記事・インタビュー
医師のSNS利用や活用法についての対談企画、第2弾。
SNSやデジタルマーケティングにも詳しい水野 篤先生(聖路加国際病院)に、Twitterフォロワー数約5万人(2020年1月現在)外科医けいゆう先生(本名:山本 健人)と「医師のSNS」というテーマのもと、SNSを使った情報収集の方法や、情報発信する際の注意点などの内容で対談していただきました。
「医師が知っておきたい、SNSの活用法」
››› 第1弾:伊田 瞳先生×水野 篤先生
SNS活用のコツ
水野:伊田 瞳先生はママブロガーと積極的に絡むことで情報収集やテキストの書き方を見習っていたようですが、けいゆう先生はなにかありますか?
けいゆう:僕はネット内では奥手なので誰とも絡んでないですね(笑)。
戦略があるとしたら、通勤時、ランチ、夕方、21時以降など、ネットユーザーがアクティブな時間にツイートするくらいでしょうか。
水野:対象は一般向けの医療情報ですよね?
けいゆう:そうですね。ただ、最初から医療情報を収集したいと思っている人にフォローされるだけでは、あまりフォロワーは増えないです。そういうフォロワーさんは僕が存在しなくても自力で情報収集できるのです。でも、趣味とか別の目的をメインにTwitter使っているユーザーが、医療とは無関係のツイートを見て「この人面白いな」と僕のフォロワーになってくれて、「へぇ、この人は医療情報もつぶやいてる、ちょっと読んでみようかな」というところに、Twitterの最も重要な部分があると思っています。
水野:つまり「医療に関係ない人も含めた情報発信」ということですね。
けいゆう:そのとおりです。医療にガチガチの人ではないけれど、「そこそこ面白いことをつぶやく人だからフォローしてみようかな」と思ってくれる人たちにフォローしてもらいたいので、医療以外のこともツイートしています。実際、そちら側の方が人気です。
水野:ドラマの解説もそのためですか?
けいゆう:ドラマもそうですし、日常の仕事中に思いついたこととかですね。例えば、最近バズったツイートで言うと「後輩への教育」です。
後輩に指導する時、見本を見せた後で「はい、じゃあやってみて」と投げるより、事前に「私のこの動作とこの動作を見といて」と具体的に指示した方が有効なことがあって、右も左も分からない新人の頃は視界に入る全ての情報が新しいので、そこに優先順位を示すと随分楽に学べるように思うんですよね。
— 外科医けいゆう『医者が教える正しい病院のかかり方』好評発売中 (@keiyou30) 2019年11月11日
一方で、次のツイートは完全な医療モノです。それなりに拡散していますが、こういうのだけだとフォロワーが重く感じてしまうのですよね。
夜間休日の救急外来をしていると、「点滴希望」がすごく多く、点滴すれば風邪は治るし体も元気になるし点滴は万能、というイメージを持っている方が多い。
外来で単発で行う点滴の中身はほぼ水(+ナトリウムやカリウムなど電解質)だけなので、そんな効果はもちろんなく、水分補給が主な目的です。— 外科医けいゆう『医者が教える正しい病院のかかり方』好評発売中 (@keiyou30) 2018年12月9日
水野:外科のイメージなのですが、自分から発信したりする医師は少ないですよね。
けいゆう:少ないですね。患者さんにとって、内科や産婦人科、小児科などクリニックで会う機会のある医師は何をしているか想像がつきますが、外科医の仕事はあまり知られていませんよね。ドラマのイメージをそのまま持っている人もいます。
こういう状況が誤解や不信を生む温床となってはいけないと思い、発信しています。
水野:なるほど、すばらしいですね。もう少しだけ詳しく聞かせてください。
最近は外科の王道として、専門医の希望者数が減っているということも少し話題に上がるようになっています。むしろ、手術するような王道の外科とは別に、アウトサイダー的に情報発信する人が増えてきているような気がしますが、いかがですか?
