記事・インタビュー

2020.11.27

ヘモ活のすすめ(2)

ヘモチ(ヘモグロビン値)は、セルフメディカルチェックの重要な項目である

私は、ヘモグロビン値を、簡略化して『ヘモチ』と呼んでいる。セルフメディカルチェックの重要な項目のひとつと考えている。セルフメディカルチェックの項目となるためには、『家庭でも測れる』『変動値』で、体調管理に重要な項目でなければならない。

ヘモチは体調管理のために重要な項目であることは言うまでもない。山本佳奈著『貧血大国・日本』によると、実に働く女性の5人に1人が貧血で、様々な不調につながっている。30~40%の妊婦に貧血が認められ、胎児への影響も指摘されている。貧血の妊婦では低出生体重児のリスクが1.29倍になるとのこと。またこれが原因で、最近の若者に低身長化がみられるのではないかとも述べている。さらに月経周期によるヘモチの変動を考えると、セルフメディカルチェックにおいて、ヘモチがいかに重要か理解できる。

また近年では、地球温暖化が指摘され、日本の夏の暑さは“亜熱帯”ともいえる過酷さである。もちろん以前からあったのだが、『熱中症』のリスクが特に近年取りざたされるようになってきた。熱中症で救急搬送される高齢者、ジョギング中の中高年、試合中の小中高校球児など、確かに増えた気がする。熱中症では、高温の外気による体温上昇から様々な症状が惹起されるが、その主体は脱水による循環不全で、脳虚血および心筋虚血の症状である。血液検査の簡易な指標のひとつがヘモチ上昇で、身体のクーリングとともに大量の補液が必要になる。

以上のように、ヘモチは1年に1回の健康診断で測定すればよいだけの項目ではなく、常にチェックすべき検査項目であることをあらためて指摘したい。

非観血的ヘモグロビン値(ヘモチ)測定器の登場

私の家庭にもある血圧計は、今や“一家に一台”とも言えるくらいに普及し、高齢者における血圧信仰は強い。体調が悪いと血圧が高いのではないかと血圧測定を繰り返し、“血圧が高い”と病院に駆け込む高齢者の姿は、血圧計の普及がもたらした功罪であろう。

一方で、ヘモチの重要性が血圧のように拡がらないのは、血圧計のような簡便な機器(デバイス)がなかったからで、血液を採取しなければならない検査項目は家庭では測定できない。しかし、実は採血をしなくても皮膚を透過してヘモチを測定する『非観血的』機器はここ10年弱の間に登場してきている。ここで紹介するのは、米国Masimo社のデバイス(Pronto;下写真)で、日本でも医療機器としてすでに認可されている。その基盤となる技術はパルスオキシメトリーと同様の技術だが、より高度な技術である。7波長のパルスに対する反応性から高精度の血液酸素飽和度を測定するのみならず、ヘモチの測定も可能にした。パルスオキシメーターと同様に測定器を指に挟むだけで、約30秒程度でヘモチを測定できる。

外来診察室に入る前に、備え付けられた自動血圧計で血圧を測定し、プリントアウトされた測定結果を記した紙を持って待つというのが、現在のありふれた外来の風景だ。また呼吸に異常のある患者では、パルスオキシメーターでSpO2を測定する。コロナ禍では、このパルスオキシメーターが病院から家庭へと普及し始めている。さて最近、外来診察時に眼瞼で貧血を確認する医師も減ったのではないだろうか。一方で、偶然検査したCBCで、意外なアラート(パニック)値に出くわして大慌てする様子をたまに見かけるのも現実。この夏のコロナ禍で、コロナと熱中症および脱水の区別が難しいと議論されたが、このデバイスを使えば、ヘモチの異常上昇は容易にスクリーニングできる。外来において、非観血的ヘモチ測定器が活躍することも多いのではないだろうか。私は近未来にそういう風景を推進したいと思っている。

ヘモチの日内変動;その意味すること

今までは採血しなければわからなかったヘモチを簡便な非観血的デバイスで測定すると、想定してこなかった知見に遭遇することがある。みなさんも、“自分の血圧”を知っているだろう。高血圧の人でなくても、“私の血圧”は知っているものだ。“私のコレステロール値” “私の尿酸値”も話題になるものだろう。しかし、“私のヘモチ”は?となると話は別で、中々知っている人は少ない。実際には、ヘモチの基準値は男女で差があるし、個人差も大きく、自分の健康な時のヘモチを説明し、知らせておくことは重要だと思う。

さて、“私(筆者)のヘモチ”は、おおよそ15強(右写真)である。私はこの夏、このデバイスの正確性を示すためのデモとして、何度となく自分のヘモチを見てきて意外なことに気づいた。午前中とか昼過ぎのデモでは、“私のヘモチ”はいつも15±αだった。しかし、ある時デモが夜の7時過ぎになった。その日は暑い日であったが、朝から立て続けの仕事で、ほとんど飲み食いできていなかった。そんな状態で測った結果が、なんとヘモチ=17.2!臨床的にみて、脱水状態になっていたと考えられる。熱中症による脱水状態のヘモチはもっと高値になっているだろう。その中間値のヘモチが測定できることは当たり前ではあるが、非観血的に簡便に測定してはじめて実感した知見であった。

さて、“私(筆者)のヘモチ”は、おおよそ15強(上写真)である。私はこの夏、このデバイスの正確性を示すためのデモとして、何度となく自分のヘモチを見てきて意外なことに気づいた。午前中とか昼過ぎのデモでは、“私のヘモチ”はいつも15±αだった。しかし、ある時デモが夜の7時過ぎになった。その日は暑い日であったが、朝から立て続けの仕事で、ほとんど飲み食いできていなかった。そんな状態で測った結果が、なんとヘモチ=17.2!臨床的にみて、脱水状態になっていたと考えられる。熱中症による脱水状態のヘモチはもっと高値になっているだろう。その中間値のヘモチが測定できることは当たり前ではあるが、非観血的に簡便に測定してはじめて実感した知見であった。

ヘモチが意外にも日内で変動することを知って、1)どうしたら、どう変動するのか?2)ヘモチを上昇あるいは下げる食事、あるいはドリンクはなんだろう?などなど、様々なことを試していかなければならないとワクワクが尽きない。次回は、ヘモチを変動させるもの・ことを自分で体験、実験します!

<プロフィール>

久保 肇(くぼ・はじめ)
外科医師
ヘモ活推進協会代表理事・スターリング株式会社代表取締役・株式会社MSP代表取締役

三重県生まれ。1992年、京都大学卒業。京都大学医学部附属病院、神鋼記念病院で外科医師として修練後、京都大学大学院、ヘルシンキ大学でがんリンパ管研究の創始に携わる。2003年帰国し、京都大学医学部附属病院外科講師、京都大学助教授としてがん研究の後、2010年田辺三菱製薬にて会社のマネージメントを経験。2019年、役立つヘルスケアを啓発することを目指し株式会社メディカルサイエンスパートナーズ(MSP)設立。現在、スターリング株式会社代表取締役、一般社団法人ヘモ活推進協会代表理事。

››› 一般社団法人ヘモ活推進協会
››› Twitter @kuboflt1965

久保 肇

ヘモ活のすすめ(2)

一覧へ戻る