記事・インタビュー
民間医局が、専攻医・研修医・医学生におすすめ書籍を集めた「医書マニア」。
医学書を読むのが大好きな先生方より、医学書のレビューをお届けします。
レビュー:三谷雄己先生(踊る救急医先生)
初期研修医での救急科ローテが始まったばかりの後輩たちから必ずといっていいほど聞かれるのは、「救急の教科書って何を買ったらいいでしょうか…?」という質問です。
研修医の2年間の主戦場である救急外来…誰もが最初は不安です。
私も研修医時代はまったく同じ気持ちでした。
その際に頻度の高い内科系の救急分野の初めに読むべき一冊として、おすすめするのがこちらです。
あまりに有名な参考書であり、日本中の研修医が必ず一冊は持っているのではないかというほどです。
2024年10月、ついに9年ぶりの改訂版が出版され、より最新の救急外来診療にフィットした内容になりました!
本書を通じて救急外来診療を学べば、今後様々な症候でERに搬送される患者さんに自信を持って対応できるようになります◎
また、本書の第一版を持っているという先生方も多いと思いますが、後半では改訂に伴い何が変わったのかについても触れていきます。
私自身、研修医時代から白衣のポケットに入れ、今でも診療後に読み返しています。
本書をボロボロになるまで使い込んだ私だからこそできるレビューだと勝手に自負しております!
これからご覧いただく医学書レビューは、これまで研修医時代に100冊以上の医学書を読み、
その中でもオススメの医学書のレビューを月5冊以上書いている、ある救急科専攻医のレビューです。
医学生や研修医、各分野の初学者の気持ちが痛いほどわかるので、
皆さんにぜひこの一冊を手に取ってみたいと思っていただけるようなレビューを心がけています!
- 書評『救急外来 ただいま診断中! 第2版』
1.本書のターゲット層と読了時間
【ターゲット層】
初期研修医1年目(特に前半)
【推定読了時間】
12〜14時間程度
2.本書の特徴と本書で学べること
本書は、様々な名著を出版され、大人気の講師として有名な坂本壮先生が、
●初めてのことばかりで何もわからない研修医全員を、救急外来で共に戦える仲間へと成長できるように教育したい
との思いで制作された一冊です。
本書を読むことで学べる項目の中から特徴的なものをピックアップすると、このようになります。
●合計24もの症候別に救急外来で必要な知識を体系的に習得
例)意識障害・失神・心筋梗塞・CPA他内科救急のメジャーな症候を網羅
●豊富な鑑別や病態の解釈、スコアリングの必要性など救急医の思考パターン
例)意識障害をきたす疾患をいくつ言えますか? Well’s criteriaを付けるべきタイミングは?
●初期研修医が陥りやすい救急外来でのピットフォールを上級医との楽しい対話形式で疑似体感
例)痙攣している患者さんがやってきたら、まず何をしますか?
●論文や成書だけでは学びきれない、現場で使いやすいclinical decision ruleも多数掲載されており、明日からの救急外来での業務にすぐに生かせる思考力
例)BZ系で止まらない痙攣重積…どうしましょうか?
そもそも痙攣重積と臨床上判断する基準は大きく2つあります。わかりますか?
このように、本書を読み進めるうちに、今後何科に進んでも大事な基礎となる救急外来の基礎を学習することができるでしょう。
3.個人的総評
この一冊を読まずして救急外来での仕事は始められないと思います!
