記事・インタビュー
地方独立行政法人 静岡県立病院機構 静岡県立こども病院 院長
坂本 喜三郎
いま小児医療は、コロナ禍で10年早く進んだ少子化と患者受療行動の変化で難しい舵取りを迫られている。そして、その傾向は地方ほど厳しい。ここでは、誌面を借りて……地方小児医療施設の院長(小児心臓血管外科出身。小児医療の全体把握が不十分か?)のぼやきと試行錯誤を書かせていただく。
『日本の小児医療:戦後の流れ』
日本の小児医療の流れは、第一次・二次ベビーブーム、経済発展と国民皆保険を背景に、小児科を持つ病院が全国の市町村に配置され、欧米に追いつけ追い越せで一気に小児医療レベルが向上し、2000年頃には臨床、研究ともに世界トップレベルとなった。しかし、バブル崩壊、その後の経済停滞(失われた20年)と、止まらない少子化が小児医療の縮小につながり、臨床も研究も世界レベルを維持することが容易でなくなっている。私の専門・小児心臓血管外科領域でも手術症例数が減少し、質の維持と次世代育成に懸念が生じている。
『少子化の地域間格差』
図1は人口統計資料集(2023)改訂版(厚生労働省)から抽出したデータで作製した。全国の出生実数は、2000年の119万547人が2020年には84万835人と70・6%と30%減少した。全47都道府県のなかで2020年/2000年比が全国平均を上回っているのは、出生数減少の割合が少ない唯一の大都市・東京(99・5%)を含む12県のみ(北から埼玉、千葉、東京、神奈川、愛知、滋賀、岡山、広島、福岡、熊本、鹿児島、沖縄:この12県で全出生数の50%、関東1都3県だけで30%を占めている)で、地方は60%前後が全国平均以下で、半分になった県もある。ちなみに静岡県は62・9%で、県・小児医療の最後の砦を自負してきた静岡県立こども病院も、規模縮小を選択肢に入れた大胆な対策を練る必要性を迫られており、運営の厳しさを実感している。
『地方の小児医療、特に夜間救急』
当院は高度・三次医療を担うべく1977年に設立された。が、小児科医不足を背景とした二次医療圏からの要望に応え2005年から二次救急へ参画し、徐々に分担比率を上げ、現在は4割を担当している。さらに今、地域医療においては二次にとどまらず一次レベルの小児救急、特に夜間救急も困難に直面している。夜間救急を必要とするのは低年齢児が圧倒的に多く、小児医療にとって夜間救急は極めて重要であるが、小児過疎化が進んでいる地域の病院・小児科は、診療科そのものを維持するのが困難で、実際に小児科を標榜する病院が急速に減っている。(図2)
当院は、2000年頃から小児過疎地域に小児科医を派遣するなどの貢献をしてきたが、最近は当院でも人材確保が容易でなくなってきている。
『当院の新たな取り組み:オンライン・リモート指導医支援』
静岡県には、単独で365日夜間救急を維持できる施設(小児科医9名以上)は6つしかないため、多くの地域で中規模小児科(小児科医2〜5名)が夜間救急を担っている現実がある。そういった施設では、若手医師の当直日も診療科長などの指導医が365日Oncall 支援をしており、彼らの負担は極めて大きい。ここに支援ができないかと考え、当院と静岡県が共同で試動したのが、若手医師がひとりで当直をしているときに救急外来に病児が来院→診断と治療に少し不安→そのときに、自宅で休んでいる同じ病院の小児科上級医師を呼び出すのではなく、当日その地域で当直している小児科指導医にオンラインで相談して診療を進められるようにする“地域病院群のオンライン連携による『小児救急リモート指導医相談支援事業』”である。(図3)
運用は、Zoom Roomsを用いて、情報セキュリティと個人情報保護の対策を万全にとったうえで『相談をする病院の医師が見ている電子カルテ画面を、相談を受ける指導医が共有して支援する』ものである。2024年1月に臨床運用が始まったばかりであるが、若手医師の不安解消とキャリア形成、年長指導医の負担の軽減、医師不足と働き方改革が重なる時代のマンパワーの効率的活用……につながるWin-Win事業に育ってくれればと祈念している。
『終わりに』
日本の小児医療は、少子化、受療行動の変化、医師不足、医療費増大問題、加えて働き方改革等々に晒され、大きな岐路に立たされている。その現実、データを直視し、あらゆる選択肢を検討し、子供たちの未来ひいては日本の未来が明るくなる英断、決断をすることが求められている。さあ、英断につながる議論をしようではないか。
坂本 喜三郎 さかもと・きさぶろう
1985年京都大学卒業。1987年静岡県立こども病院から1995年フランス・ストラスブール医科大学、パリ南大学マリーランロン病院に留学、1997年静岡県立こども病院心臓血管外科医長、2007年同院副院長兼循環器センター長、2017年より院長で二刀流。小児先天性心疾患の独創的な手術の名手として名を馳せている。「ドクターの肖像」2018年9月号に登場。
※ドクターズマガジン2024年4月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
坂本 喜三郎
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