記事・インタビュー

2019.12.06

ドイツで最先端の医療に触れたい(1)

ドイツで30年にわたり心臓治療の第一線で活躍。これまでに手がけた心臓手術は約2万件。名実ともに世界的な心臓外科医である南 和友先生に、医師になったきっかけやご自身のキャリア、そしてドイツの医療や働き方と、日本の医療が抱える課題についてお聞きしました。日本・ドイツ・中国の医師が集まるイベント「日独中ジョイントミーティング」に関する情報も併せ、全4回にわたりご紹介します。
第1回は、医師になったきっかけと、ドイツで心臓外科医を目指した理由についてです。

妹の突然死

私は小学2年生のとき、当時5歳だった妹の突然死に直面し、大きな衝撃を受けました。妹が倒れたとき近所のかかりつけ医が心臓マッサージを施したものの、それ以外は何もできず、結局妹は助かりませんでした。後に分かったことですが、妹が罹患していたのは大動脈狭窄症で、およそ500人に1人の割合で起きる疾患でした。あらかじめ検査をして適切な処置さえしていれば救えたはずの命だったかもしれないと、今でも悔やまれます。そのような出来事があり、また私の祖父、曾祖父が医師であったことも影響し、医療の道を目指そうと思うようになりました。

ドイツへの留学

努力の末、京都府立医科大学に入学しましたが、3年生になると学生紛争が激しくなり大学が封鎖。勉強どころではない状況の中、将来を考え、「最先端の医療を実際に触れてみたい」という思いで大学を一年間休学し、ドイツに留学しました。ドイツ滞在中はハイレベルな医療を目の当たりにし、多くの知識・技術を習得しました。

ドイツから帰国し、1974年に京都府立医科大学を卒業。医師2年目には幼い頃からの目標でもある心臓外科医になりたいと考えるようになりましたが、当時の私は、日本で医師として仕事をする考えを持ち合わせていませんでした。なぜなら、留学生として過ごした経験から海外の医療に多大な影響を受け、再び日本から出ることを考えていたからです。渡航先はヨーロッパの国々から米国まで広く候補においていましたが、最終的に、教育制度や医療システムが非常に合理的ですばらしいと感じていたドイツでキャリアを積むことにしました。

1976年、DAAD奨学金※1を利用し、国費留学生としてデュッセルドルフ大学へ入局。大学病院では胸部外科(心臓、血管、肺外科)を学びました。ちなみに、私が奨学生として滞在していた1年間にデュッセルドルフ大学病院では1,000例を超える手術が行われていたのに対し、当時私が所属していた日本の病院では70数例でした。比較すると約15倍。つまりドイツの1年は日本の15年に相当するともいえます。実際に私自身も数多くの症例を経験することで飛躍的に成長することができたと感じています。

留学の期間が終わりに近づくにつれ、「まだここでたくさんの経験を積んで一人前の心臓外科医になりたい」という気持ちが強まっていきました。帰国しなければ大学の意向に背くことになり、医局を破門されることも考えられましたが、ドイツに留まりたいという気持ちは高まるばかり。そうした折、幸いにも当時の主任教授 W. Bircks先生に声を掛けていただき、ワーキングパーミッションを得て、そのままデュッセルドルフ大学で助手として勤務することになりました。

心臓病・糖尿病センター立ち上げ

こうしてドイツで心臓外科医としてキャリアを開始し、デュッセルドルフ大学では8年間、経験を積みました。後半はスタッフとして数多くの手術を経験し、その後も含め30年余り、ドイツの医療に携わることになりました。

ノルドライン・ウエストファーレン州の北部、当時の人口5万人ほどのバードユーンハウゼンに1984年に開設した心臓病・糖尿病センター(Heart a nd Diabetes Center NRW)※2には、主席外科医としてセンターの立ち上げから携わりました。当時、周りには何もない牧場とおぼしき場所に建設されたため、「一体こんな場所で患者さんをどうやって集めるのか」と半信半疑な気持ちを抱いていましたが、開院10年目には世界トップレベルの心臓手術実績を誇る施設になっています。

ドイツでは医療センターを新設する場合、各州の厚生省、医師会、保険会社などが互いに協力し合い計画的に建設を行っており、心臓外科施設に関しては人口100万人に対し医療センター1ヶ所が目安になっています。一方、日本では10万人に1ヶ所の割合で医療センターが建設されています。ドイツに比べ、日本は医療センターの数が圧倒的に多く、それぞれの施設に集まる患者数が少なくなるため、若手医師が充実した研修を受けることができない状況です。

かつて私が少しでも早く一人前の心臓外科医になるためにドイツ滞在を決めたように、今後は若手医師が充実した研修を受け、一人前になるための手助けになりたいと考えています。

(参考)
※1 DAAD奨学金
※2 心臓病・糖尿病センター(Heart and Diabetes Center NRW)

<プロフィール>

南 和友(みなみ・かずとも)
ドイツ・ボッフム大学 胸部・心臓・血管外科 永代教授
医療法人社団 友志会 南和友クリニック 理事長・院長
NPO法人ハートtoハート・ジャパン 理事長

1976年にデュッセルドルフ大学胸部血管外科へ留学。その後、ドイツで医師として約30年にわたり心臓治療の第一線でご活躍され、心臓手術数は約2万件、心臓移植は約1,500件の症例を経験。1984年には、ドイツ北部にある世界一の心臓病センターの設立に携わり、外科チームの実働トップとして経験を重ねてきた。日本人では初めて、2004年にドイツ・ボッフム大学永代教授に就任。

南 和友

ドイツで最先端の医療に触れたい(1)

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