記事・インタビュー
IBDフェローとして2年目をむかえ、早くも4ヶ月が経過しました。前回の記事では、COVID-19パンデミック下での留学生活をご報告させていただきました。今回も、IBDフェローとしての現在の様子を、臨床編と研究編に分けてご報告させていただきます。研究編では、指導医の先生とこちらで取り組んでいるCOVID-19研究について、ご紹介させていただきます。この情報が、COVID-19や自己免疫性疾患の診療に従事されている医療従事者の皆様、患者様のお役に立てば、とても嬉しいです。
臨床編
前回の記事でもご紹介したように、米国でもCOVID-19パンデミックが発生し、2020年3月にイリノイ州のロックダウンが宣言されたあたりから、臨床現場では、かなりの変化がありました。外来診療は、主に電話やZoom診療に変わり、内視鏡や外科手術はよほどの緊急でない限りは実施できない状態でした。米国での診療は、フェローが、新患の病歴をまとめ、再来患者の最近の様子を伺った上で、Attending Doctorに簡潔にプレゼンしたのちに、一緒に患者を診察するというスタイルです。電話やZoom診療であっても、この診療スタイルが基本でした。電話での新患外来などは、IBDの複雑な病歴を詳細に聞き出すのに、言語の問題も加味され、当初はかなり苦戦を強いられました。
今でも印象に残っているのですが、他国からシカゴに移ってきた患者様で、過去にIBDのために複数回手術を繰り返しており、シカゴ大学でIBD診療を継続したいという方にお会いしました。その方の手術レコードを含む診療情報の多くが、英語ではなく、全て、電話で聴き出すのにとても時間がかかりました。それだけではなく、その後も電話やMyChart(患者・医師間のメッセージツール)で詳細にやりとりをしたところ、ストーマトラブルなどの複数の病態が新たに診断されました。電話での診療よりも、身体診察のできる通常診療の方が、スムーズにいくのではないかと痛感した症例でした。このようなオンライン診療は、何度もやっているうちに不思議と脳が順応していくようで、少しずつ慣れていきましたが、このような歯がゆさには、何度か直面しました。
病棟に関しては、パンデミック期間のみ、入院患者を担当するフェローの数を制限していたため、IBDの入院患者を診療する機会が少し短くなってしまいした。また、内視鏡も基本的には病棟担当の期間しか使うことができないので、その機会も減ってしまい、やや残念に思っています。現在では、病棟のIBDチームも通常の状態に戻っており、病棟ラウンドも実施されています(写真はラウンドの際に撮らせていただいたものです)。引き続き、シカゴ大学でのIBDマネージメントをしっかりと学んでいきたいと思っています。
研究編
COVID-19の影響で、ラボで実験を行う基礎的な研究は制限されていましたが、現在では、交代制でラボにいける状態になっています。研究への患者リクルートも解禁になり、一部の臨床研究では、検体回収を再開しております。私はというと、パンデミックになる前に、次世代シークエンスに提出していたサンプルデータが返ってきていたので、解析ツールであるQIIME2のコードを学び、実際に解析をしていました。ただ、この期間、どうしても実験ができないこと、留学期間は限られていることなどから、少しでも有意義な研究を行うためにも、研究のメインを臨床研究にシフトさせました。指導医の先生と相談し、どうせやるならCOVID-19とIBDに関連する研究をしようと決断しました。最近、いくつかの研究が論文化されましたので、簡潔にご紹介したいと思います。
私たちの研究は、主にメタ解析という手法を用いています。例えば、あるクリニカルクエスチョンに対して、これまでに報告されている論文を抽出し、データを統合することで、それに対する回答を導くといった手法です。 私たちの研究では、このメタ解析を用いて、IBD、乾癬、リウマチ疾患を含む自己免疫性疾患(以下、ADと略します)におけるCOVID-19のリスク、アウトカムを検証しました。その結果、ADではない患者と比較して、AD患者ではCOVID-19罹患率が有意に高いこと、その高い罹患率には、ステロイドの使用が関連していることが示唆されました。また、アウトカムの解析では、年齢や併存疾患、ステロイド、免疫調節薬の使用、生物学的製剤と免疫調節薬の併用といった因子が、COVID-19による入院や死亡リスクを上昇させる一方で、生物学的製剤単独での使用(特にTumor Necrosis Factor(TNF)阻害剤)は、これらのリスクを低減できるかもしれないということが示唆されました(文献1)。COVID-19患者に対するステロイドの使用については、一部の重症患者では有効であるというデータはありますが、いまだ、議論の分かれるところです。COVID-19関連肺炎の病態には、過剰な炎症反応と微小血栓が関与しているという報告もあり、過剰な炎症反応を抑えるだけでは、不十分なのかもしれません(文献2)。
(文献1)Shintaro Akiyama, Shadi Hamdeh, Dejan Micic, Atsushi Sakuraba. The prevalence and clinical outcomes of COVID-19 in patients with autoimmune diseases: a systematic review and meta-analysis. Ann Rheum Dis 2020 (in press).
http://dx.doi.org/10.1136/annrheumdis-2020-218946
(文献2)Elisa Gremese, Giovanni Brondani, Luca Apollonio, Gianfranco Ferraccioli. Correspondence on “Prevalence and clinical outcomes of COVID-19 in patients with autoimmune diseases: a systematic review and meta-analysis”. Ann Rheum Dis 2020 (in press).
http://dx.doi.org/10.1136/annrheumdis-2020-219309
米国での診療経験がない状態でのIBDフェロー1年目は、正直ついていくので精一杯だったように思います。言語の壁はいまだあるものの、2年目の今では、いろいろなことに慣れてきたこともあり、少し余裕を持てるようになりました。2年目は、IBD診療と研究を深く掘り下げて、学んでいきたいと思っています。
<プロフィール>
秋山 慎太郎(あきやま・しんたろう)
2000年4月- 電気通信大学量子物質工学科入学(工学学士)
2004年4月- 京都大学大学院理学研究科生物科学専攻(理学修士)
2006年4月- 弘前大学医学部医学科(3年時へ学士編入)
2010年4月- 虎の門病院内科研修開始
2014年4月- 東京医科歯科大学消化器内科入局
同年- 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科に入学(医学博士)
2018年4月- 東京医科歯科大学消化器内特任助教
2018年11月- 渡米
2018年12月- シカゴ大学Postdoctoral scholar
2019年7月- シカゴ大学advanced IBD fellowship
2021年7月- 筑波大学医学医療系消化器内科 講師
秋山 慎太郎
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