記事・インタビュー
はじめに
グラム染色は救急外来、入院患者、内科・外科領域を問わず感染症診療を行う医師として必須のスキルです。しかしコロナ禍でそれを実践する、学ぶ機会が減ってしまい、自己学習しにくい分野だと思います。グラム染色の原理、形態的な菌の分類、解釈の仕方、得られた情報を実臨床へ活かすポイントなどを初学者の皆様に視覚的にわかりやすいお勧めの3冊を選ばせて頂きました。
- 【JACRAおすすめ書籍】~グラム染色編 オススメ医書3選~
1.第3版 感染症診断に役立つグラム染色―実践 永田邦昭のグラム染色カラーアトラス
本書の特徴 |
![]() 総論と各論に分かれており、総論では塗抹標本の作製やグラム染色をきれいに染めるコツなどが、各論では実症例をもとに実際のグラム染色の高質な写真が多数掲載されています。そのため実際に見たことがなくても、本書を読むことで視覚的に理解することができます。各菌の特徴、形態的な鑑別ポイントなども丁寧に記載されており、初学者から感染症診療を専門としている医師まで幅広く学ぶことができます。さらに、本書の素晴らしい点は、グラム染色だけではなく培地上のコロニーの写真も豊富に掲載されているため、連続的な視点で実臨床の微生物検査の流れを追体験できる点です。 |
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基本情報 |
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本書のおすすめの使い方 | 電子カルテ上の培養結果を確認して終わるだけでなく、担当患者のグラム染色・培地上のコロニーを自施設の微生物検査室で実際に見て、本書のグラム染色の写真とも照らし合わせながら繰り返し学ぶことで、グラム染色や培地上のコロニーの特徴など微生物検査に対する理解が深まると思います。初期研修医の先生方は本書に記載されている全ての菌や微生物を1から覚えるよりも、自分が担当した症例の菌や微生物を1つずつ本書で調べて勉強していく方が効率的だと思います。 |
評価 | ![]() |
購入先 |
2.グラム染色道場2 菌も病気も染め分けろ!
本書の特徴 |
![]() 症例ベースで検体別(喀痰、胸水、尿、血液、腹水、胆汁、生殖器、糞便、髄液、皮膚・軟部組織等)に学ぶべきグラム染色、微生物検査のLearning PointやPitfallが記載されており非常に読みやすいです。本書は、グラム染色の菌の形態的特徴を食べ物に例えてわかりやすく分類されている点や、誰もが一度は悩むであろうコラムが特集されており、感染症が苦手な研修医の先生方や多職種の方々にも理解しやすいように工夫されている点が良いと思います。Teaching Pointも明確なので、本書を読むことでグラム染色だけでなく+αを学ぶことができます。 |
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基本情報 |
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本書のおすすめの使い方 | 担当患者のグラム染色、微生物検査をオーダーし結果を確認するだけでなく、本書を通して検体別のTeaching PointやPitfallを学べばより理解が深まると思います。著者による微生物の視点からの解説は、独学では決して学ぶことができない内容であり、コラムごとに初学者も読みやすい内容になっているので、これから感染症診療を学ぶ研修医の皆様はぜひ一度通読して頂きたいです。 |
評価 | ![]() |
購入先 |
3.感染症ケースファイル―ここまで活かせる グラム染色・血液培養
本書の特徴 |
![]() 沖縄県立中部病院の先生方が実際に診療した症例をベースにケースカンファレンス方式で特集されています。症例は病歴や身体所見、画像検査などの情報が豊富であり、グラム染色・血液培養を中心とした微生物検査により原因微生物を推定していること、抗菌薬選択の根拠も明確に記載されています。当時、初期研修医1年目の私は本書を読んで目からウロコが落ち、本書で学んだことを活かして実臨床に励んだことを今でも鮮明に覚えています。 |
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基本情報 |
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本書のおすすめの使い方 | 本書はケースカンファレンス方式であり、感染症に対する明確な考え方が示されています。初期研修医のうちから本書のような素晴らしい本を読むことで、病歴や身体診察の大切さはもちろん、感染症診療におけるグラム染色・血液培養の大切さを痛感できる1冊です。呼吸器感染症、皮膚軟部組織感染症、尿路感染症、消化器感染症、血管内感染症、骨関節感染症、手術部位感染症、中枢神経系感染症などの各論で具体的なケースを紹介しているため、読みやすいと思います。救急外来や病棟診療を行う研修医の先生方へ、ぜひ一読することをお勧めします。 |
評価 | ![]() |
購入先 |
まとめ
感染症診療において原因微生物を推定することは非常に重要であり、簡便・迅速に行えるグラム染色は微生物の情報を知るために必須のスキルです。しかし、グラム染色に関してはここで紹介したような素晴らしい書籍が多数ありますが、研修医の先生が独学で全てを学ぼうとしても正直難しいと思います。私が研修医の時もそうでした。頑張って座学で菌の名前を丸暗記してその菌の特徴を掴んだつもりでも、学んだ情報を実臨床ですぐに活かせるわけではありません。これから感染症診療の勉強をはじめる研修医の先生方は、微生物や抗菌薬の勉強だけでなく、まずは担当患者、家族からの病歴聴取や丁寧な身体診察を怠らずに何度も繰り返し行い、鑑別疾患を挙げアセスメント・プランを考える内科診療のトレーニングをお勧めします。
担当患者のグラム染色、微生物検査を提出した際には電子カルテ上で結果を確認して終わるのではなく、ぜひ自施設の微生物検査技師とコミュニケーションを取り、自分の眼で顕微鏡を使って標本を見てみること、菌の同定や微生物検査に関してわからないことがあれば教えを乞うこと、迷惑にならない範囲でグラム染色をやらせてもらうことをお勧めします。研修医室で座学で学ぶだけでなく、自ら動いて多職種の方々からたくさん学ぶ姿勢を身につけましょう。良好なコミュニケーションは担当患者のアウトカムの改善に繋がります。
<プロフィール>

長谷川 雄一(はせがわ・ゆういち)
所属先:株式会社麻生 飯塚病院
専門科目:総合診療科、感染症科
2015年度旭川医科大学卒業。
北海道の砂川市立病院で初期研修、株式会社麻生 飯塚病院 総合診療科後期研修終了。2019年度チーフレジデントを経て、2021年度より株式会社麻生 飯塚病院感染症科所属。日本チーフレジデント協会(JACRA)所属。
長谷川 雄一
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