けいゆう:多様化していますね。いろんな考え方の人がいていいと思います。私自身は、医局に属していて、専門医をとって大学院に戻って学位をとる、というタイプの医師がどう思っているかを伝えるポジションかなと思っています。露出が増えるとあまりきちんとした医者ではないように見られるのは心配ですが…。
水野:やはり、確かにフォロワーが増えてくるとそう見られがちかも知れませんね。。。自分もそういう色眼鏡で見てしまっていたようにも思います。抵抗感はないですか?
けいゆう:非常にあります。こういうことやればやるほど、むしろ本業の手を抜けない。学会や論文、アカデミックな活動は、より手を抜けませんね。
水野:リスク高いですよね。少し先生より年を重ねた僕らの世代(40代)はSNSリテラシーが低いので、やりたいと思っていても手を出せない医師も多いと思います。情報を発信する方法、その際に注意することがあれば教えてください。
けいゆう:発信者は自分の特性を見極め、使い分ける必要があると思います。まずは発信している人たちをフォローして、受信ツールとして活用してみることをお勧めします。あれだけフォロワー多いヤンデル先生(@Dr_yandel)も「Twitterは受信ツールだ」と言っていましたし。
そこから全体像がわかり、自分がどういう立ち回りをすればよいかが自然とわかってきます。「発信する側」、「発信には向いていないから受信側」、「情報を中継するハブのような役割」など、いろんなポジションがあると思います。フォロワーが多いからいいというのではなく、自分の性に合った使い方が大事だと思います。
情報発信者としての心得
水野:そのほか、発信する際に注意することなどありますか?
けいゆう:情報を噛み砕いて、うまく言語化することが大切だと思います。それから、自分の意見や経験と、多くの医療者のコンセンサスが得られた情報はなるべく切り分けて発信するようにしています。
水野:フォロワーが5万人もいると、発信するのも恐怖ですよね。
けいゆう:確かに恐怖はありますね。ただ、こういうことが好きなので続けられます。
水野:医療知識の中で一般に有益な情報を噛み砕いて発信することがロジックですね。
けいゆう:医者って伝えたいことを全て発信したい性質の人が多いと思うのですが、Twitterでは「伝えたいことの半分くらい伝わればよし」と考える割り切りは必要です。
水野:けいゆう先生が手本にした人とか、参考にした人は誰ですか?
けいゆう:僕は、ブログもTwitterも医師以外の人たちを見て学びました。ブログを始めた時に参考にしたのも、人気ブロガーや有名サイトの管理者の方々です。中にはブログで生計を立てている人もいらっしゃるので、とにかくレベルが違うのです。
僕らは医師という枠組みの中からいつもメンターを探そうとしがちですが、医療以外で勝負するなら、その枠組みを取っ払わないといけません。
水野:SEO対策は今も昔も企業がお金を掛けて頑張っていますが、けいゆう先生は今もやっているのですか?
けいゆう:今はあまり意識はしていません。基本はSNSで記事を紹介して読んでいただく形が多いです。ブログにはリンク集や症例別のチェックリストを作ったりして、直接訪問してくれる人を増やす施策をしています。今はそれしかないかなと思っています。
水野:それは医療系に限ったことなのでしょうか?
けいゆう:医療系以外も変わってきています。企業のドメインでないと上位表示はなかなか難しくなっていますし、特にYMYL(Your many your life)領域と呼ばれる医療・健康・金融・保険などは人の生活に直結しますので、Googleは検索順位を厳しく管理しているようです。医療はそのど真ん中なのでSEOで戦うのはかなり厳しいと思います。
水野:発信の際の決め事などはありますか?
けいゆう:私は書いたものをすぐツイートしないと決めています。ツイートを考えるのは、通勤の電車の中や、夜の子供が寝てからですね。ネタを思いついたら単語1個でもメモしておきます。ツイートを作ったら、一晩以上は寝かせて発信します。
不意に書いたツイートって、誰かを傷つける恐れがあったり、読みにくかったりしますが、時間をおいて読み直すと改善の余地が次々見つかってくるんです。
水野:ネタの仕入れ先はどこからですか?
