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2021.08.16

One Giant Leap~宇宙医学と研究留学 in ダラス~(2)

宇宙医学と研究留学inダラス
テキサス州ダラスにあるテキサス大学サウスウェスタンメディカルセンターのInstitute for Exercise and Environment Medicine (IEEM)という研究施設に留学している倉住です。こちらでの生活や留学体験を少しずつ情報発信していきます。

海外への挑戦

僕は学生の頃から、「医者人生も長いし一度は海外で働きたいな」と漠然と考えていました。しかし、「絶対にアメリカで働くんだ!」みたいな強い意志はなかったので、USMLEの勉強などは全くしませんでした。現地でバリバリの臨床医ができるわけではないので、メジャーリーガーのようにはなれていません。しかし、研究の分野では、自分の力が試せるのではないか?という思いで海外挑戦を挑んでいます。学生の頃は、夏休みを利用して1カ月サンディエゴにホームステイしたり、臨床実習(ポリクリ)を利用してヒューストンのMDアンダーソンがんセンターで研修を受けたり、インドネシアの医学生との交換留学に参加したりと、まあ中途半端に海外にかぶれていました(笑)。しっかりと準備をするタイプではありません。ですが、こんな僕でも留学できてしまうのが医者の世界です(甘い)。ただ、準備をしておいた方がよいかなと思うことが1つあります。研究業績です。これはすぐに手に入るものではありません。僕も臨床で働いているときは業績なんて全く必要ないと思っていました。でも留学するにあたっては、CV(Curriculum Vitae: 日本でいう履歴書)が必要です。将来留学を希望している人たちは少しずつ準備しておくといいと思います。

国際学会でチャンスを活かす

~宇宙医学と研究留学 in ダラス~(2)▲2019年にベルギーで行われたCARNetでの発表

研究を始めてから、僕は積極的に国際学会で発表してきました。とくに僕の研究分野は脳循環なので、CARNet(Cerebral Autoregulation Network)という国際学会に何度か参加してきました。小さな学会特有のフレンドリーな研究会で、多くはポスター発表のため、流暢な英語を話せなくても強引にプレゼンできることが魅力です。あらゆる研究施設の著名な研究者たちが間近にいるので、自己アピールの舞台としてはうってつけでした(夜は懇親会があるので、お酒の力も借りてより積極的になれます)。

僕の場合は、ヒューストンでの宇宙実験や宇宙医学のシンポジウムなどで、留学先のIEEMの大ボスBenjamin D. Levine先生と何度か面会する機会がありました。そのときはチャンスを活かそうと「将来はアメリカで研究したい」とアピールを続けていました。一緒に撮った写真や動画をお礼の言葉とともにメールで送ったこともありました(笑)。

研究計画?~申請書作成の秘訣とは~

研究留学のためには、留学中の生活資金を援助してもらう「助成金・奨学金(スカラシップ・グラント)」の獲得が第一歩です。しかし、そのためには何をいつ準備すればいいのかわからない状態でした。手当たり次第にインターネットなどから情報を集めて、申請書の準備にとりかかるといった感じで、当然ですが結構苦労しました。

~宇宙医学と研究留学 in ダラス~(2)▲IEEMへプレ訪問した際の写真。IEEMの大ボスBenjamin D. Levine先生と

海外留学助成金の申請書の準備も、これまで“研究資金を獲得する”といった経験が無かった僕にはたいへんキツいものでした。

申請書作成でぶち当たる壁が、“渡航先における研究計画”です。IEEMについてざっくりとは知っていましたが、そんな上っ面な知識では薄っぺらな内容しか書けず困りました。そこで、直接行ってみてヒントを得ようと「来年からそちらへ留学したいので、2週間見学させてほしい」と打診し、プレ訪問に行ってきました(当時の様子を「新学術領域:宇宙に生きる」の海外派遣で報告しましたhttps://living-in-space.jaxa.jp/fund/pdf/A02-1_20190623-0704.pdf)。
結果的に、この訪問のおかげでIEEMのボスだけでなく、ポスドクの先生たちと充実した議論ができ、嘘偽りのない具体的な“研究計画”が書けました(と思います)。選考ではこれまでの業績内容が重要視されるといわれています。しかし僕のように業績にそれほど自信がない方は、事前に渡航先と研究計画を立ててくるといった手はいかがでしょうか。(COVID-19の影響で以前より難しいかと思いますが、研究の世界はすでにpost-pandemicで動き出しています。是非チャンスを掴んでください!)

まとめ

第2回では留学の準備について書いてみました。僕自身も留学するにあたって何を準備すればいいのかあまり把握できていませんでした。特に助成金については、留学を計画してから知ったくらいですが、少しでも参考になればと思います。

<プロフィール>

倉住 拓弥(くらずみ たくや)
施設名:テキサス大学サウスウェスタンメディカルセンター, Institute for Exercise and Environmental Medicine
役職:Assistant Instructor
2008年群馬大学卒業。慶應義塾大学麻酔学教室に入局後、宇宙医学を学ぶため日本大学医学部社会医学系衛生学分野(宇宙航空環境医学)の門を叩く。タイトルは、ニール・アームストロング船長の“One small step for man, one giant leap for mankind.”からの引用しました。

倉住 拓弥

One Giant Leap~宇宙医学と研究留学 in ダラス~(2)

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