記事・インタビュー

2020.10.19

ヘモ活のすすめ(1)

私がヘモ活推進医師になるまで

医師になっておよそ30年が経とうとしている私のプロフィールもなかなか一筋縄では理解できないものになってきた。
外科医師としてまだ修練の時期であった卒業後3年目。当時勤めていた神鋼記念病院の泌尿器科の先生方の絶大なる支援の下で、膀胱に浸潤した巨大な直腸がん切除後に回腸導管の代わりに“新膀胱”を造設する画期的な手術も経験した。化学療法が日本ではまだ黎明期であったので、最新の論文情報を取り入れながら、胃がん・大腸がんのみならず、他科の卵巣がんの患者の化学療法も担当した。腹腔鏡下胆のう摘出術が日本に取り入れられて間もない頃から先輩医師と2人で相当数をこなしたのも思い出される。

京都大学大学院に在籍中の頃の筆者

1996年に大学院に帰学した時には、当時流行だった血管新生でなく、まだ存在さえ不確かだったリンパ管新生の研究に取り組んだ。その後のヘルシンキ大学時代までに、“がんがリンパ管新生因子を分泌することでリンパ節転移を促進している”という新しい概念を提唱することができた。帰国後も、がん幹細胞のアイデアにもいち早く気づき、常に医療および医学の最先端にいるわくわく感は今でも忘れない。

早い話が“新しいもの好き”なのだ。偶然の導きもあり、2010年京都大学医学部附属病院を突然辞め、国内製薬メーカーに転職してしまう。医師ではない世界を経験したくなったのだ。会社では、マネージメントに携わり、在籍した9年間で2件のM&Aも経験した。

40歳を超えて実質的に医師を辞めて、社会に出てみると、医療をみる視野も自然と拡がる。私が追ってきた最先端の医療・医学と、普段人々が享受している医療の間にいかに大きなギャップが存在していることか!どれだけ進んだ医療・医学があっても、それを日常生活にうまく取り込まなければ無用の長物だ。私は50歳を超えて、人々の役に立つヘルスケアの実践を促進し広める活動を次のテーマに掲げ、とうとう自分で会社を設立したのです。その時まず取り組もうとしたのが、“ヘモ活”推進だったのだが、いったいどういう活動なのか?ヘモ活って何?その詳細は後程。

“自分で自分を守る”;コロナ禍で知るセルフメディカルチェックという考え方

私の独立・会社設立の直後に、コロナ禍が起こった。新型コロナウイルスの発症は発熱で知らされる。当局が『37.5度、4日間』というキーワードを喧伝したこともあって、家庭でも、会社でも、あらゆる場所で体温チェックが求められるようになった。多少の混乱はあったが、ウイルス感染症で持続する体温のチェックは有効な評価方法だ。実はビジネス書の中でも毎日の体温測定は体調管理の基本だというものもある。

体温計はどこの家庭にもある医療機器で、みんなこぞって体温測定をおこなった。しかし、困ったことには、こんなに身近なものだと思っていた体温計だが、実際に測ってみると結構37℃以上の結果が出る。文献を紐解くと、起床時、睡眠時の37℃以下の体温と比較して日中は体温が上昇する。個人差はあるだろうが、日中の体温が37℃を超えるのも決してまれではないというデータもある。実は、これは多くの医師も実感を持って理解できていなかったことだ。測定する時間で体温が異なるのは当然だが、一般の方にはなおさら理解されていないことだった。体温計は体調管理に有効であるが、一日の中で変動する値であるという点は重要なポイントだ。

さて、血圧計も普及率の高い医療機器で、現在1000万台程度が一般家庭にあると考えられている。その値の変動に一喜一憂する方が多い点で体温計と同じだ。今や血圧の測定は医師の手から一般の方の手に移ってしまった。血圧を変動値として正しく理解している方が意外と少なく、高い値が出ては心配で測定を繰り返し、さらに血圧の上昇を招く状況である。
コロナ禍で家庭に閉じこもり、自分で自分を守るために体温計と血圧計は重要な医療機器である。ウイズコロナの時代では、身近に医療機器を置き、自分で測定し、自分で評価することが求められてくるかもしれない。これを私は『セルフメディカルチェック』と名付けている。

今回のコロナ禍で注目されているパルスオキシメーターも随分と売れている。第3のセルフメディカルチェック機器となるかもしれない。セルフメディカルチェックは、ウイズコロナあるいはアフターコロナでも重要なキーワードとして覚えておいてもらいたい。

ヘモチ(ヘモグロビン値);忘れられてきた古くて新しい指標

私は、ヘモグロビン値を、簡略化して『ヘモチ』と呼んでいる。セルフメディカルチェックの重要な項目のひとつになると考えている。

セルフメディカルチェックの項目の特徴は『家庭でも測れる』『変動値』で、体調管理に重要であることだ。それならば、ヘモチ(ヘモグロビン値)はどうか?女性、特に約20%が貧血である日本の女性の月経周期におけるヘモチの変動は重要な対象だ。また、近年注目されるようになった“熱中症”に代表される脱水症におけるヘモチの上昇もそうだ。でもヘモチって家庭で測れるの?他にどういう体調変化を反映するの?

次回からはこのような視点でヘモチを見ていきたいと思います。ご期待ください。

<プロフィール>

久保 肇(くぼ・はじめ)
外科医師
ヘモ活推進協会代表理事・スターリング株式会社代表取締役・株式会社MSP代表取締役

三重県生まれ。1992年、京都大学卒業。京都大学医学部附属病院、神鋼記念病院で外科医師として修練後、京都大学大学院、ヘルシンキ大学でがんリンパ管研究の創始に携わる。2003年帰国し、京都大学医学部附属病院外科講師、京都大学助教授としてがん研究の後、2010年田辺三菱製薬にて会社のマネージメントを経験。2019年、役立つヘルスケアを啓発することを目指し株式会社メディカルサイエンスパートナーズ(MSP)設立。現在、スターリング株式会社代表取締役、一般社団法人ヘモ活推進協会代表理事。

››› 一般社団法人ヘモ活推進協会
››› Twitter @kuboflt1965

久保 肇

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