記事・インタビュー
“成功する医院開業”に豊富な実績を持つ開業支援コンサルティング会社の代表者3名が集まり座談会を開催。開業支援のプロフェッショナルの視点から成功する開業について大いに語っていただきました。
開業の実態や基礎知識から、開業準備に必要なこと、そして成功する開業のポイントにいたるまでを、【基礎編】、【準備編】、【活用編】と全3回にわたって紹介していきます。
現在、開業を考えている医師の方々はもちろん、将来、開業医を目指している医師のみなさんも必見です。
第1弾となる今回は、【基礎編】として、開業の現状や、開業の種類、開業に必要なことなど、開業する前に知っておくべき開業の実態と基礎知識をテーマにお届けします。
- 目次
<座談会メンバー>
-第1部【基礎編】-
開業するということ。知っておきたい開業の実態と基礎知識
開業の現状を知る。
開業の種類と傾向、注目されている開業形態について
― 現在、新規開業の件数は増えているのでしょうか? 開業の現状や、近年注目されている開業の形態などについて教えてください。
福井(重):1990年代に病院の廃止や統合が進んだことで、病院の数が減少すると同時に開業する先生も増えていきました。特に、1997年(平成9年)頃から開業ラッシュが始まり、リーマンショックがあった2008年(平成20年)まで続きました。その後は落ちついた状況が続いていましたが、2017年の初め頃から新規開業を希望する先生方の問い合わせが増えてきています。関東圏だけではなく、中部圏も関西圏も同じような状況です。
福井(温):開業には大きく分けて、一から開業する「新規開業」と、第三者がこれまで経営してきた医院を継いで開業する「承継開業」の2つがあります。開業の相談としては「新規開業」がほとんどですが、ここ数年で「承継開業」の相談も増えてきています。ちなみに厚生労働省によると、「個人の診療所開設」件数は、2,800~3,100件となっており、廃院などを差し引いても診療所・クリニックの数は増えています。
福井(重):「承継開業」の相談が増えているのは、やはり団塊の世代にあたる多くの院長が高齢化によって引退する時期だからでしょう。今後も「承継開業」の相談は増えていくと予測しています。
吉村:「承継開業」は既存の医院やクリニックを引き継ぐため、「新規開業」よりも楽であるというイメージを持たれている方もいらっしゃいますが、実は「承継開業」は「新規開業」するよりも大変なんですよね。
福井(温):譲り渡す方、譲り受ける方の立場があり、双方ともお金が大きく関わってくるため利害が少なからずとも生じます。「承継開業」は双方が折り合いをつけながら納得できる条件まで辿り着くまでが大変であり、開業準備に時間がかかる場合が多いです。
吉村:それと、近年の開業の一つの特徴として、在宅医療(訪問診療)を行うクリニックが増えてきていることが挙げられます。その理由として、厚生労働省が少子高齢化社会と圧迫する医療財政に対応するため、医療、介護、予防、住まい、生活支援が一体的に確保、提供できる「地域包括ケアシステム」と、入院医療より医療費を大きく抑えられる在宅医療を推進していることが挙げられます。
開業形態でいうと、地域包括ケアシステムの推進によって「医療モール型開業」が注目されています。医療モールというのは、複数のクリニックが集まり、各クリニックや薬局、さらに介護、福祉施設などが専門性を活かしながら連携することで、患者さんがワンストップでさまざまな医療・介護サービスを受けることができる形態です。
福井(重):診療所が診療所をつくる「分院」や、病院が経営母体となり診療所を運営する「サテライト」も増えてきていますよね。
吉村:サテライトは病院を核に複数の診療所を運営することで患者さんを紹介し合うことができますから、収益基盤の拡充にも有効です。近年では、在宅医療、医療モール、サテライトによる開業が注目されています。
開業すれば誰でも成功する時代ではない!?
― 開業ラッシュによって開業医が増えたことで、開業すれば患者さんがたくさん来る、開業すれば誰でも成功するという時代ではなくなったのでしょうか?
福井(温):昔は開業すればほとんどの方が成功する時代でしたが、現在は誰もが成功する時代ではありません。理由としては、やはり開業医の数が増えたことが挙げられます。数が増えればそれだけ競争も激しくなりますからね。特に関東圏、関西圏などの都市部は競争率が高い傾向にあります。
福井(重):開業ラッシュが始まって競合が増え、2008年(平成20年)頃から開業したら誰でも成功するという時代ではなくなりました。以前は、開業すれば半年以内で黒字化を達成し、成果が早く出ていましたが、現在は半年で黒字化することは厳しい時代です。関東圏において内科で半年以内に黒字化というのは少ないですね。整形外科でいうと、半年で黒字化は50%あるかどうか。私たちに依頼された先生でも1年で黒字化にならなかった例が数件あります。ただし、これは事業計画に沿った想定内のことであり、後にしっかりと黒字化していくため開業の失敗ということではありません。
吉村:私たちへ開業の依頼をいただいた先生の方の開業成功率は100%です。その理由や秘訣はいろいろとありますが、後ほど詳しく説明していきたいと思います。
なぜ開業するのか。その魅力の一つは高収入にある
― 開業する理由については人それぞれだと思いますが、開業する一番の魅力はどこにあるのでしょうか?