けいゆう:多くはTwitterからです。受信した情報からいろいろひらめきます。
SNSをキッカケに広がる世界
水野:Twitterしていて良かったなと思うことありますか?
けいゆう:同じ志を持った人たちと出会えたことです。Twitterで繋がった人が違った視点を持っていたら自分が成長できますし、Twitterでの繋がりがきっかけで「SNS医療のカタチ」という団体を作ってボランティア講演などできるようになりました。
水野:いいですね。これはさっきの話につながって、正しい情報を発信することによって、人としての繋がりが持てるようになりますよね。ブログとは違うところがTwitterで見えたのですね。情報発信はみんながみんな発信者にならなくてもいいというお考えでしたが、情報収集で参考になったなと思うときはどんなときでしょうか?
けいゆう:Twitterで他の科の医師をフォローすることで、様々な科の先生の考え方を知ることができますよね。これを日常診療にフィードバックできる。研修医時代のスーパーローテートで学べなかった、もっと深い部分をTwitterから得ることができます。
水野:ついつい、Twitterを始めるときにはフォロワーを増やしたりすることに焦点が集中してしまいがちですが、そういうフォロワーの獲得だけではなく、自分が情報収集するためのポイントは重要だと強く思っている次第なので大変勉強になります。とりあえず他の診療科の先生をFollowしてみましょう!あとYouTubeはやっていますか?
けいゆう:はい、動画を作ってアップしています。動画の医療情報ってひどいものが多いんです。これからは間違いなく動画検索の時代になります。今の小中学生はGoogleでなく、YouTubeで情報検索しています。今は30本以上動画コンテンツをアップしたのですが、そのときにどんな動画がよく見られるのか、といったアクセス解析をしています。
水野:かなり興味深い内容ですね。
僕もYouTubeはいいなと思っていて、企業から頼まれてレクチャー動画なんかを作成しているのですが、注意することなどありますか?
けいゆう:YouTubeは顔出ししている人が多いと思いますが、僕自身は今はまだ自信がなく、少し抵抗があります。
水野:では、どのような活用がいいと思いますか?
けいゆう:動画は水野先生がケアネットさんでやられているように、学会や公益性の高い団体、企業レベルで運営するのがいいように思います。ケアネットさんは医師向けにクローズドで公開していますが、あれを一般向けにやるのも有効じゃないでしょうか。
水野:その意見すごくいいですね。けいゆう先生の話を聞いているとバランス力や危険回避能力がとても高いと感じます。物事を常に客観視していて、いきなり飛び込まない。リスクもどのくらいまで危ないか・ヤバいかっていうのが自分の感覚でわかっているのが優れている点だと思います。
ところで、YouTubeではどんな動画を作っているのですか?
けいゆう:僕はスライドを使った解説動画です。とても地味なのですが(笑)。
例えば、私の大腸がんの解説動画は、「大腸がん×症状」の検索で1位に表示されるのですが、これが約19万回再生されています。検索で見てくれるユーザーは本気度が高いので、動画を最後まで見てくれます。このことから、チャンネル登録者だけでなく、検索で訪れてくれる一回きりの視聴者を集めることも大事だと分かります。
水野:公益性の高い情報に戻っていますよね? これは何故なのですか?
