記事・インタビュー
イギリスのメディカルスクールを卒業後、家庭医(General Practitioner、以後GP)として10余年活躍し、2016年に日本に帰国された佐々江 龍一郎先生。今回は医学部時代から医師免許取得までのお話です。
医学部へ入学
――今回は医学部時代についてお聞きします。まず、イギリスの医学部のカリキュラムについて教えてください。
前回(1)参照少し触れましたが、私が通っていたノッティンガム大学の医学部は5年制で、2.5年が基礎医学、残り2.5年がポリクリです。当時のポリクリは8週間ごとにローテーションして、ほぼ全科を回ることになっていました。
ポリクリは一見日本と変わらないように思いますが、決定的な違いがあります。それは「臨床推論」を重視していることです。具体的に言うと、ポリクリはとても実践的で、医学生もレジデントと同じように扱われます。どの科を回っても、問診と身体診察を上級医にプレゼンしなければなりません。
「鑑別疾患を挙げて」
「検査は何をするのか」
「なぜその検査をしたいのか」
「もし陰性であればどうするのか」
と、一連の臨床推論をひたすらやらされます。
学生のうちから基礎的な臨床推論を学ばせることはイギリスの教育理念であり、医療に携わる者として、「Patient-centered Health Care(PCHC):患者中心の医療」と、それを実現するための「コミュニケーション能力」を養うことが一貫しています。この方針は、医学生であっても、レジデントであっても、そしてベテラン医師であっても、医療人として携わる間はずっと変わりません。
――イギリスでは医学部に入るよりも卒業するほうが難しいというのは本当ですか?
あまり日本の医学教育を知らないのではっきりと言えませんが、留年制度については日本もイギリスも極端に変わらないと思います。それよりも、日本は医学部に合格することが難し過ぎると思います(笑)。
私の同級生についていえば、入学時は220名いましたが、5年の終わりには170名ほどになっていました。同級生の多くが医師になることを辞めてしまったり、留年したり。ちなみに、年度ごとの進級試験の再試は1回までで、パス出来なければ留年です。また、留年も1年までと決められており、それ以上は留年できません。
――それだけ淘汰されていくとなると、学生生活は勉強漬けになりそうですね。
もちろん勉強は大変ですが、サークル活動もほとんどの人がやっていました。私はサッカーをやっていました。イギリスはスポーツが盛んな国の一つだと思います。特にクリケット、サッカー、ラグビーが人気で、私も週末はクラスメイトと応援しに行っていました。ただ、日本のように医学部だけが集う大会(東医体、西医体)というのはありませんでした。
――医学部の学費は、どのくらいかかるのでしょうか。
ローカルの学生と海外留学生とで学費は異なります。学費には上限が設けられていて、ローカルで年間9,000ポンド(日本円で150~200万円)、海外からの学生はその2、3倍だったと思います。奨学金制度もありますが、かなり優秀な人に限られていた印象があります。
ノッティンガム大学医学部生 全員集合写真(2005年)
医師免許取得
――イギリスでは医師国家試験がないそうですが、どのようにして医師免許を得るのでしょうか。
イギリスでは、各医学部が行う卒業試験が日本でいう国試にあたります。もちろん、日本の国試同様、みんな必死に勉強することに変わりはありません。試験は「筆記試験」と「実技試験(OSCE)」がメインで、採点ボリュームは1対1。OSCEは模擬患者を診ることでコミュニケーション能力を問われます。
私の感覚ですが、筆記試験では知識を問うというよりも、「あなたは医師として安全に医療を行えるか」をテストしていると思いました。つまり、臨床推論やOSCEなどの実践的な試験を通して、「救急の場でどういう対応をするのか」「患者とどういったコミュニケーションをするか」などが重要なポイントだったと思います。日本と比べて1年短い訳ですから、プログラムは知識を詰め込むよりも安全でコミュニケーション能力の高い医師を養成することであり、細かい知識(レアな疾患の治療など)は初期研修中や専門医になるときに学んでください、というスタンスだと感じます。
ただ、私自身も帰国して昨年(2018年)日本の医師国家試験を受けましたが、本当に難しいなと思いました(笑)。イギリスで医師になって10年余り、それなりの経験を積み知識を習得してきたつもりですが、日本の医学生は医療知識でいえばかなりのレベルを求められていると感じました。
卒業証書授与式。右は母と(2005年)
佐々江 龍一郎(ささえ・りゅういちろう)
NTT東日本関東病院
総合診療科・国際診療科 総合診療医
佐々江 龍一郎
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