記事・インタビュー

2019.09.25

離島・へき地に医療をつなぐ ゲネプロ(1)

「国内外を問わず、離島やへき地でも一人で闘える医師を育てる」という理念の基に設立された合同会社ゲネプロは、へき地医療トレーニングの最先端を行くオーストラリアの仕組みを参考とした研修プログラムを提供し、「Rural Generalist(へき地医療専門医)」の育成を支援しています。
救急医としてキャリアを築きながら、医師を育てることを使命とし、起業するに至った代表の齋藤 学先生にお話を伺いました。全3回にわたって、研修プログラムの詳細や先生が歩んでこられた道、そして離島・へき地医療への想いをお届けします。今回は、ゲネプロのビジョンや活動内容をご紹介します。

へき地医療の先進国・オーストラリアの仕組みを取り入れた教育提供機関


「離島やへき地、発展途上国で働きたい」と夢を抱く医師は多いのに、実現できる人はなかなかいません。「独りきりでの診療」「24時間365日休みなし」「家族の同意」といった不安やライフイベントに伴う環境の変化など、さまざまな壁が立ちはだかります。

私も同じ夢を持った医師です。そして多くの医師と同じように、夢を諦めかけた経験があります。その過去の苦い経験から、「離島やへき地で働きたい医師」をサポートする会社、ゲネプロを設立しました。

ゲネプロが提供する「日本版 離島・へき地研修プログラム(Rural Generalist Program Japan、以下RGPJ)」が参考とするのは、へき地医療の先進国であるオーストラリアです。

出会いは2015年の「世界へき地医療学会」。これまでの日本にはない、若い医師が集まる研修プログラムを考えていた時、海外を参考にしてみようと参加しました。カナダ、イギリスなどさまざまな国の事例がありましたが、オーストラリアがこの分野における世界の最先端というべき存在感を放っており、手本にしようと思いました。

オーストラリアで生まれた「Rural Generalist(へき地医療専門医)」とは、GP(General Practitioner)としてへき地の診療所で働きながら、全身麻酔をかけたり外科手術や緊急の分娩に対応したり、ある時はフライングドクターとして患者搬送を行うなど、幅広い疾患に対応する医師を指します。

オーストラリアでは、年間1,500人にのぼるGP志願者を2つある学会だけでは教育する手が回らないため、11の教育提供機関に委託して遠隔支援する仕組みがあります。また、研修現場の指導医だけではどうしても指導内容にバラつきが生じてしまうため、委託された教育機関がウェビナー(オンライン研修)を開催したり、研修病院を訪問してのフィードバックや研修生のメンタルサポートを行ったりしています。その仕組みを日本に持ってきたのが、RGPJです。

RGPJは日本で唯一、オーストラリアの離島・へき地医療をけん引する「オーストラリアへき地医療学会(ACRRM)」の認定プログラムで、さまざまな手厚いサポートを受けています。

離島・へき地で闘える人を増やすために

私たちのビジョンは3つあります。

  • 離島・へき地で働ける医師になること
  • 離島・へき地で働ける医師を育成すること
  • 離島・へき地で働ける医師を支援すること

この2番目に該当する「育成」を強く意識したきっかけは、実は『ドクターズマガジン』なのです。

『ドクターズマガジン2007年5月号』

浦添総合病院の救急総合診療部医長をしていた時に取材を受け、当時のメディカル・プリンシプル社の社長に「医師を育てる人を、育成する人になったらどうか」と言われたことが響きました。

自分一人でがむしゃらに働いたところで、できることは限られています。当時の浦添にはたくさんの仲間がいて、現場に立ちながら手取り足取り教えてはいましたが、経験の浅い医師が一人前に成長しても、そこから更に指導者に成長するまでには相当な時間がかかってしまう。特に離島・へき地のような、圧倒的に医療資源が不足している地域の支え手を増やすためには、「離島・へき地で働く医師を育てる指導者を育成する」のが近道だと思いました。

「最終リハーサル」で身に付けたことを、別の地域で実践する

会社名のゲネプロ(genepro)は、ドイツ語の「ゲネラルプローベ(ゲネプロ)」から取りました。舞台芸術やクラシック音楽で本番同様に行う最終リハーサルを意味します。

つまり離島・へき地を総合診療医の“最終リハーサルの場”として、そこで通用する技術と心構えを身に付け、やがて地元の地域医療に貢献する人になってもらう。さらに、研修を通して「真摯な志」「信念に基づいた真のプロフェッショナルとしての意識」を涵養することが、ゲネプロという名前に込めた理念です。

研修プログラムは2017年に始まったばかりで、卒業生が増えるのはこれからです。彼らが離島・へき地で培ったことを、地元やさまざまな地域で発展させてほしいと願っています。

ゲネプロでは、第4期プログラム受講生を募集しています。

2020年4月からの研修開始に向けて、病院見学およびプログラム参加希望者の募集を開始しました。新しい環境に身を置き、自分の弱点を見つめ、必要な手技や知識を獲得し、強化するプログラムです。
15ヶ月間限定で、全力で夢にチャレンジしてみませんか?

研修プログラムへのお問い合わせはホームページから
齋藤先生がどんな質問でもお答えしてくださいます。

<プロフィール>

齋藤 学(さいとう・まなぶ)
合同会社ゲネプロ代表

2000年順天堂大学医学部卒業。千葉県国保旭中央病院で研修後、救急医として沖縄県浦添総合病院に勤務。ドクターヘリを通して離島医療の魅力を知る。徳之島徳洲会病院を経て、内視鏡、在宅医療の研鑽を積んだ後、2014年9月に合同会社ゲネプロを設立。2017年4月より日本版「離島・へき地研修プログラム(RGPJ)」をスタート。世界トップクラスのへき地医療を展開するオーストラリア・クイーンズランド州と提携を結び、プログラムの質の向上を図っている。

離島・へき地に医療をつなぐ ゲネプロ

  1. (1)ゲネプロについて
  2. (2)総合診療医を目指し救急へ、そして起業
  3. (3)離島・へき地研修プログラム(Rural Generalist Program Japan)について

齋藤 学

離島・へき地に医療をつなぐ ゲネプロ(1)

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