記事・インタビュー
ドイツはノルトライン=ウェストファーレン州にあるボン大学で循環器内科のフェローとして働いている杉浦 淳史です。
この記事では、日本生まれ日本育ちの循環器内科がドイツでの研究・臨床留学の中で経験するさまざまな困難・葛藤・喜びを、ありのままにお伝えします。
賃貸物件での自炊生活開始
ドイツに来て2ヶ月、ようやく賃貸契約を締結し、自分の家での生活を開始することができました。
ドイツの不動産は売り手市場で日本とは真逆です。数少ない空き物件に入居希望者が殺到し、オーナーが入居者を「選定」します。そのため、住居の見学時はみんな狂ったように物件を賞賛し、ゴマをすりまくります(笑)。僕の留学は2年間という比較的短い期間を予定しているため家具付き物件を探していましたが、5人家族ともなると物件は限られており、最終的には家具なしの物件にせざるを得ませんでした。
ようやく家が決まっても、家具も照明も持っていなかったため、しばらくはダンボールのテーブルにわずかな食器で食事をし、夜は電球一つで勉強する生活でした。写真の食事はそんな状況下で作った粗末なものですが、自炊することでいろいろと良いこともありました。節約できることはもちろん、何よりも温かい食事、特に日本食(特にお米)が食べられることにとても感動しました。
兎にも角にもドイツでの住居探しは予想以上に困難(特に大所帯では)なので、これからドイツへの留学を考えている方は、現地に住む方の協力を最大限に利用して、早めに行動することが重要だと思います。
職場で得たチャンス? ピンチ?
先月まで、僕の病院での仕事は患者のデータベースを作ることと治療の見学でした。相変わらずドイツ語は話せないし何の結果も残せていないことから、日々焦燥感が募っていた気がします。
そんな中、ある日いつもとは異なる特別な治療(著名な弁輪拡大による重症三尖弁閉鎖不全症に対して、二つの異なるタイプのカテーテルデバイスを段階的に使用して治療した症例、これまで同様の治療報告なし)が行われ、治療後にドクターたちが論文執筆の話を始めました。
おそらく僕の同僚が執筆したい論文だったと思うのですが、「ここはいくしかない!」と思い、下手くそなドイツ語でder Chef(循環器内科のボス)に言ってみました。
杉浦:Kann ich den Fall Paper machen?!
(ぜひ僕に症例報告させてください!)
der Chef:…ja, Sie können mit ihm zusammen arbeiten.
(いいよ、じゃあ彼と一緒にやってみて。)
あまりに下手なドイツ語なので、横に居た他の教授が茶々を入れてきたのを覚えていますが、思いが通じたのかOKをもらえました。
その後廊下で、
同僚:Hey Atsushi, willst Du zuerst das Manuscript aufschreiben? Wenn Du Lust hast…
(どうする?もし興味があるなら最初に論文を執筆してもいいけど…)
杉浦:Gerne! In einer Woche werde ich machen!
(喜んでやるよ! 1週間で書くよ。)
同僚:Chef möchte es am diesen Wochenende einreichen.
(Chefは今週末に雑誌に投稿したいみたいだよ。)
杉浦:?!(まずい、木曜日の便で日本に一時帰国だ。今日は月曜日……)
杉浦:OK!! Dann werde ich bis zum Donnerstag schreiben.!
(じゃあ木曜日までに書き上げるね!)
同僚:Ja Super!
(よろしくね!)
このような経緯で論文執筆の機会をもらいましたが、なにせ超特急で書き上げなければなりません。15時〜18時に語学学校でドイツ語を勉強した後、自宅に戻って食事と風呂を済ませて病院に戻り、論文を書いて、駐車場で車中泊。なんとか水曜日に提出しました。
半ば強引にもぎとったチャンスかつピンチでしたが、ここで生き抜くためには「忖度せず自分を主張する」ことが必要だと実感した経験でした。
終わりなき車トラブル
車に関して無知であることと、海外生活に慣れていないことは否定しませんが、2018年のドイツ留学者で、僕ほど車トラブルに愛された人はいないかもしれません(笑)。
「安いから」という理由だけでアラブ系の中古販売業車から購入した2007年製のフランス車。これが不幸の始まりでした。
家族がドイツに来て1週間目、タイヤに釘が刺さりパンク。ATU(自動車工場)に持って行き修理を頼むと、すでにだいぶすり減ってきていたという理由からタイヤを全部交換することに。
翌週、車でケルンに住む友人家族に会いに行く途中、アウトバーンでまさかのエンジンストップ。パニックになる妻。不安そうにじっと見守る子供たち。横を100キロ以上で駆け抜けていく車。幸いその場はなんとかエンジンがかかり、友人宅に到着。楽しい時間を過ごし、夕方になって帰ろうとエンジンをかけようとすると、
「ブルルルルルル」 ……あれ?
「ブルルルルルルルルルルル」 ……まさか?
結局エンジンはかからず、ADAC(ドイツ版JAF)に1時間半かけて来てもらい、いろいろみてもらうもその場では修復不可能と判断され、そのまま友人宅に泊めてもらうことに。
翌日、自宅のあるボンのATU(自動車工場)までレッカー移動。しかしこの日は日曜日。ドイツではどこも営業していないため、さらに月曜日を待ってATUに行って相談すると、「この故障はウチでは直せない」と言われる始末。再度レッカー代を払い正規ディーラーに運び、ようやく修理することができました。
いっそのこと買い替えようともしましたが、ディーゼル車は2019年から通行禁止になる道路があるということで、買取り不可の状態で今に至ります。
「愛車」のハプニングはその後も続き、書き出したら止まらない車ネタですが、痛感したことは以下3点です。
(1)日本車の壊れにくさはすごい。(ドイツ人は口を揃えて言います)
(2)中古車は「正規」ディーラーで買うべき。
(3)車購入には「高度な」交渉力が求められる。
ドイツに来て車トラブルを重ね、車事情には結構詳しくなった気がします(笑)。ちなみに、昨年12月に12万円を支払い車検を通りましたが、翌月にはまたエンジンエラーが出ました。良い方法をご存知な方、ぜひ教えてください。
<プロフィール>
杉浦 淳史(すぎうら・あつし)
ボン大学病院
循環器内科 指導上級医(Oberarzt)
論文が書けるインテリ系でもないのに「ビッグになるなら留学だ!」と、2018年4月からドイツのボン大学にリサーチフェローとして飛び込んだ、既婚3児の父。
杉浦 淳史
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