記事・インタビュー
※ドクターズマガジン2019年10月号に掲載された内容です。
#04 景色
唐突ですが、カルガリー在住の旧友のアテンドで2泊4日のカナディアンロッキー弾丸夏旅行を果たし、そこでParks Canada(カナダ国立公園管理局:国立公園を管理する政府機関)のお仕事ぶりにいたく感動したので、第4回はその感動を皆さんにお届けするところから始めさせていただきます。
Parks Canada まじリスペクト
私はかつて窓のない手術室で黙々と働けたくらいの誇り高きインドア派ですが、折角カナダに来たんだからアウトドアも少しは味わうべく、日焼け止めクリームを握りしめ、王道のバンフ国立公園に向かうことにしました。ダイナミックな風景の素晴らしさなどは「絶対に」文章で伝わるわけはありませんし、世の中にいろいろな写真集やら動画が出回っておりますので割愛します(ええぇっ)。
しかし何が凄いって、途方もなく広大な敷地なのに、国立公園が四方八方、完璧に管理されているということ。英国式庭園や日本庭園の様式美や管理技術の高さは言わずもがなですが、キャンパスをもっともっと壮大にして、恐らくチームにはシミュレーションなどを担当する理系な人たちもいて、そこでは何やらナショナルジオグラフィックな世界が展開されているんだ! とインドア山田は妄想しました。弾丸旅ながら、日頃モントリオールの都会で生活しているのでは知る由もない、カナダ人の自然へかける本気度を肌で感じたわけです。カナダ建国150周年だった2017年には国立公園のパスを無料化して皆でお祝いしたそうな。Parks Canadaなんてここに来るまで存在すら知りませんでしたが、あまりにも素晴らしいお仕事ぶりに、これは誰の仕業? という話の流れから、その名を知りました。国立公園の管理方針は娯楽よりも生態系維持重視で、人間はあくまで自然を間借りしているというスタンスなんだそうです。公園内にときどき緑の補色である赤色の木製椅子が設置してあって、友人情報によると、そこから座って見る眺めが最高ですよ、というParks Canada御墨付き景色を示す椅子なんだとか。こうした押し付けがましくなく、気が利いたお洒落仕事は私も目指すところです。(この椅子は公式サイトで販売中)
すっかりParks Canadaリスペクト態勢に入った私は、公園内で販売されているParks Canada公認ビーバーロゴが入ったグッズを買い漁り、駐車してあったParks Canada車と勝手に記念撮影をし、ロッキー山脈の自然に敬意を表して旅を終えました(`д́) ゝビシッ。
環境と健康と
そういえば日本の国立公園は誰が管理してクレテルノ?? と気になったインドア研究者山田は調べ、農林水産省ではなく、環境省だといまさら知りました。国立公園の敷地面積はカナダ(約30万km2)が日本(約2万km2)の約15倍で管理予算はカナダが日本の約5倍、つまり敷地面積あたりの予算による判断では、日本より資金効率良く管理しているが、カナダの国家予算は日本の約3分の1なので、予算を占める割合は大きいです。
いまや健康づくり行政において保健医療部門だけが取り組む時代は終わり、世界保健機関(WHO)も「多部門連携による保健事業(Intersectoral Action for Health; ISA)」の重要性を掲げています。例えば交通関連部門が「歩きやすい」道路を造ったり、公園管理部門が国民の健康のために公園利用を促進したりといったことが日本の健康施策の中でも広がってきており、カナダの国立公園の整備や管理も間接的に、訪れる人々の健康に貢献します。「痛み」にも必ず良いはずです! 環境省と厚生労働省が合同庁舎なのも、きっと環境と健康が密接に関係しているからでしょう。
見えている景色が違う
前回号で取り上げた多様性の流れから繋げると、生育環境から形作られた心象風景(自然だけでなく都会も)がこうも違うと、例えば芸術や文学として表現した場合に異質な仕上がりなのは当然とされます。こと現代医療や科学技術に関しては、同一の現象を対象にした画一された世界という扱いですが、担い手の育った文化的背景が違えば、自然科学の着眼点やアウトプットも自ずと異なるだろうとロッキーの広大な自然を見ながら思いました。広大な自然が日常茶飯事ならば、逆に盆栽や茶室に宇宙を見る、なんて発想にはなかなか至らないでしょうから、ディテールに凝ったり、シンプル禅マインドを追求するのがわれわれの勝ち目でしょうか。
すっかり話が脱線しましたが、今回は夏休みバージョンということでご了承ください。
山田 恵子(本名)Keiko Yamada
McGill大学心理学科ポストドクトラルフェロー
日本学術振興会海外特別研究員
山田 恵子
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