記事・インタビュー

2023.05.18

【Doctor’s Opinion】新しい手術法を開発する意義

森山脳神経センター病院 間脳下垂体センター センター長

山田 正三

外科医にとって、手術法の歴史は、最高の治療成績が得られ合併症ができるだけ少なく、より低侵襲的にするための工夫の歴史であるといっても過言ではない。脳神経外科の領域でいえば、動脈瘤や血管の狭窄・閉塞に対するコイルやステントを用いた血管内外科治療は切らずに治す新たな治療法である。私の専門分野である下垂体腫瘍を中心とした間脳下垂体部の外科治療でも、経鼻内視鏡が広く導入され、術野をより広角に見ることが可能となり、従来の下垂体腫瘍手術のみならず、正中部の頭蓋底腫瘍の手術にも応用され始めている。

新術式や医療機器の開発・導入について

⑴患者さんへの応用と、医師の教育:センセーショナルな出来事として記憶されている2002年の青戸病院事件。経験が十分でない3人の医師が腹腔鏡下に前立腺癌摘出手術を施行し、出血多量で患者が死亡した。この事件では患者・家族に十分な事前説明がなかったこと、高度先進医療を行うための学内手続きも踏んでいなかったこと、手術時に指導医が不在で、経験が不十分な医師のみによって行われたことなどが明らかとなった。この術式は従来の開腹手術に比べて、低侵襲性の面で大きな利点がある反面、高度な技術の修得が必須であった。現在では関連学会、厚労省からも高難度新規医療について医療者が遵守すべき事項、担当部門が確認すべき事項等に関する基準が定められている。我々はこれらを理解し、遵守することはもちろん、常に高みを目指して日々の研鑽を行う努力を怠らないことが強く求められる。

⑵新たな術技で得られるもの、失うもの:新しい術技は従来の欠点を改良、克服するために導入されるものではあるが、従来法と比べ全ての点で優れているわけではない。失われてしまう従来の利点を取り戻すための創意工夫を行うこともさらなる術技の進歩のためには重要である。私が担当する経鼻手術でも手術用顕微鏡から内視鏡に変わったことで、術野が3D から2D になり、狭い術野で手術機材同士の緩衝が生じやすくなった。これらはさらなる技術の改良(3D内視鏡の導入、8K内視鏡の開発)へとつながった。しかし最近、鼻腔内粘膜への侵襲という意味では、粘膜下アプローチの顕微鏡下の経鼻手術の方が、より低侵襲的手術であったということを痛感し、小さな下垂体病変にはむしろ従来の顕微鏡下の経鼻手術へ回帰する方が良いのではと現在真剣に考えている。これらも顕微鏡下経鼻手術を数多く経験してきたからこそ分かることで、現在の内視鏡下の経鼻手術を行う術者の大半は最初から内視鏡で学んでいるが、諸先輩の技術は古いと決めつけないで、先達の得た貴重な経験を正しく伝承していくことも今後のさらなる手術の進歩には重要なことだと考える。

⑶新しい術技の考案:新たな技術を応用し、自身の手術の技術を向上させることは重要なことであるが、これに貢献できることは外科医としてこの上ない喜び、醍醐味でもある。その手術の本質的な目的を理解したうえで欠点を克服し、さらなる成績向上のためにどのような工夫を行えば良いのかを常に考えることが重要である。私は30年にわたり、間脳下垂体疾患の外科治療にまい進してきたが、この間、従来no man’s land と考えられてきた海綿静脈洞部に対する積極的なアプローチ、従来禁忌であった鞍上部に主座を置く頭蓋咽頭腫への拡大経鼻手術の応用、それでも切除が困難なものへの開頭、経鼻同時併用手術の応用など、その欠点を補い、克服するために必死に工夫を重ねてきた。これらの手術方法は当初は批判も浴びたが、現在では多くの施設で一般的術式として汎用され始めている。また、常に新しい文献を調べ、アンテナを張っておくことも重要である。例えばロボット支援内視鏡下の手術は、その特徴である狭くて深い術野でも繊細で正確な手術ができることを考慮すれば、まさに下垂体腫瘍の手術には最適な方法と考えられ、近い将来、single portのロボット支援内視鏡下の経鼻手術へと必ず移行するものと予測される。

医療崩壊が叫ばれて久しい。外科医は繊細な気遣いができ、人間味にあふれ、かつ腕が立つことが理想である。手術においても弱者である患者さんの立場を理解し、十分なinformed consentのうえで手術を施行することが求められる。一方、患者さんおよびマスメディアも厳しい労働条件下で頑張っている医師の心が折れてしまうような不当な医療者バッシングや医療過誤報道は厳に慎んでいただきたいと強く願う次第である。

山田 正三やまだ・しょうぞう

 

1977 年秋田大学卒業。虎の門病院脳神経外科専修医となる。1987年カナダトロント大学病理学科へ留学、1992年虎の門病院脳神経外科医長を経て2005年より同院間脳下垂体外科部長、2012年より副院長。2019年森山脳神経センター病院間脳下垂体センター長。低侵襲的な下垂体腫瘍の手術法を日本に広めた。2017年11月号「ドクターの肖像」に登場。

※ドクターズマガジン2023年5号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

山田 正三

【Doctor’s Opinion】新しい手術法を開発する意義

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