記事・インタビュー
突然ですが、皆さんは文章を書くのは得意ですか?
医師として病院で勤務していると、カルテ記入や紹介状作成、上級医とのメールのやり取りなど、思った以上に文章を書く機会がありますよね。前回取り上げたジャンルである“コミュニケーション”と同じくらい、人と上手に文章のやり取りをするためのスキルは大切です。なぜなら、それもコミュニケーションのひとつだからです。しかし、社会人として適切な言葉を用いたメールの書き方、紹介状やコンサルテーションオーダーなどの医療文書の作り方は、意外と教えてもらう機会が少ないですよね。そんな中、上級医の文面を見よう見まね(もしくは完全コピーペースト?)でなんとか作成している先生方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、明日から実践できるメールやコンサルテーションオーダーの書き方について、研修医時代の私がやりがちだった間違いを以下に凝縮、再現したので、それを参考にしつつ、反面教師として学んでいただければと思います。
私の具体的な経験(失敗)
私が初期研修医時代、内科ローテーション中に、カンファレンスでの症例発表の指導をA先生にしていただいていた時のことです。発表で使うために作成したパワーポイントを、確認していただく流れの中で、私が送ったメールがこちらです。
件名:Re)Re)三谷です。
お疲れ様です、いつもお世話になっております。
昨日の当直が忙しかったため、返信が遅くなってしまいました。
誠に申し訳ございません。
スライドに記載いただいたコメントの件、了解しました。
もう少し病歴が読みやすくなるよう修正させていただきます。
その他、コメントいただいた通り、この症例は入院3日目で発熱し、肺炎の診断で抗菌薬治療を開始させていただいています。
その時には、当院での以前の入院中の痰培養の結果も参考にさせていただいています。
なぜなら、想定される起因菌の感受性によって、適切な抗菌薬が変わってくるからです。
考察の抗菌薬治療についてのスライドに、こちらも追記させていただいた方が良いか迷っているのですが、どうするのが良いでしょうか?
ポイントとなるルール・マナー
いかがでしょうか。一見、相手に配慮したメールで問題がないようですが、ビジネスメールの観点からすると、修正した方が良い箇所がいくつかあります。文章の内容を、3つのポイントに絞って確認していきましょう。
1.ビジネスメールの型を身に付けるべし
メールは仕事をする上で大切な連絡手段であるとはいえ、直接通話するわけでもなければ、かしこまって直筆の手紙を書くわけでもないので、ついLINEなどのコミュニケーションアプリをプライベートで使うのと同じ感覚で、気軽に文面を作成してしまいがちです。しかし、社会人としてメールでやり取りをする以上、ビジネスメールとして成り立つ文章を書かなければなりません。「了解しました」の一言で済ませることはもちろん、目上の人とやり取りする際に絵文字を入力するのはもってのほかです。
そこでまずは、社会人として必要な、ビジネスメールを作成する上での原則を知っておきましょう。
ビジネスメールの本文は、基本的に宛名→挨拶→本文→結び→署名の順に記載していきます。文頭に相手の名前を記載し、挨拶をしてから文章を書き始めます。メッセージアプリの感覚で書くと、宛名を飛ばし「お疲れ様です」などという挨拶からの書き出しになってしまいがちなので注意しましょう。
本文を書いた後は、必ずメールを締める結びの一文を忘れないようにします。この結びがないと、メール全体が引き締まっていない印象を持たれてしまいます。また文面の最後には、所属先、連絡先と併せて署名しましょう。
2.常に読み手の立場に立って考えるべし
いくらビジネスメールの型を身に付けていても、読み手を意識して文章を書かなければ、そのメールは相手にとって読みづらいものになってしまいます。
基本的に、メールの送信相手は常に忙しいため、短時間で多くの情報を端的に理解できて、なおかつ返信しやすいメールを望んでいることを念頭に、メールを作成しましょう。メールの本文は、結論→理由→詳細の順に記載して、このメールで伝えたいことや相談したいことは何なのかを明確にしてから詳細な内容に入っていく方が、相手に伝わりやすいでしょう。今回のメールのように、詳細な内容から記載したり、一番相談したい質問と他の内容を同列に扱ってしまったりすると、相手は何に注目して読み進めていいかわかりにくくなってしまうのです。
