記事・インタビュー
臨床・実験データから仮説を見出すということ
ヘモチ(ヘモグロビン値)を、採血なしで測定することができるようになると、今まで気づかなかった発見があります。前回、ヘモチに意外な日内変動があることをお示ししました。一日中飲み食いせずに仕事していたら、普段は15前後の私のヘモチが、17.2になっていたという体験でした。
「ヘモ活のすすめ(1)」で紹介しましたが、私は研究者として『リンパ管新生』という新しい概念を創り上げていく時期に立ち会いました。そもそもリンパ管は新生するのか?に始まり、病気ではリンパ管はどう変化してどう病態に絡んでいるのか?まで、わからないことだらけでした。研究の方法としては、試験管内での実験もあるし、動物実験もありますが、臨床データの確認がないと何の意味もありません。そして特にこのような新しい研究分野では、問題・課題を見出し、仮説を設定するところから始めなければなりません。ヘモチなんてよくわかっているって本当?多くのシニアの医師と話すと、ヘモチは血圧と違ってあまり変化するものじゃあないから頻回に測定する必要はないっていう反応です。そういう人は、非観血的にはヘモチをチェックできないという現状に縛られていないだろうか?
特に若い医師にお伝えしたいのは、医療・医学はわからないことだらけだということ。日常の診療で気になったこと、自分自身の病気体験なんかも大切です。そこに新しい医療につながるアイデア(考え方、概念)が眠っているかもしれません。日常の診療では脱水患者はヘモチで確認しますし、飲み食いせずに働き詰めだとヘモチが上昇するという自分の体験から、私はある仮説を見出しています。シンプルな仮説ですが、それは今回の最後に紹介します。
ヘモチ(ヘモグロビン値)チェックの体験から
現在私は、ヘモ活推進協会で、ヘモチの重要性について一般の方に啓発する活動をしています。貧血、脱水(熱中症)のリスクは既に明白ですが、この具体的な場面をわかりやすく説明することが大切なのと、医学的にも医療者にもわかりやすいエビデンスの構築が必要です。
(体験1)夏の脱水に気をつけよう!
近年、日本の夏は暑く、毎年熱中症が話題になります。私も今夏に家の庭木を切った時には大量の汗をかき、水分補給が間に合わないくらいでした。しかもこの日は、ヘモチの課題研究として“麦茶”での水分補給を試しました。
作業前、昼食も終わりくつろいだ後のヘモチは15.2で、“私のいつものヘモチ”です。それから真夏の庭で2時間ぶっ続けで伸び放題の庭木の枝を切り、下草も刈りました。麦茶はたっぷり飲みましたが、作業が終わる頃にはTシャツは汗でびっしょりでした。そして測定したヘモチは、17.0でした。夏の脱水予防には麦茶はやはりダメでした。次は塩分を含む水分などとの比較研究をすることになるわけです。
ヘモチを下げるには?
ヘモチが低い、つまりは貧血を改善するために鉄欠乏性貧血なら鉄分・鉄剤を摂りましょうということになります。では、ヘモチが高い人にはどういう対処がよいのでしょうか?水分摂取は予防的な対処ですが、ヘモチを下げるにはどうすればよいのでしょうか?脱水症で病院に来られた患者には点滴で補液となりますが、水分を摂取する場合はかなり難しいですね。ここで思いもかけない体験実験を示します。
(体験2)マッサージでヘモチを下げよう!
マッサージで血流がよくなることを確認するために、この機械を使った時のことです。というのも、この機械は血流も評価できるからです。その詳細はまた今度として、この時思いもかけず、マッサージによってヘモチが下がるのを体験しました。下の図は、私を含めた中年男性2名で2回ずつ測定した結果です。いずれの被験者もすべての回においてヘモチは下がり、平均して1.5および1の低下でした。ヘモチが上昇するような脱水の状態に対して理学的な方法で対処できるというのはすごくおもしろいです。*ちなみにこのマッサージ店は、実はプロのスポーツ選手のケアもする有名なスポーツマッサージ店でした。
ヘモチの上昇は下げた方がよい!?
血液の濃縮の評価には、Hbの他にHtも使われます。Ht上昇は、様々な条件付きですが、脳梗塞のリスクになります。このエビデンスが血圧ほど明確でないのは、HtもHbも頻回に測定できないからかもしれません。血圧のように頻回に測定できれば、“Hbの上昇”が脳梗塞のリスクになると私は仮説を立てています。これまでに示してきたように、一日の変動でHb高値になりやすい私は、高血圧とは言えない血圧で40代の時に軽度の脳梗塞を経験しているからです。
次回は、ヘモチの上昇に対処する他の方法について紹介するとともに、科学的な考察も加えていきます。
<プロフィール>
久保 肇(くぼ・はじめ)
外科医師
ヘモ活推進協会代表理事・スターリング株式会社代表取締役・株式会社MSP代表取締役
››› 一般社団法人ヘモ活推進協会
››› Twitter @kuboflt1965
久保 肇
人気記事ランキング
-
会員限定
【民間医局コネクトセミナー】上半期アーカイブ10選
- アーカイブ配信
- 研修医
- 専攻医・専門医
【民間医局コネクトセミナー】上半期アーカイブ10選
-
会員限定
【民間医局コネクトセミナー】アーカイブ動画(2024年9月)
- アーカイブ配信
【民間医局コネクトセミナー】アーカイブ動画(2024年9月)
-
新救急棟の完成間近!ER総合診療センターの医師を大募集!
- 研修医
- ライフスタイル
- 就職・転職
新救急棟の完成間近!ER総合診療センターの医師を大募集!
埼玉石心会病院
-
書評『レジデントノート 2024年8月 頭部CT・MRI キホンからやさしく教えます』
- 新刊
- 研修医
- 医書マニア
書評『レジデントノート 2024年8月 頭部CT・MRI キホンからやさしく教えます』
三谷 雄己【踊る救急医】
-
<開催報告>けいゆう先生と考える!後悔しない診療科の選び方 ①後悔しない診療科の選び方
- イベント取材・広報
<開催報告>けいゆう先生と考える!後悔しない診療科の選び方 ①後悔しない診療科の選び方
山本 健人
-
臨床現場の壁を乗り越える! 研修医に必要なスキルを学べる医学書7選
- ベストセラー
- 研修医
- 医書マニア
臨床現場の壁を乗り越える! 研修医に必要なスキルを学べる医学書7選
三谷 雄己【踊る救急医】
-
著者が語る☆書籍紹介 『ポケジェリ – AGS高齢者診療マニュアル -』
- 新刊
- 研修医
- 医書マニア
著者が語る☆書籍紹介 『ポケジェリ – AGS高齢者診療マニュアル -』
山田 悠史
-
医療機器の開発ストーリー②「医療機器プログラム(SaMD)」
- イベント取材・広報
医療機器の開発ストーリー②「医療機器プログラム(SaMD)」
-
2023年出版の救急・集中治療の医学書おすすめ8選
- ベストセラー
- 研修医
- 医書マニア
2023年出版の救急・集中治療の医学書おすすめ8選
三谷 雄己【踊る救急医】
-
医師にとってのライフプランニング 「Vol.1 ライフプランの重要性」
- ライフスタイル
- お金
医師にとってのライフプランニング 「Vol.1 ライフプランの重要性」