けいゆう:YouTubeはまだSEOで戦えると思ったからです。テキストはbotが記事内容の価値を判断できますが、動画はまだbotが日本語動画の中身を評価できないと思います。だからこそトンデモ動画もたくさん上位に出ますし、逆にここに戦う余地があります。
水野:なるほど、ちょっとまだまだ情報に弱いので勉強になりますね。こういう思考回路は面白いので皆さんの参考になるかもしれません。ちょっと先ほどの話に戻りますが、SNSというだけでオチャラけて見られがちなので、Youtubeは相当精神的にも頑張らないと。。。
けいゆう:水野先生は循環器学会で広報を担当されていて、アカデミアとしての色を残しつつ発信できる立ち位置なのは強いと思います。僕の場合は「こんなことばっかりやってないで本業やれよ」って思われるでしょうから。
水野:自分はあくまで一員ですので、色々広報部会の野出先生、岸先生のような諸先輩方に勉強させていただいているだけですので恐縮です。ところで、けいゆう先生は本も書いてらっしゃいますね。初期研修医向けの本かと思ったら、かなり外科医向けだったので少々ビックリしましたが、けいゆう先生のほんわかトークがよかったです。あと、外科の先生って本当に絵が上手いですよね。
けいゆう:ありがとうございます。
この本は外科医志望の後輩向けに書いたのですが、若手医師全般が楽しめる内容も加えました。この本でメインにしたのは、論文の書き方や学会発表のやり方です。論文の書き方の本なんて山のようにありますが、もっと手前の入門のところで躓いている人向けに書いています。
あと、業績を管理することの大切さも強調しています。手術の件数、論文や学会発表の履歴、これは専門医申請の時に必ず必要ですし、自分の軌跡を振り返るためにも大切です。
さらに、他職種の方々や患者さんとのコミュニケーションについても書いています。これは医師が本来最初に学ぶべきことなのに訓練されるタイミングが少ないので、どうしても書きたかったんです。
水野:自分も研修医のときに読みたかった情報ばかりでした。今後ロボット手術や遠隔医療などでいろんな外科医が出てくると思いますし、さらにSNS、ネットワーク関係、コミュニケーション論が強い医師が出てくると面白いですよね。みなさん、ぜひこの本を読んでみてください!
また、新書も発売されましたね。こちらは一般向けですか?
けいゆう:これは病院のかかり方について書いています。病院に何を持っていくか、どんな格好で行くか、どんな市販薬があるかといった、かなり基本的なことから、役立つ医学の情報まで幅広い内容を含んでいます。誰しも病院の利用法をレクチャーされることがありませんから。
水野:医学生・若手医師にメッセージをお願いします。
けいゆう:自分が医学生や研修医のときに知りたかったけど意外と教えてもらえなかったことをこの本に書いています。若手のときは雑務に追われてすごく忙しいですけど、業績管理やコミュニケーション術をしっかり磨いてほしいと思います。
業績をきちんと管理していれば過去の症例1つ1つ振り返る必要がないですし、コミュニケーションが上手なら他職種の方々や患者さんとの無用なトラブルを回避でき、その時間を自分の学びに費やすことができます。ストレスも溜まらないですしね。
水野:けいゆう先生は本当にロジカルですね。
けいゆう:優秀な先輩方に恵まれたおかげでしょうか。いろんな先輩から考え方を学んできましたので。
水野:Twitterで発信することだけに限らず、全てにおいて効率を求める姿勢は若手医師にとって非常に勉強になると思います。またTwitterの発信を一晩寝かせたり、YouTubeなどに対する姿勢、常にリスクを考えながらバランス良く対応されていることは、私自身とても勉強になりました。今日は楽しい時間をありがとうございました。
<プロフィール>
山本 健人(やまもと・たけひと)
水野 篤(みずの・あつし)
聖路加国際病院循環器内科・QIセンター 副センター長/
聖路加国際大学看護学部 臨床准教授
医学教育イベントの開催や、QIセンターに所属し医療の質を改善させるための行動経済学的アプローチなどを研究している。2019年の『第83回 日本循環器学会学術集会』においては、日本循環器学会の公式Twitter(@JCIRC_IPR)から情報広報部員の一員として日本国内の医学系学会では初めて学術集会中の発表内容を発信して話題を呼ぶなど、マーケティング・広報にも精通。
››› 著書や執筆も多数(Amazonのサイトへ)
››› 学術集会Twitter論文
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››› Facebook
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『もう迷わない! 外科医けいゆう先生が贈る初期研修の知恵』クリニカル・ベース・レジデント シリーズ/山本 健人(著)
消化器外科医の日常を通し、医学生や研修医向けに「初期研修で学ぶべきこと」が余すことなく伝えられています。これから初期研修を受ける医師にとっては必携の書となるでしょう。本書が贈る「知恵」が初期研修を実りあるものにしてくれると確信しております。
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