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2022.05.25

JACRAおすすめ書籍 ~駆け出し研修医オススメ医書3選~

【JACRAおすすめ書籍】~駆け出し研修医オススメ医書3選~

はじめに

研修医にとって、医師として成長するためのノウハウは、ぜひとも習得したいものだろう。しかし研修を乗り切るためのスキル、へこんだところから立ち直るスキルも同じくらい重要だ、というのが私からのメッセージである。良いことばかりでないのが研修医生活なのだ。
この3冊によって、まずは医師としての成長に欠かせないプロフェッショナリズム=「理想」を、次に研修医生活のリアルとの戦い方・考え方=「現実」を、そして最後に医師としての自信がなくなってしまったときのヒント=「救済」を学んでほしい。
図にするとこのようなイメージだ。自分は今どのモチベーションステージにいるのかを考え、その番号の書籍から手に取って頂きたい。
【JACRAおすすめ書籍】~駆け出し研修医オススメ医書3選~

【JACRAおすすめ書籍】~駆け出し研修医オススメ医書3選~
    1. 1.医師は最善を尽くしているか~医療現場の常識を変えた11のエピソード~
    2. 2.研修医のための人生ライフ向上塾!
    3. 3.みんな、かつては研修医だった。医師が答える医師たちの悩み
    4. まとめ

1.医師は最善を尽くしているか~医療現場の常識を変えた11のエピソード~

本書の特徴

この本は医療におけるパフォーマンスについての本である。
医師の仕事とは、微妙な症例に診断をつけることや技術を磨くこと、他人に分かりやすく説明できることだ、と思っているとしたら、それは間違いなのだ。
医師である私たちは、ありとあらゆる想像を超える障害と向き合いながら、進歩し、改善していかなければならない。平均でいることは恥ずべきことではないが、常に前進する姿勢、平均的(平凡)な発想にとどまることなく平均に落ち着かない姿勢が重要なのだ。
本書は医療で成功するための3つの中核「勤勉さ」「正しく行うこと」「工夫」について11のエピソードとともに解説してくれている。それらは医師のプロフェッショナリズムにもつながる内容だ。
このように本書には、私たち医師が「最善を尽くす」ために、常に心がけるべきことが示されている。それが、最良の医師にはなりたいが、どうすればいいのか分からないと思っているあなたに、本書をおすすめしたい理由の1つである。
そしてこの本をおすすめしたいもう1つの理由が「あとがき」である。そこで著者は読者に向けて「筋書きにない質問をしなさい」「不平を漏らすな」「何かかぞえろ」「何か書け」「変われ」と5つの提案をしている。これらは、平均的(平凡)な発想にとどまることなく、常に前進するようなポジティブな逸脱をするためのものであるので、ぜひ「あとがき」まで堪能してほしい。

基本情報
  • 編著者:アトゥール・ガワンデ
  • 出版社:みすず書房
  • 発行年月日:2013/7/19
  • ページ数:272
本書のおすすめの使い方 たとえ診療科配属1日目の初期研修医であっても、臨床現場という舞台の上では、あなたは医師免許を持った立派な医師であり、プロフェッショナルなのだ。あなたの行動は医学生や他の研修医だけでなく、患者、患者家族、スタッフにまで常に影響を与えているということを忘れてはならない。プロフェッショナリズムは医師人生の哲学ともいえる普遍的な知識であり、その知識がプロとしての行動を、そしてプロとしての習慣を生む。
では、プロフェッショナルとして求められる姿勢とは一体どういうものなのか? 本書はそのヒントを与えてくれる1冊であり、これからはじまる長い医師人生のスタートラインを切った研修医、そしてこれからスタートラインを切ろうとしている医学生にこそ、手に取ってほしい1冊である。
あなたは医師として、この先数々の困難に立ち向かうことになるだろうし、答えなんてない困難とも立ち向かわなければならない。そのとき頼りになるものこそ、自分のプロフェッショナリズムなのだ。本書はその拠り所となる1冊である。
そして診療所や病院に勤務する医師としてだけでなく、様々な医師としてのキャリアを積みたいと思っているあなたにもおすすめの1冊である。活躍していくあなたにこそ前述した「ポジティブな逸脱をするための提案」の5つのメッセージを贈りたい。
評価 医師は最善を尽くしているか~医療現場の常識を変えた11のエピソード~
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2.研修医のための人生ライフ向上塾!