各症候についての解説が充実しており、特に初学者向けにわかりやすく構成されています。
初見では文章量が多く感じるかもしれませんが、内容は全て実践に直結しており、一つも無駄な文がないと感じます。まさに、噛めば噛むほど旨味が出る本といって良いでしょう。
そして、この一冊を通して、坂本先生の哲学かつ救急外来診療の鉄則として、
- Hi-Phy-Vi(病歴聴取-身体所見-バイタルサイン)を漏らさず評価すること
- 時間軸を意識したマネジメントをすること
- 3種の神器(血液ガス・エコー・心電図)の解釈が重要であること
- Common is common! 疫学を意識した検査前確率の推定
- まれな疾患を探すシマウマ探しをしてはならない
といったアプローチがどの章にも貫かれています。
個人的には、こういった救急外来診療の要点をまとめた医学書は数多く存在しますが、その中でも研修医の抱きやすい疑問に寄り添い、それを丁寧に解説している点、そして検査前確率を意識するような疫学が必ず載せられている点が、本書の素晴らしい特徴の1つだと感じています。
また、その疫学が実臨床につながりやすいものをしっかりとピックアップしていることもポイントだと感じます。
さらに、症例提示や対話形式のパートが豊富に掲載されています。
本書を読み込むことで、救急外来診療の鉄則を全ての症候において追体験できるのが魅力だと感じました。
あくまで個人的な印象ですが、内科救急でよく遭遇する症候が網羅されている一方、外傷やマイナー科の分野についてはやや手薄な症候もあると感じました。
そちらは他の参考書も参考にして知識を肉付けしていくことをお勧めします。
以上、通読して救急外来診療について学んだ後でも、半年後や1年後はもちろん、今後医師として診療に当たる上で一生活用することができる一冊なのではないでしょうか。
【参考】
ここからは第一版と第二版の両方を読んだ上で、どんな点が変わっているのかを解説していきます。
そして「どこが変わったからこそ、第一版を持っている先生方にもおすすめなのか」という点について少し言及したいと思います。
まずは何と言っても、この9年間にあったエビデンスのアップデートがなされている点は強調したいです。
医学の進歩とともに、アナフィラキシーや敗血症のガイドラインも改定され、敗血症の診断基準なども大きく変わりました。
第二版ではそれらについてわかりやすく述べられているのはもちろん、これまでの歴史や研究の流れも盛り込まれています。
例えばEGDTなどの現在はもう行われなくなった診療の概念など、現在のスタンダードに至るまでの過程に対しても理解が深まりやすく感じました。
加えて、最近わかった2024年7月の論文なども掲載されています。
例えば、高カリウム血症に対するカルシウム製剤の投与理由は「膜電位の安定化が致死的不整脈を防ぐというところに直結するわけではない」といった情報は印象的でした。
坂本先生が改訂の作業をいかにギリギリまで行っていたかということが伝わってきます。
そして、この9年の間に疫学や頻度が変わった中毒診療をはじめとするその他の内容も含め第一版の22章から24章に追加されており、文章の内容も大きく変わっています。
また、かなり細かいことではありますが、失神や痙攣のイメージしづらい患者像を意識する上でのわかりやすいイラストなども追加されています。
本書は、前作に比べても、あらゆる点でブラッシュアップされており唯一無二の価値がある本であると痛感しました。
4.おすすめの使い方・読み進め方
●まずは心して集中し、一冊通読する
●その後は救急車の触れ込みを聞いて該当する症候を軽く一読、初療の後にもう一度読む
●初療で悩んだこと、上級医に教えてもらったこと、自分で調べたことをこの一冊に集約化して自分だけの救急外来バイブルに!
個人的におすすめの使い方を紹介します。
セオリー通りの使い方ではありますが、手を抜かず初療の前後で本書を読むことでかなり理解が深まります。
分量はかなり多くなりますが、一日にどれぐらいページを読むかというところを目標に置きながら、1週間から2週間程度かけて通読することは可能なのではないでしょうか。
「救急外来診療の合間」や「当直業務中の隙間時間」、さらに「仕事から家に帰った後の1時間」など、そういった細かな時間を少しずつ当てて、救急外来診療における全体像をまずは薄くペンキで塗り固めるかのようにアップデートすることができると思います。
その後は、日々出会う症例ごとに、自分だけのバイブルにしていきましょう。
例えば尿管結石の患者さんを経験した場合は、それらをフィードバックとして自分で証拠を読み直しながらテキストに書き込みをしたり、付箋を貼ったりという過程を必ず踏みましょう。
これらを行うことで、インプットとアウトプットを繰り返し続けることができ、知識が一生物の、盤石なものになっていきます。
5.まとめ
本書は内科系救急外来診療を学ぶ研修医必読の医学書の1つである!
まとめると、本書は内科系救急外来診療について、深く学ぶことができる全ての初期研修医に本当におすすめの一冊です。
この一冊を通じて救急外来診療を学ぶことで、今後内科系の初期診療のようなチャンスが訪れた時に自信を持って取り組むことができます!
今後の学びや業務をより良いものにしたい方にはぜひ手に取っていただきたい一冊です◎
以下に要点や基本事項をまとめましたので、購入する際にはぜひ参考にしていただければ幸いです。
6.医書レビュー
この記事を読んで参考になった方、面白いと思ってくださった方は今後も定期的に記事を更新していきますのでよろしくお願いいたします!
みなさまのリアクションが今後の記事を書くモチベーションになります。
★今回の書籍以外にも、踊る救急医先生の医学書レビューはこちらのページで読むことができます!
想定読者や各診療科ごとにわかりやすくまとめられているので、興味がある方はぜひ参考にしてみてくださいね。
詳細はこちら≫https://dancing-doctor.com/2021/03/31/review-reader/
<プロフィール>
三谷 雄己(みたに ゆうき)先生
救急科専門医
日本医師会公認健康スポーツ医
JATEC・ICLSインストラクター
立派な救急医を目指し、指導医の先生方に教えていただきながら日々修行させていただいています。
信念である「知行合一」を実践できるよう、臨床で学んだ内容をアウトプットすることで心掛けております。
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