記事・インタビュー
大阪大学名誉教授
仲野 徹
#13
ハーマン・ポンツァー(著)、小巻 靖子 (翻訳)/草思社 発行
ダニエル・E・リーバーマン(著)、中里 京子(翻訳)/早川書房 発行
田畑 泉(著)/講談社 発行
仲野堂、じつは「ダイエット入門」の達人ですねん。数多くのダイエット法を試み挫折を繰り返した後、数年前に画期的なダイエット法を発表! ほとんど知られてまへんけど、健康雑誌『壮快』で特集を組んでもろたこともあるほどです(2019年7月号)。
結局のところ摂取カロリーを減らすしかない、という当たり前すぎる結論に基づき、常に自分はダイエットをしているのだと自覚するのが大事。そのために、利き手の親指の爪に、何でもええからダイエットをしているということを思い起こさせるマークを付ける、という画期的(?)な方法だす。自制心に頼る方法なんで、誰もが痩せられるっちゅう訳ではありませんけど、効く人には効きますでぇ。
ダイエットをするなら、食事制限と運動とされてますが、運動によるカロリー消費はたかが知れとります。それに、運動したら、つい食べ過ぎてしまいますやろ。そやから、とにかく摂取カロリーを減らさなあかんというのがこの方法のキモやったんです。基本的には正しいんですけど、今回の一冊目『運動しても痩せないのはなぜか 代謝の最新科学が示す「それでも運動すべき理由」』で、衝撃的な事実が次々と突きつけられてしまいましてん。前置きが長くなりましたけど、まずはその本を。
著者のポンツァーは、人間のエネルギー代謝と進化の研究者である。類人猿や人間-先進国の普通の人たちだけでなく、狩猟採取民であるハッザ民族の人たちや、ツール・ド・フランスや極限のウルトラマラソンに参加するアスリートまで-の代謝についての研究を行ってきた。用いる方法は「二重標識水法」だ。水素と酸素、両方の同位元素で標識した水を摂取させ尿中への排泄量を調べる。そうすると、二つの元素の代謝過程の違いから、個体レベルでの代謝を測定することができる。昔は代謝を調べるとなると、呼気中の二酸化炭素を測定したりして大変やったのに、こんな簡便な方法が開発されているとは知らなんだ。
その結果分かった何よりも驚くべきことは、「たとえ運動しても1日の総消費カロリーは増えない」ということだ。運動しても痩せないのは、先に書いたように、運動による消費カロリーが知れているからというのが常識だった。しかし、ポンツァーの研究成果は、それどころではない、運動しても消費カロリーが増えることはないというのだからすごすぎる。
そんなバカなことあるはずないと思われるかもしらんけど、事実なんだから仕方がない。おそらく、食欲や代謝を調節する中枢である視床下部がその辺りをコントロールしているのではないかと説明されている。よかった、ほなら運動せんでもええんや、という考えはあかさたな、ではなくて、浅はかである。逆に考えると、運動しない人は、運動以外でカロリーを消費しているはずだ。それが炎症を引き起こし、さまざまな疾患が生じてしまう。だから運動せんとあきませんのやで、というのが結論。
ハーマン・ポンツァーの師匠はダニエル・E・リーバーマン、人類の進化と運動の関係というユニークな研究を展開しているハーバード大学教授である。その著書、ベストセラーになった『人体600万年史』(上・下、早川書房文庫)は、この連載の第一回目でも紹介したから記憶されている方もおられるだろう。さすがはリーバーマン、新作『運動の神話』も抜群だ。残念なことに、人間はそもそも運動があまり好きではない。しかし、狩猟採集民として動き回りながら生活せざるを得なかった百万年以上の長い期間に、運動しなければならない体へと進化してしまった。だから運動せねばならん、というのが超かいつまんだまとめである。上下二巻と大部だが、猛烈に面白いので一気に読める。
では、どのような運動を? ウォーキングのような軽めのものでもいいが、ならんで「高強度、短時間、間欠的」な「タバタトレーニング」も有効であることが紹介されている。これは立命館大学・スポーツ健康科学部の田畑泉氏が開発された方法なのだが、全く知らなかった。それをご自身が紹介する『1日4分 世界標準の科学的トレーニング 今日から始める「タバタトレーニング」』も、ごく最近に出版された。まぁ、年寄りがこんな高強度な運動をしたら体を壊しそうやけど。
どないです? 健康に過ごすには、体重やダイエット以前に、とにかく運動が必要っちゅうことですわ。それが、人類が進化の末にたどり着いた宿命やからしょうがおまへん。ということなんで、ちゃんと運動しなはれや。ほな、また。
今月の押し売り本
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仲野 徹
隠居、大阪大学名誉教授。現役時代の専門は「いろんな細胞がどうやってできてくるのだろうか」学。
2017年『こわいもの知らずの病理学講義』がベストセラーに。「ドクターの肖像」2018年7月号に登場。
※ドクターズマガジン2023年2月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
仲野 徹
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