本書の特徴

本書は精神科医である著者が、初期研修医に向けてストレスマネジメント法やライフハック術を紹介してくれる1冊である。
本書はまず「研修生活、基本のキ編」として、健康のために睡眠環境を整える大切さや、同期と仲良くすることの重要性から解説してくれている。それから、4月にありがちな“こじらせ”との付き合い方、研修の理想と現実のギャップによるリアリティーショック、研修1ヶ月をすぎる頃に突如襲いかかるゆるい辛さ、いわゆる「5月病」との付き合い方まで記載されている。研修医の“ライフ(人生・生活)”についてここまで掘り下げているのは、本書ぐらいかもしれない。
その他の構成は、多職種とかかわる医師だからこそより重要になる「対人コミュニケーション編」、新社会人のプロフェッショナルとして意識しておくべき「仕事論編」、そして今だけに集中するのではなく、初期研修が終わった後5年、10年のキャリアに思いを馳せる「これからのキャリア編」となっている。
読後にはきっと、今までの自分自身の行動を振り返り「やってしまっているな」と(ちょっぴり)恥ずかしくなるかもしれないが、それ以上に、うまく言葉にはできない心のおもり、肩の荷のようなものがスッと下りるような安心感に包まれるだろう。ほっと一息ついて、明日からの研修を楽しもうと思える1冊である。

基本情報
  • 編著者:鈴木 瞬
  • 出版社:日経メディカル
  • 発行年月日:2019/3/23
  • ページ数:264
本書のおすすめの使い方 初期研修医になるということは、誰にとっても相当ストレスである。
つまり「変化」というものは、少なからずストレスを与えるものなのだ。
考えてみてほしい。昨日まで大学生だった自分が、ある日突然、新社会人になるばかりでなく、医師という役割を与えられ、慣れない診療や手技の数々、看護師など多職種とのコミュニケーションや、上級医との付き合いなどなどが降りかかってくるのだ。はじめのうちは成功体験以上に失敗体験も積み重なり、鬱々とした気持ちを抱えてしまっている研修医も少なくはないだろう。
例えば「低ナトリウム血症の鑑別」などといった臨床疑問のほとんどは、上級医からすすめられた医学書にきっと答えが載っているだろう。では、自分の抱えているストレスへの対処法はどうだろうか。もちろん医学書には答えはおろか、ストレスのスの字も書かれていないことだろう。
しかし本書にはその答えが載っているのだ。
「研修医生活がうまくいっていないな」「ストレスを感じているな」と少しでも思っているならば、ぜひ本書を手に取ってほしい。
本書ではストレスとの付き合い方はもちろんのこと、研修医生活を上手に送るためのフレームワークを教えてくれている。
また、筆者が読者にフランクに語りかけるような文調のため、医学書のようなハードルの高さを感じずにスッと読むことができる。だからこそ、疲れているときでもちょっとへこたれそうなときにも、読みやすい1冊となっている。
評価 研修医のための人生ライフ向上塾!
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3.みんな、かつては研修医だった。医師が答える医師たちの悩み

