記事・インタビュー
このシリーズでは、多様な環境で働く若手家庭医・総合診療医が、今考えていることや取り組んでいることを6人の若手医師が熱く語ります。第1話では、家庭医はどのような専門性と、どのようなやりがいを持って仕事をしているかについてご紹介します。
魅力ある家庭医 〜存在を知り、目指すまで〜
「地域の人と共に働く仕事をしたい」。私の夢は、将来を考えるようになった高校生の頃から今も変わることがありません。つまり私の家庭医としての道は、医師、そして家庭医療に興味を持ち始めた時すでに、自ずと定まっていたのかも知れません(笑)
当時はもちろん家庭医療の奥深さについては知りませんでしたが、ある本に書かれていたこの説明(下表)に感銘を受け、家庭医を目指したいと思うようになりました。(かなり珍しい高校生だったと思います)

その後医学生、初期研修医と学びを重ねる中で、先輩方から「将来何科に進むのか?」と尋ねられることが幾度もありました。(皆さんもあったと思います)
「家庭医を目指そうと…」と答えると、
「家庭医なんて何の専門も持っていない」
「内科に進んで開業すれば家庭医になれる」
「そもそも家庭医なんて誰でもできる」という意見を多くいただきました。
こうした意見は家庭医を目指す学生や若手医師なら一度は耳にしたことがあるでしょう。私もその一人で、後期研修から家庭医を目指すことはおかしいことではないのかと“錯覚”を抱くようになりました。
診療科の選択を迫られる初期研修2年目(2014年)、私はかなり悩みました。
このまま内科の専門医を取得して家庭医の道に進むのか、それとも後期研修から家庭医の研修を受けるのか……。
最終的には「家庭医として地域で働き、地域の人と協働して元気な町を作りたい」という当初の想いが私を奮い立たせ、岡山で家庭医療を実践する「奈義ファミリークリニック」へ見学に。そしてそこで「自分の目指す医療を実践している医師の姿」を目の当たりにし、家庭医の専門研修を受ける決意を固めました。
家庭医療の専門研修 ~家庭医は”総合的”に健康問題に向き合います~
私は岡山家庭医療センターで、日本プライマリ・ケア連合学会が提供する「家庭医療後期研修プログラムVer2.0」を受けました。
家庭医の研修は、医学的な知識や技術を身に付けるだけでなく、個別ケアから家族志向ケア、地域の健康増進まで多岐にわたり、これらを診療所や中核病院、小規模病院など、あらゆる環境で経験を積みます。
家庭医の診療(考え方)を、症例を通して考えてみます。
10歳男児が繰り返す喘息発作で母親と来院
発作はステロイド等の治療で落ち着くが、維持療法が途中で途切れてしまう。
母親によると次男(5歳)には発達障害があり、3人目も産まれて手一杯な様子。また父親は喫煙を続けている。

この場合、家庭医として家族を集めて話し合い(家族カンファレンス)をすることで、近くに住む祖父母にも子育ての協力を得たり、発達障害の子の療育的な関わりを支援したり、新たな子どもを機に禁煙したいと思っている父親を禁煙外来に誘ったりすることができるでしょう。また喫煙する親の子どもには将来喫煙するリスクもあります。家庭医として小学生に喫煙予防の授業を行うこともできます。
人の中には生物医学的な階層と社会的な階層があり、その両面から影響を受け、思考や感情、行動がなされます。生物心理社会モデル(図)は、これらを理解するのに役立つでしょう。家庭医は臓器だけでなく、患者個人のその背景にまで目を向けます。実際に、複雑な問題を抱えた患者さんは多く存在し、疾患だけでなく様々な視点からアプローチできるのが家庭医の1つの専門性であると考えます。
私の今後の展望 〜若手家庭医としてできること〜
家庭医は以前と比べ認知度が向上し、目指す人が多くなったように思います。その一方で、専門医制度の変革に伴い、選択する上で悩んでいる人が以前より多いように感じられます。一人の若手家庭医として、これまでの過程から感じたことと、今後の展望について2つ述べたいと思います。
(1)家庭医は魅力的だということを知ってもらうサポートをしたい
私自身、家庭医になりたいと思ってから実際にその道に進む決心をするまでには一苦労ありました。しかしこの世界に入り、家庭医は「家庭医療学」という学問に基づいた専門性を有していることを学びました。学問体系として提供・確立するために尽力するとともに、家庭医の魅力を学生・研修医に伝え、自分が1つのロールモデルとなれるように取り組んでいきたいと思います。
(2)地域住民の健康のために力を尽くしたい
家庭医として研修期間も含めると4年目。今年から勤務地である岡山県奈義町に居住地を移しています。家庭医として質の高い診療を心がけるだけでなく、実際にそこに住むことで、より地域のことを知り、多くのことを協働できるのではないかと考えています。そのような地域密着の関わりから、予防・健康増進活動にまで取り組んでいきたいと思います。
私にとって家庭医とは、患者さんや家族の人生、そしてその地域の歴史に寄り添える仕事です。寄り添う分、大変なこともありますが、自分自身も医師としてだけでなく一人の人間として成長できますし、これほど魅力的でやりがいのある仕事はないと思います。もし家庭医を目指したい、転向したいと思う人がいれば、ぜひ一緒に盛り上げていきましょう。
[参考文献]
1) 葛西龍樹(著):家庭医療 家庭医をめざす人・家庭医と働く人のために,株式会社ライフメディコム,東京,2002.
2) Engel GL:The clinical application of the biopsychosocial model. Am J Psychiatry, 137(5) :535-544, 1980.
3) 草場鉄周(編):家庭医療のエッセンス Generalist Masters⑦,カイ書林,東京,2012.
<プロフィール>
「若手の家庭医/総合診療医、どーしてる?なにしてる?」
山内 優輔
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