記事・インタビュー

第4回 医師こそ、もっと寝かせなさい!!
暖かい春の日差しを浴びて、草も木も研修医もすくすく伸びる4月。ココしまねは、一年で一番の輝きを放っております。今月末から恐怖のゴールデンウイーク10連休。当直やオンコールを避けられない皆様なら納得いただけるかと思います。年末年始などの長期連休は他の病院・医師が休む時期であるからこそ、ジェネラリストの出番であると信じて働きづめでやってまいりました。そう、「医師が不眠不休で頑張る事 ≠ 患者さんにとって良い事」という事実を認識するまでは…。
僕はバンコクに留学前の1年間、さまざまな救急告示病院で患者さんの不利益にならない限り、断らずに救急車を受け入れ続けていました。今思えば、勤務してほしいという需要に不眠不休で精一杯応えることがカッコいいと信じていました。どこからか声が聞こえてきます。「坊やだからさ。若さゆえの過ちというやつだよ」と(シャア・アズナブル風に)。自分は寝ていないと不機嫌になるし、判断に影響が出やすく、苦い思いもしてきました。おごりではなく、1日8時間のみの勤務だったら絶対にしないような判断ミスも数多くしてきたのではと思います。
前回まで、診断エラーの学術的なことをお話ししてきましたが、今回はそのような働き方と診断エラーの観点からの小話を。いろいろな職種の人と交流も増え、航空会社のパイロットの知り合いができました。彼曰く、睡眠と健康管理が厳しく義務付けられているそうです。それは【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】であるゆえに、当たり前の義務であり権利であると。確かに飛行機に乗ることが多い自分も、あの強風と雪の出雲縁結び空港にいつも安全に着陸してくださり感謝です!そこで、ふと気づきました、【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】って…僕らじゃん!!まさに診断のついていないド緊急の業務や処置をすることが多い医師の仕事ではないですか!何故医師は睡眠を取らなくても許されるのでしょうか?では、寝ていないことと診断エラーについて疑問が湧きます。2018年にLancetから働き方改革もビビるような際どい論文が出ました。34時間以上の連続勤務をしている医師は休みをちゃんと取っている医師より460%も診断エラーが多く、また前日の睡眠が6時間に満たない外科医はよく寝た外科医の170%も手技での合併症を与える可能性が高いそうです。1)ゲゲっ、本当ですか!?ここまで多いのですか!!でも、過去のやらかした思い出は決まって連続勤務時であったので、確かに自分の反省と一致します。医師が患者に与える有害性の研究など背景的にも出来なかった時代に、NEJM(2005年)から連続勤務と医師の交通事故に対する前向き研究の結果が出ました。2)24時間以上の連続勤務をした後は実際に車の衝突事故が2.3倍も高く、事故直前のヒヤリハットが5.9倍も高くなると。車の運転ですら、明らかに当直明けは超絶リスクな訳でありまして(私にも経験があります)、これが認知バイアスや感情や疲労などに影響を受ける臨床と診断であればなおさら危険と感じます。そう、睡眠不足と診断エラーは直結しているのですね。経験的にも、感覚的にも、数値的にも。
不安になられた病院経営や医療安全に携わる先生方、大丈夫です!!米国でのパイロット(笑)調査では、研修医に16時間以上の連続勤務を制限した上に、次の勤務前に必ず8時間以上の休息を取らせるようにした結果、重大なアクシデントは20%以上も減り、診断エラーに関しては1/4から1/6にまで減少したそうです。昔、体育会系のマッチョな指導医に「寝られる時に寝ておけ、食える時に食っておけ!」とよく言われましたが、これはまさに診断エラーの観点からとても大事です。指導医の皆様、研修医が昼間に寝ていても、「こいつはデキる!医療安全を考慮して居眠りしているのだね」と褒めてあげてください。まさに【寝る子は安全】なのですね。
パイロットに対する飲酒や睡眠と安全性の話題も大事ですが、十分な睡眠もとれずに疲弊しまくっている臨床医をたっぷり寝かせる事はもっと重要だと思います。だって僕らの仕事は【人の命を預かる極めて責任の重い仕事】なのですから。働き方改革が我々医療者にとって、そして国民の皆様にとってどのような展開を見せるか。これから来る新時代が楽しみでなりません。
和足 孝之(わたり・たかし)
2009年岡山大学卒。湘南鎌倉総合病院、東京城東病院を経て、2015年度マヒドン大学臨床熱帯医学大学院へ。2018年よりハーバード大学GCSRT在籍中。2016年より現職。あふれる情熱で臨床教育に力を入れている。
■参考文献
1)A sleep prescription for medicine, Lancet. June 8, 2018 http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(18)31316-3
2)Extended work shifts and the risk of motor vehicle crashes among interns. N Engl J Med 2005; 352: 125-34
Dr.和足のしまねから“こんにちは”
- (1)「診断エラー学」
- (2)診断エラーと認知バイアスについて
- (3)認知バイアスを乗り越えろ!
- (4)医師こそ、もっと寝かせなさい!!
- (5)あの指導医はヤバイと言われないために
- (6)ヤバイ医師に変貌する自分
島根県関連リンク
和足 孝之
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