そして、核となる本文以外にも読み手に配慮して修正できる箇所がいくつかあります。
例えば、冒頭の「忙しくて返信ができなかった」という言い訳は、相手にとって不要な情報であるというだけではなく、ネガティブなイメージを与えかねないので、メールの文面に書くことはもちろん、会話中も避けなければなりません。
また、メッセージアプリでは気にすることのない件名も、相手の受信トレイでの視認性を上げるという点ではきちんと考えて記載した方が良いです。
件名を見ただけで、メールの話題や内容が大まかに伝わることが大切なので、『症例発表についてのご相談』などが一つの具体例となるでしょう。ここに、送信元である自分の名前と肩書きや所属先を加えて『症例発表についてのご相談(研修医 三谷)』と付けると、なお良いかもしれません。
ここまで挙げた例も含め、大前提として、メールの文面に確実な正解というものはないのかもしれませんが、相手を思いやって作成した文面は確実に読みやすくなるだけでなく、その配慮はきっと相手に伝わります。対人関係の基本でもある「相手の立場に立つ」ということを念頭に、メールを書く癖をつけましょう。
3.適切な敬語を使うべし
最後は知識として知っておかなければ間違え続けてしまう、敬語の使い方についてです。
普段私たちが何気なく使っている敬語が、意外と間違っているということはよくあります。中でも代表的なのが「了解です」という返答です。この表現、実は目上の人に用いるには不適切であるため、「承知いたしました」と書き換える必要があります。
また、私自身間違え続けていたのは「させていただく」という言葉の使い方です。
聞こえが良く、使いやすい言葉であるため、頻用される印象がありますが、真に適切なシチュエーションは意外と限られています。文化庁の文化審議会答申「敬語の指針」によると、「させていただく」という敬語は、基本的には自分側が行うことを(1)相手側や第三者の許可を得て行い(2)そのことによって恩恵を受ける場合に使われるものである、とされています。このため、上記2つの条件を満たしているかどうかを確認し、そうでないものについては「いたします」と言い換えられないかを常に意識すると誤用がなくなり、文章もすっきりするでしょう。
まとめ
上記の内容を踏まえて、改めてメールを書き直してみました。
件名:症例発表についてのご相談(研修医 三谷)
A先生
平素より大変お世話になっております。
返信が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
コメントを追記していただいたスライドを拝見しました。
スライドの修正に関して、1点ご相談させていただきます。
考察の抗菌薬治療についてのスライドに、前回入院中の痰培養結果を追記した方が良いか迷っています。
理由として、この症例では入院3日目で発熱し、肺炎の診断で抗菌薬治療を開始しており、想定される起因菌の感受性により抗菌薬の選択が異なると考えられるためです。
お忙しいところ恐縮ですが、ご検討のほどよろしくお願いいたします。
==========
三谷雄己
●●病院 初期研修医1年目
○○○○@gmail.com
090-○○○○-○○○○
==========
いかがでしたか。不要な内容を削除し、敬語の表現を訂正した上で、ビジネスメールとしての型にはめ込んでみました。
前述したように、「絶対に正解」というメール文はありませんが、今回お伝えした3つのポイントを押さえて書く癖をつけると、失礼がなく、相手に伝わりやすいメールを作成することができるでしょう。
この記事を参考に、皆さんの研修医生活がより良いものになれば幸いです。
参考文献
『メール文章力の基本 大切だけど、だれも教えてくれない77のルール』 藤田英時 著 日本実業出版社
『仕事が速い人はどんなメールを書いているのか』 平野友朗 著 文響社
〈参考URL〉文化庁 平成19年2月文化審議会答申「敬語の指針」
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