本書の特徴

本書は、医師が陥りがちな「悩み」について、まるで信頼する上級医へのお悩み相談のように、1問1答形式で私たちにヒントを与えてくれる。
「コンサルテーションがうまくいかない」「患者さんに治療の必要性を理解してもらえない」という医師の仕事に関わる悩みもあれば、「上級医に理不尽に怒られて、やり場のない思いだ」「興味のない科のローテーション中はやる気が出ない」など、「あるある」でどうにかしたいが、どうすればいいのか分からない悩みについても幅広く取り上げている。それだけではない。ワークライフバランスという言葉もあるように、あくまでも医師というのは、自分を表す一面に過ぎないのだ。だからこそ「家族が忙しさに理解を示してくれない」「一緒に時間を過ごす友人がいない」という悩みも生まれる。本書はこのような悩みについても取り上げている。
それでは実際、どのように、そういった悩みに答えているのか。1つ例を挙げると「看護師さんが指示を聞いてくれない」という悩みに対し、著者は、絵本『アバドのたのしい音楽会』からある言葉を引用している。「(中略)音楽的“対話”のある伴奏とは、その会話を感じ取り、受け入れ、その神秘的な意味の端々まで完全に理解することなのだ。音楽においても日常生活においても、ほかの人の言うことに耳を傾けることが最も大切なのだ」と。そこに、演奏者を率いるリーダー、つまり指揮者であったアバドのエピソードを交えながら、「周りの声に耳を傾け、持っている想像力を働かせ、働きやすい環境を作っていくことの重要性」について説いてくれている。
著者は本書を「こころ」の処方箋と例えている。だからこそ本書を教科書のように通読するのはおすすめしない。目次を開いて自分の悩み(=症状)に近いものを選び、そこから自分に最適な治療法(=ヒント)を見つけ出してほしい。

基本情報
  • 編著者:柳井真知
  • 出版社:金芳堂
  • 発行年月日:2020/9/10
  • ページ数:256
本書のおすすめの使い方 思い返してみても私の初期研修医時代は学びあり笑いあり、そして涙ありの特別な時間であった。うまく診断できたこと、治療がうまくいったこと、そして何よりも患者から受け取った感謝の言葉の数々が今でも成功体験として心に残っている。
もちろんそれ以上に、失敗体験や困難もあった。患者にうまく病状説明ができなかった、生命維持も難しい状況で、患者家族に「できることは何でもしてください」と言われ困ってしまった、指導医に叱責されたなどなど、思い返せばきりがない。
今となってはそのすべてがあったからこそ、医師として成長できたと建設的に捉えてはいる。しかし当時の私は、失敗が重なると失意のどん底に沈み、医師としてやっていく自信をなくしかけたものだった。
この本は、昔の私と同じように様々な困難に立ち向かい、悩みや不安を抱え、少し疲れてしまった、もしくは医師としてやっていく自信がなくなりそうなときにこそ、手に取ってほしい1冊だ。それは初期研修医だけでない。医学生であっても、専攻医であっても、同じ悩みを抱えている人にこそおすすめしたい1冊である。
「きっとみんな同じように悩んでいるんだ、こんな考え方もあるかもな、とちょっとでも思って楽になっていただけたら、これほどうれしいことはありません」と著者も述べているように、心にもやもやを抱えてしまった1日の終わりに、ぜひゆっくりとリラックスした状態で、本書を開いてほしい。文章の1つ1つがあなたの疲れた心に寄り添ってくれるだろう。
評価 みんな、かつては研修医だった。医師が答える医師たちの悩み
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まとめ

最初にも申し上げたが、この3冊を通して私が伝えたいメッセージはただ1つだ。
それは「医師として成長するためのノウハウだけでなく、研修を乗り切るためのスキル、へこんだところから立ち直るスキルも同じくらい重要だ」ということである。
研修医として医学を勉強し、日々診療の質を向上させることは重要ではあるが、医師も人間である以上、疲れや悩みを抱えてしまうものである。プロフェッショナルとして、これらは無視するべきではないと思っているし、うまく付き合っていくことが、あるべき姿だと思っている。医師としてはもちろん、人間としても成長できる初期研修時代を心ゆくまで楽しんでほしい。

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<プロフィール>

畑 拓磨

畑 拓磨(はた・たくま)
所属先:水戸協同病院
専門科目:総合診療科
2017年 筑波大学卒。
筑波大学附属病院にて初期研修終了後、2019年より水戸協同病院総合診療科にて後期研修に入り、2021年下半期にはチーフレジデントを務め、現在、総合診療科アテンディングスタッフ。
診療に携わる傍ら、JACRA(Japanese Chief Residents Association)メンバーとして医学教育を、また、総合診療医学会・良質な診断ワーキンググループメンバーとして、診断エラーを防ぐための学術・啓蒙活動も行っている。一方、一般社団法人病院マーケティングサミットJAPAN・チーフエヴァンジェリストとして医療の枠を超えた活動をしている他、歌手としても活動予定。

畑 拓磨

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