福井(重):開業に興味があり、具体的なコンセプトをもって開業を目指している先生と、今の職場にいても先々のポストや給料面が不安である、自分の裁量で仕事がしたいなどの理由で開業を目指している先生がいらっしゃいます。開業を目指すきっかけはそれぞれですが、開業をする理由のなかで大きなウェイトを占めるのはやはり高収入への期待が挙げられます。
福井(温):私は開業を考えている先生方に、「開業するなら給与は最低でも勤務医時代の倍を目指すこと」。そして、「倍の収入は十分達成できます」と言っています。勤務医で手取り1,500万円なら最低ラインとして3,000万円。売上でいえば、内科だったら年間1億円を最低限の目標ラインとしています。
吉村:私たちが関わった開業医の先生方は勤務医時代の倍以上の収入を得ています。
福井(重):収入は勤務医時代の倍が最低ラインであり、3倍、4倍という開業医の先生も多いです。収入の大きさは開業医を目指す大きな魅力の一つですよね。
開業準備の前に必要なこと。まずは開業の全体像をイメージする
― 開業準備を前に進めるために、最低限必要なことは何でしょうか?
福井(温):私はよく開業を希望する先生方に、「開業準備をする前に、まずは基本構想を確立させてください」と言っています。自分はどういうクリニックをつくりたいのか、標榜診療科はこれで、どの場所で開業し、クリニックの面積がこのくらいで、スタッフが何人必要で、数字目標がこのくらいでと、基本構想が具体的であればあるほど開業準備をしっかりと前に進めることができます。
また、基本構想を持つことは開業を前に進めるための高いモチベーションにもなります。開業は、時間やお金、労力がかかる大変なことであり、明確な青写真と高いモチベーションがなければ開業準備を前に進めることは難しいでしょう。
福井(重):開業の全体像をイメージすることは、開業準備を進めるために非常に大切なことですよね。私たちはまず先生の開業イメージを把握するためにヒアリングをしっかり行います。また、先生方に開業の具体的なイメージをもっていただくために開業事前チェックシートも用意して記入していただくようにしています。
吉村:開業事前チェックシートには、たとえば「いつ開業するのか」、「開業場所はどこにするのか」、「建築形態はどうか」、「資金調達や事業計画」などさまざまなチェック項目があり、記入していただくことで開業のイメージを具体化させることができます。「なんとなく、こんなクリニックにしたい」ではなく、少なくとも開業事前チェックシートの一つひとつの項目に対して具体的なイメージをもつことが開業準備に必要となります。
福井(重):最初にそうしたチェックシートやヒアリングシートで開業の基本構想やご要望やお聞きし、お互い確認し合いながら開業準備を進めていきます。そのための面談は10回以上しています。開業にあたって基本構想を決めることはそれだけ重要なことなんです。
福井(温):基本構想がなければ、開業成功の大きなポイントとなる診療圏調査や物件選びもできませんからね。
開業の武器となる専門分野を決める
― 開業する際、どのように標榜科目や医院のコンセプトを決めればいいのでしょうか?
福井(重):開業するにあたっては、当然、何か目玉となるような診療科や専門性があったほうがいいですよね。特に内科を標榜するクリニックは非常に多く、競合との差別化を図るために何か武器となる強みが必要となります。
福井(温):たとえば、近くに内視鏡をしているクリニックがないのなら、内視鏡を武器すれば集患に繋げることができます。ただし、「内視鏡だけしかやらない」というように、一つの医療だけで勝負するのはとても難しいです。
吉村:逆T字型の医療を提供するのが理想だと思います。つまり地域に根差した総合医として幅広く診ながら、競合がどのような医療を軸にしているのかを考慮し、競合にはない特定の専門分野を武器として強みをしっかり打ちだしていくことです。
福井(重):集患に関していうと、以前勤めていた病院から患者さんを連れてくるという考えの先生もいらっしゃいますが、1日30人、1週間で200人の患者さんを以前の勤務先から連れてくることができるかというと、無理なんです。やはり開業したエリアの競合を考慮し、地域住民のニーズに合わせた診療科や専門性を武器として集患していかないと経営は難しいでしょう。
開業の自己資金はいくら用意すればいい?
― 開業する先生方は自己資金を幾ら用意しているのでしょうか?また、自己資金がなくても開業できるのでしょうか?
福井(温):自己資金については、特殊な例で家からの援助も合わせて4,000~5,000万円という方もいらっしゃいましたが、ほとんどの方が1,000万円、多くて2,000万円くらいの自己資金を用意されています。
福井(重):自己資金がなくても開業できないことはありませんが、やはり自己資金がゼロだと借入金がそれだけ増えるわけですから、当然、開業のリスクも増えるわけです。自己資金がない先生には、給与の高い所で2、3年働いて貯めてくださいとアドバイスします。実際に数年後に自己資金を貯めて開業の相談に再び訪れる先生も多くいらっしゃいます。
福井(温):開業医は経営者でもあるわけです。自己資金を貯めることができなければ経営者になれる素質がないということ。年齢が40歳くらいで自己資金がない方は、そもそも開業に向いていないと考えた方がいいかもしれません。
吉村自己資金があるかどうかはとても重要なことです。院長として経営感覚をしっかりもってやっていけるかどうかという大切な判断材料にもなりますし、自己資金がなければ銀行からの融資も厳しくなります。開業するにあたっては自己資金として1,000万円くらいは用意してほしいですよね。
福井 重雄、福井 温彦、吉村 磯孝
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