記事・インタビュー

2019.12.13

ドイツでの医療教育・働き方(2)

ドイツで30年にわたり心臓治療の第一線で活躍。これまでに手がけた心臓手術は約2万件。名実ともに世界的な心臓外科医である南 和友先生に、医師になったきっかけやご自身のキャリア、そしてドイツの医療や働き方と、日本の医療が抱える課題についてお聞きしました。日本・ドイツ・中国の医師が集まるイベント「日独中ジョイントミーティング」に関する情報も併せ、全4回にわたりご紹介します。
今回はドイツの医療教育・働き方についてお伺いしました。

日本における西洋医学の広がり

ヨーロッパでは「まずは患者さんがいて、それから医者がいる」という患者中心の医療が根付いており、さらに、外科に限らず内科においてもまずは技術を学ばない限りは患者さんと接していけない、治療をしてはいけないという考えが徹底されています。医師を含め技術を要する職業の場合、どれだけ多くの実績を積んできたかが、信頼にもつながると考えます。

なぜ日本の医療が患者中心の医療よりも学問を重視するようになったのか?
その経緯を簡単に説明しますと、日本には元々、鍼灸や漢方中心の実践的な東洋医学がありましたが明治維新後にドイツの医療を模範にして、日本の医療制度が作られました。ドイツにかかわらずヨーロッパの医療は中世の時代から修道院で始まった実践医療でありましたが、日本政府が招へいしたドイツ人医師の中でも際立った功績をあげた内科医 E.ケンパーと外科医 J.スクリバらは日本に医学校を設立しました。その為に日本にはドイツの医療は学問中心という風に考えが浸透しており、その流れで日本の医療も学問中心の医療となり、今日まで至っています。

しかし、かつては日本では学問中心とされていたドイツの医療は何度も制度を改善し、患者中心の臨床医療に力を注ぎ、今では高く評価される医療制度にまで成長しています。

ドイツの医療教育

今でこそ日本でも研修医への教育に力を入れていますが、ドイツでは1989年から「初期臨床研修」がありました。前述したように「患者中心の考え」があるため、早い時期から臨床の現場に入ります。医学部6年の課程を終えて国家試験に合格すると医師の仮免許に相当する資格が与えられ、見習い医師Arzt im Praktikum(AiP)として18ヶ月臨床初期研修を受ける必要がありました。

ドイツでは総合的に診察ができないといけないという考えから「初期臨床研修」が実施されていましたが、2004年に日本が「新医師臨床研修制度」が義務化された頃、くしくも2004年10月以降にドイツの「初期臨床研修」は廃止されています。
主な理由としては、初期研修医が安い労働力として組み込まれている状況と、さらに医療教育にあたり臨床教育を重視した教育改革が進んできたことにより、「初期臨床研修」の存在価値が薄れ、できるだけ多くの症例数をキャリアの早い段階から経験することが重視されたため、結果として制度は廃止されることに至りました。

現在、日本の「新医師臨床研修制度」はすべての医師に対して必須の制度だが、ドイツでは医師国家試験に合格した後は進みたい専門分野を自らが決め、専門医を目指してまずはアシスタントとして経験を積むことになります。日本と違いドイツでは入職一年目から正職員として扱われるために給料、社会保険などはすべて支払われるのみならず、有給休暇も最低24日は保証されます。

ドイツにおける医療教育は、「初期臨床研修」を実施していた頃のジェネラルに幅広く医学を習得する教育から、専門医を増やす教育へ方向転換しています。もちろん総合医(ジェネラルフィジシャン)を育てるプログラム自体はありますが、専門医になるか、ジェネラリストになるか早い段階で医師自身が決める流れになっています。ジェネラリストを選択する医師は近い将来開業医となりホームドクターを目指します。

ドイツの医師の働き方から学べること

基本的な考えになりますが、「能率よく働くためには、能率よく休むこと」が必要です。医療に限らずドイツでは「働くときは働く、休む時は休む」ことが徹底され、日曜日は休息日のため、土曜日14時からお店も閉店し、国を挙げて働き方改革を実行しています。日曜日に私が洗車、芝刈りをしているだけで近所の方に「休息日は休まないと」と(本気ではありませんが)怒られる経験をしたこともあります。

そして、ドイツでは1963年に施行された「連邦休暇法」により、毎年最低限24日の有給休暇を設定することになっており、多くの企業は30日の有給休暇を規定しています。私は当時はこれほどの長期休暇を経験したことがなかったので、休暇後、職場に戻ったら自分の席がないのではないかと心配するほど、最初の頃は戸惑ったことを覚えています。

医師として数多くの業務があるのに、なぜ長期休暇を取得できるのか?
それは、病院を分散せず集約化し、センターの医師数を増やし、フォローしあうことで、オーバーラップして仕事ができる環境にあります。日本では属人的で業務も分散されているため、非効率な働き方が蔓延しているといえます。一方、ドイツでは医療制度や社会全体に合理的な考え方が浸透しているからこそ、このような働き方が実現できているだと実感しています。

日本でも「医師の働き方改革」と言われていますが、まずは意識改革からはじめることが非常に重要であり、医師だけの問題ではなく、社会全体で変わらないといけないと感じています。まずは、「能率よく働くためには、能率よく休むこと」この考えを念頭に、残業をなくすための環境整備をすることが必要とされます。しかし、ただ単に残業を減らすだけでは意味がなく、例えば育児や有給休暇消化のためのサポート体制を充実させるなど、周辺の環境を整えることで本当の意味での「医師の働き方改革」につながると思われます。

<プロフィール>

南 和友(みなみ・かずとも)
ドイツ・ボッフム大学 胸部・心臓・血管外科 永代教授
医療法人社団 友志会 南和友クリニック 理事長・院長
NPO法人ハートtoハート・ジャパン 理事長

1976年にデュッセルドルフ大学胸部血管外科へ留学。その後、ドイツで医師として約30年にわたり心臓治療の第一線でご活躍され、心臓手術数は約2万件、心臓移植は約1,500件の症例を経験。1984年には、ドイツ北部にある世界一の心臓病センターの設立に携わり、外科チームの実働トップとして経験を重ねてきた。日本人では初めて、2004年にドイツ・ボッフム大学永代教授に就任。

南 和友

ドイツでの医療教育・働き方(2)

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