省)が定める英語で診療ができることを証明するための試験やカリキュラム」にパスするのが一般的です。

いま私が勤めてるのは②です。①に勤めたのは1年間だけでしたが、海外に慣れるまでの期間を過ごすにはちょうどいい環境でした。

どちらの職場でも採用にあたりTOEICやTOEFLのような英語の資格は求められません。ただし②の職場においては日常的に英語を使うことが求められますので、「仕事で困らない程度に英語でコミュニケーションができるか」を面接中に試されます。むしろ、面接を申し込む際のメールや電話のやりとりから見られていると思っておいた方がいいです。

ちなみに私が②の職場に応募するために準備した対策は

  1. ① 現地の英会話教室に通ってネイティブの先生に履歴書作成を手伝ってもらう
  2. ② 6回ほど通って履歴書の内容をネイティブスピーカーの前でスラスラ答えられるように度胸をつける

これだけです。私は面接までの時間がなく、これが精一杯でした。本当はもっと頑張った方が良いと思います。

面接当日は緊張のあまりボロボロで、なぜ通ったのか当時はよく分かりませんでした。うまく聞き取れないところがあったものの、とにかく履歴書に書いてある事をしゃべり続けました。面接官がフランス人(COO)とイギリス人(HR Manager)で、彼らが笑ってるのか呆れているのかも分からないぐらい緊張していたことはよく覚えています。

勤務開始後、あまりの英語のできなさに、英語の先生をクリニックに呼んで個人レッスンを受けさせてもらうという、とても手厚いフォローをしていただきました。これは当時、日本人ビジネスがかなりうまくいっていたお陰でとられた救済措置です。ビジネスがうまくいっていなかったら、多分クビでした。

数年後、私のポジションがそれなりに上がってからCOOと再会した時に、こんな会話がありました。

私:「なんで雇ってくれたんですか?」

COO:「キャラクターが良かったからだ、俺の目は間違ってなかったぜ HAHAHAHA(自慢げ)」

私:「(困惑)」

当時はフランスのジョークか何かだと思っていたのですが、自分が面接官をする立場になってCOOの言葉の意味がよくわかるようになりました。

英語力はそれなりの環境に長い時間居ればなんとかなるのです。私自身も結構すぐに喋れるようになりました。しかし「キャラクターやコミュニケーションスキルは、集患や診療、スタッフとの連携にとても大切な割に鍛えづらいもの」です。だから面接ではまず、それらが備わってるかを見ます。

コミュニケーションスキルが高い方は英語の習得も早いです。外国で働きたい方は「英語力」だけでなく「コミュニケーションスキル」も併せて鍛えることをお勧めします。

次回【勤務先の探し方、外資の医療機関が求める人物像】の中でもお伝えするつもりですが、外資系医療機関は英語ができるスタッフが欲しいわけではありません。「利益を持ってくる(集患できる)スタッフ」が欲しいのです。

繰り返しになりますが、英語力はあくまで最低限の能力で、それ以上にコミュニケーションスキルやキャラクターが重要です。

もし試用期間中(3ヶ月から半年ぐらい)に英語力が不十分で患者数も増やせていないという状態が続いてしまうと、ある日いきなり呼び出され、帰国のためのチケットが渡されます。帰りのチケットくれるなんてとても優しいですよね。

そんなわけで、海外で働きたい方は患者さんを引きつける能力(コミュニケーションスキル)を明日から頑張ってみましょう。

次回に続く。

<プロフィール>

中島 敏彦(なかじま・としひこ)
病院総合診療認定医、産業医、泌尿器科専門医

1977年生まれ。秋田大学医学部卒業後、千葉大学泌尿器科、JCHO東京新宿メディカルセンター、静岡県立静岡がんセンターなどで10年間勤務。2013年よりシンガポールのNippon Medical Careで総合診療、熱帯医学、渡航医学などを学ぶ。その後は北京、ハノイでInternational SOSで邦人患者の治療に携わり、2017年からはRaffles Medical GroupのInternational Departmentに所属するホーチミンクリニックで日本人総合診療医/Business Development Consultantとして勤務。
また日本とベトナムの架け橋となるべく、ベトナムにある日系商社Clover plus co.,ltdのアドバイザーとして、日本の医療産業がベトナムに進出するための支援なども行っている。海外勤務歴7年。
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中島 敏彦

Dr. Toshiのアジアで7年間外資系病院の臨床医として働いて分かったコト(2)

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