記事・インタビュー
福島県立医科大学 会津医療センター 研修教育センター長
総合内科学講座 教授
山中 克郎
多くの人が仕事と快適な生活を求め都会に住むようになってきました。国際連合「世界都市人口予測(2018年改訂版)」によれば、アジアとアフリカで都市人口が増加し、2030年には1000万人を超えるメガシティが世界で43に増加すると予想されています。2018年時点で東京は近郊地域を含めると3700万人が暮らす世界最大の都市です。
私は田舎暮らしが大好きです。都会の生活は便利ですが、情報通信技術(ICT)の発達により地方でも最先端の医学情報は入手できます。田舎には素晴らしい自然やおいしい空気、豊かな農作物があり、義理人情に富んだ優しい人々と触れ合うことができ、都会では味わえないような楽しみがあります。
私は50年以上、名古屋で暮らしました。55歳の時、どうしても地域医療がやりたくなり、長野県の諏訪中央病院に赴任しました。鎌田實先生に出会い、在宅医療や緩和医療の楽しさを体験しました。佐藤泰吾先生を含む非常に優秀な総合内科医たちと一緒に診療し、もう一度内科を学び直しました。
病院で診療をしながら、週に1日は訪問診療に出掛けました。高齢者の家を定期的に訪問し、訪問看護ステーションのナースらと連携を取りました。在宅医療では患者の生活環境を五感で感じ取ることができます。地域における在宅診療は医師にとって最高にやりがいのある臨床現場です。
▲豪雪のなか、患者宅に向かう「奥会津在宅医療チーム」諏訪で5年間を過ごした後、2年前から福島県の会津医療センターに勤務しています。会津若松市から車で1時間ほどの場所に私たちが在宅診療を展開する奥会津があります。電車マニアが憧れるローカル線「只見線」が走り、只見川に沿っていくつかの集落が点在します。冬は2mを超える積雪があります。
医師、看護師、ドライバーがチームを組んで人里離れた場所にある高齢者の住居に向かいます。この地域は人口8000人、65歳以上の高齢者が50〜60%を占める限界集落です。地元出身で地域を知り尽くしたドライバーが同行してくれるので安心です。集落のまとめ役にも会わせてくれます。
福島の西側3分の1を占める会津は、千葉県や愛知県とほぼ同じ広さがあり、谷に沿って集落が点在しています。こんな広大な地域において、在宅診療を効率的に展開するには、ICTの助けを借りなければなりません。この事業を軌道に乗せ、日本での地域医療のモデルとなるような在宅診療を展開したいと考えています。日本にはこのような地域が多く残されています。田舎が好きで暮らしている高齢者がたくさんいます。愛する家族に囲まれながら、住み慣れた自宅で最期まで楽しく人生を謳歌してもらいたいと願っています。
鎌田一宏先生を中心とする在宅診療医と救急対応を受け持つ病院総合医との連携は重要です。敗血症が起こった場合、在宅診療でいち早く高齢者の異常に気付き、病院総合医と連絡を取って救急室に搬送します。できるだけ早期に在宅診療に戻ってもらうことが私たちの目標です。そうすれば地域包括ケアが有効に機能し、無駄な入院期間延長や患者のたらい回しが防げます。
人生の最期の3カ月に多くの医療費が注ぎ込まれるといわれ、無駄な医療が行われている可能性があります。助けなければいけない命を助け、無駄な延命治療を行わず、その人らしく最期まで人生を楽しんでもらいたいです。
私の父は在宅医療を受けながら自宅で最期を迎えました。帰省して父に会ったとき、もう長くはないなぁと感じました。「楽しい人生だった?」と聞いてみると、「あ〜 いい人生だったな〜」と父は笑顔でつぶやきました。1週間後、母に見守られながら眠るように旅立ちました。
アパートの窓から見える丘は「白虎隊自刃の地」です。忠義を貫くために10代の若者が自らの命を絶った150年前の歴史を振り返りながら、この地で日本最先端の地域医療の実践を行いたいと考えています。
山中 克郎やまなか・かつお
1985年名古屋大学卒業。名古屋掖済会病院、名古屋大学病院免疫内科、バージニア・メイソン研究所、名城病院、名古屋医療センター、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)を経て、藤田保健衛生大学救急総合内科教授/救命救急センター副センター長、その後2014年より諏訪中央病院総合診療科院長補佐、2019年より現職。「ドクターの肖像」2012年8月号に登場。
※ドクターズマガジン2021年6月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
山中 克郎
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