記事・インタビュー

2020.01.09

<どくとるケイコ奮戦記>モントリオール編(2)


※ドクターズマガジン2019年8月号に掲載された内容です。

#02 縁と流れには抗えない

元ギタリストでCDも出してるスーパーバイザーのMichael Sullivan先生。学者というよりアーティスティックな雰囲気です。

モントリオールに降り立って、約1年が経過しようとしています。到着早々はどうして民が屋外でやたらとテンション高く嬉しそうに笑い合い、深夜2、3時まで若者が外で叫びながらスケボーで滑りまくっているのかが理解できず、「赤毛のアンはどうした? イメージと違うんやけど東カナダ」と一人シラケていたものです。しかし、一緒に厳しい冬を越えて分かりましたね。この良い季節、無性に喜びがこみ上げてきます。私もお外で一緒に叫びたい! 気持ちを抑えて前回の続きです。留学先のSullivan先生を知ったところまで書きました。

モントリオールに決まるまで

学位論文は仕上がったが留学がまだぼんやりとしたイメージでしかなかった2016年秋、国際疼痛学会という痛みの分野で最大の国際学会が横浜で開催されました。大会場の扉を開けたところに偶然、メールのやり取りとホームページ上の写真でしか知らなかったSullivan先生がスマホを触りながら明らかに講演を聞かずに立っていました。そこで「今しかない」みたいなよく分からない勢いで「ちょっと外にいいですか?」と大先生を無理やり通路に連れ出し、「すみません、研究のことでメールしていた山田ですけど、オタクにポスドクの席は空いてませんか?」とカタコトで唐突に尋ねました。すると二つ返事で「空いてるけど、来る?( でも資金は自分で用意してよ?)」と驚くほどトントン拍子に。ただまあ、Sullivan先生のセリフ後半、ほぼ脳を素通りしていた(でも資金は自分で用意してよ?)がこの後ボディーブローで効いてくるわけなんですが……。実はその時点ではSullivan先生は豪州の某大学に異動されたという認識で、モントリオールなら食事も美味しそうで良かったのに……、と思いながら。そして私は同年12月にたまたま豪州開催の学会に演題を出していたのでその旨をお伝えすると、「僕もその学会に行くからその時にランチをしながら話を詰めよう……」と。縁がある時、流れがある時ってこんな感じなんですね。改めて豪州でしっかりお話をしたら、「事情で今はモントリオールのMcGill大学に戻ってきたよ」とのこと。

厚生労働省で医系技官をやる(1回休み)

Sullivan先生に「ウチくる?」と言ってもらったのと前後して、もう一つのドラマがあり、留学は1年先延ばしにし、人事交流枠にて、厚生労働省に宮仕えすることになりました。留学コラムのアカウントなのでここでは書き控えますが、霞が関で壮大な社会科見学(現地でウケた表現)を経験し、良い意味でのナショナリズムを胸にカナダへ来ることができました。

Work Permit(就労許可証)

就労許可証の取得や生活周りのセットアップ話は、留学希望者の参考になるようでいて、ケースバイケースすぎて個別事例は実はそれほど役には立たない気がしています。ただ、米国以外の情報があまりに少なすぎるので少し残しますね。

ネット情報ではなんと日本人のカナダのビザ申請は駐日カナダ大使館ではできず、フィリピンの駐マニラ・カナダ大使館にアクセスが必要!? 私の場合は、McGill大学が「Immigrant lawyer(移民弁護士)」なる専門職を雇用していて、就労許可証関係はその方の指示に従いました。最低限の書類手続きを大学側がこの移民弁護士を通してやってくれて、「後は駐マニラ・カナダ大使館に申請したかったら好きにしたらいいけど、直接カナダの空港の入国管理事務局で書類を出せばその場で許可証がもらえてスムーズ」という話でした。本当に信頼できる情報なのか分からなかったですし、入国できるまで半信半疑で怖かったです。

さらに次回につづく

真夏の8月号にて恐縮ですが、定点観測に基づく、モントリオール(春)の草木の増殖力に驚いています。日照時間の急激な延長に伴って日増しに茫々と生い茂り、エネルギッシュです。今日カナダ人の同僚にその感想を述べたら、「そうやねん。春の推進力が凄いねん! すぐ夏やで(意訳)」と返ってきました。「風土が人間に影響する」と、哲学者の和辻哲郎先生がおっしゃっていましたが、今まさに風土に影響される山田です。ここモントリオールは、移民文化を礎に文化的考察が盛んな土地でもあります。次回以降そんな話も展開したいです。

 

山田 恵子(本名)Keiko Yamada

McGill大学心理学科ポストドクトラルフェロー
日本学術振興会海外特別研究員

山田 恵子

<どくとるケイコ奮戦記>モントリオール編(2)

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