記事・インタビュー
国家試験も終わり、春から研修医として勤務する医学生の皆様は、新社会人としての日々に期待と不安を抱いていることでしょう。
皆様に聞き取りをしたところ、COVID-19の感染拡大の影響で、思うように病院実習への参加ができておらず、実臨床の雰囲気がつかめていないのがとても不安だ、というご意見が多数ありました。
また、実臨床における医学の知識や技術の習得というよりも、マナーやルールに対しての不安が多いようでした。
そこで今月から、研修医として勤務するにあたって大切なルールやマナーについての記事を定期的に書かせていただこうと思います。
私自身、研修医時代を振り返ると、決して誇れるような素行のいい研修医ではありませんでした。しかし、そんな「しくじりを重ねてきた」研修医だったからこそ、お伝えできることもあるでしょう。
皆さん の研修医生活がより良いものとなるよう、私の経験談も交えながら、明日から実践できる知恵をお伝えることができれば幸いです
第1回は、研修医生活の中でも心配されることの多い、研修医の身だしなみについてお話しさせていただきます。
私のしくじり体験
学生時代からスクラブを着ることを夢に見ていた私は、研修医として勤務が始まった4月、早速職場の同期と相談してスクラブを作りました。合計5着も購入し、毎日ワクワクしながらスクラブに袖を通していたのを覚えています。
そして、オペ室に入ることの多い外科系ローテーションをきっかけに、当時お世話になり、あこがれていた外科系の先生方を真似して、手術スクラブにスリッポンというスタイルに切り替えました。
その後もしばらくはそのスタイルを貫くことになるのですが、患者さんからは医師として認識してもらえないことも多く、スタッフからも「研修医かどうかわかりにくいため声をかけにくい」と言われました。また、一般外来見学では指導医に「ちゃんと白衣を着なさい」と何度か怒られたこともあります。
端的に言うと、新人研修医という立場を客観視できておらず、TPOをわきまえていない身だしなみをしてしまっていたのです。
ポイントとなるルール・マナー
1.医師として適切な身だしなみ・立ち振る舞いを意識するべし
まず、新人研修医として勤務するうえで最も大切なことは、対人関係を築く努力を怠らないということです。
患者さんと接する際も、「患者」と「医師」という関係性の前に「人対人」であることを忘れてはなりません。
例えば、多くの書籍でも指摘されているように、患者さんのことを「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼んではいけませんし1)、自分から率先して挨拶や自己紹介をしなければいけないのです。
加えて、日々の業務をするにあたり、周りのスタッフの信頼を勝ち得るのも非常に大切です。私は所属先の施設ではもちろん、定期的にお世話になる外勤など、新しく勤務する施設ではここを強く意識しています。
それらの意識を常に持っていれば、おのずと立ち振る舞いや身だしなみは決まってきます。
厳しい学校の規則のように、髪の襟足は何cm以内、靴下の色は何色で統一……などというように事細かに規制を設けられなくても、そういった意識のもとに、社会人として自分で考えて選択することが大切なのです。
私があこがれていた先生方は、すでに日々の診療やスタッフとの関係性などを経て、数々の実績や信頼を勝ち得ていたのです。
新人研修医である以上、0からのスタートであるため減点法で評価されることも少なくないため、まずはTPOや立場をわきまえた身だしなみを心がけましょう。
2.状況に合わせて白衣を着用すべし
新人研修医は勤務中、基本的には白衣を着て、名札を必ず付けておくことが大切です。
白衣の着用は、スタッフ間において一目で医師だと気づきやすいという意義があるだけでなく、患者さんの満足度にも関連しているといわれています2)。
日本の一般外来を受診した2272人に対して、医師はどのような格好で診察にあたるのがより好ましいかを調査した研究があります。セミフォーマルな格好、白衣、手術用スクラブ、カジュアルな格好の4種類のうち、男性医師に対しては80%、女性医師に対しては73%が白衣を着用していることが好ましいという回答でした。2)。
また、日本のICUを訪れるご家族を対象に、医師の服装と医療ケアの受け止められ方の関連を調べた論文では、名札を付けるべきという回答が91%、白衣を着るべきという回答は59%でした3)。
なお、私はどうしているかというと、救急外来やICUではスクラブを着用し、患者さんやそのご家族とインフォームドコンセントをする際や一般病棟へ回診に行く際には白衣を着用するよう心がけています。
このように、新人研修医でなくとも、医師は白衣と名札の着用が好ましいといったことを念頭に置き、少なくとも落ち着いて患者さんと向き合える一般外来では、白衣を着ましょう。ただし作業効率などを考えた場合には、 救急外来など、手技が多く常に動き回る部門ではスクラブだけで業務するなど、臨機応変に着衣を選択するのも良いでしょう。
3.感染防御にも配慮すべし
身だしなみを考えるうえで、感染防御について考えることも大切です。
病院スタッフが勤務中に着用する衣類の60%には、潜在的に病原性細菌がついているという報告があります4)。このことと実際の院内感染症の発症率との関係は明らかにされていませんが、抗菌薬治療が頻回に行われており、耐性菌が発生しやすくスタッフの患者間の行き来が多いICUなどの部門では、多剤耐性菌の交差感染が問題視されています。
これらの観点から、英国保健省では医師は半袖シャツを着用し、ネクタイや腕時計をしないように勧告しています5)。
私は基本的には腕時計を着用せず、スクラブのインナーは9分丈とし、手関節周りも含め、常に手指衛生を実践しやすいようにしています。
もちろん、これらの身だしなみに配慮するだけでは医療者による感染を防ぐことはできず、そもそもそれ自体に強いエビデンスがあるわけではないのが現状です。
何よりも大切なのは、患者さんを診察する際の前後の手指衛生や手袋の着用、手袋を患者間で使いまわさないなど、当たり前のことを当たり前に実践することにほかなりません。
まとめ
今回は、研修医として業務にあたるうえで大切な身だしなみを中心に、お話しさせていただきました。人は見た目が9割とはよく言ったもので、自分が初期研修医の指導をする立場となった現在では、その大切さを強く感じます。月並みですが、やはり身だしなみや挨拶をちゃんとできている後輩に対しては、信頼できる印象を持ちます。
初期研修医としての第一歩で私のように損をしないよう、今回お伝えした3つのポイントを意識していただければ幸いです。
引用文献
1)寺沢秀一著, 研修医当直御法度第6版;2016
2)Yamada, Y., Takahashi, O., Ohde, S., Deshpande, G. A. & Fukui, T. (2010). Patients’ Preferences for Doctors’Attire in Japan. Internal Medicine, 49(15), 1521-1526. https://doi.org/10.2169/internalmedicine.49.3572
3) Lefor, A. K., Ohnuma, T., Nunomiya, S., Yokota, S., Makino, J. & Sanui, M. (2018). Physician attire in the intensive care unit in Japan influences visitors’ perception of care. Journal of Critical Care, 43, 288-293.
4)Wiener-Well, Y., Galuty, M., Rudensky, B., Schlesinger, Y., Attias, D. & Yinnon, A. M. (2011). Nursing and physician attire as possible source of nosocomial infections. American Journal of Infection Control, 39(7), 555-559.
5)The Lancet. (2007). The traditional white coat: goodbye, or au revoir? Lancet, 370(9593), 1102. https://doi.org/10.1016/S0140-6736(07)61487-1
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