記事・インタビュー

2021.05.26

【Doctor’s Opinion】“東日本大震災から10年たって思うこと”

岩手医科大学 救急・災害・総合医学講座災害医学分野
教授

眞瀬 智彦

はじめに

今年の3月で東日本大震災から10年がたつ。私は、東日本大震災発災時には統括DMATとして岩手県庁災害対策本部支援室医療班で被災状況の把握、医療救護班の派遣や物資の分配、被災地から傷病者を県内内陸に移動させる(転院)等の調整を行った。
その後、母校である岩手医科大学が災害医学講座を設置し、災害時地域医療支援教育センター(以下センター)を開設、その運営のために帰学した。大規模災害は多くの人の人生を変えるというが、もともとは脳神経外科医である私にとっても、東日本大震災は人生の大きな転換点となった。
東日本大震災での課題、それに対する岩手医科大学の取り組み、今後医療者に必要と考えられることを簡潔に記載したいと思う。

東日本大震災での課題

東日本大震災の医療活動は、当初考えられていた疾病構造と違い、外傷中心の急性期だけではなく、長期にわたる慢性期医療も必要となった。また、東日本大震災後の医療対応は長期戦となり、その調整のため各所に災害対策本部が設置されたが、その機能が十分に果たせなかった。これは、本部機能として情報収集、分析機能が機能せず、方針決定・支援活動が十分なものではなく、医療・本部体制を支えるロジスティクス(業務調整)機能のせいじゃく脆弱性が指摘された。

岩手医科大学の取り組み

前記の課題に取り組むために、岩手医科大学は独立した講座として災害医学講座を設置し、その活動拠点としてセンターを開設した。主な活動内容は、東日本大震災の医療活動を総括すること、災害時に活動できる人材を育成することである。医科大学なので、学生教育はもとより、医療従事者への研修、その中でも災害医療を下支えするロジスティクスの研修にも力を入れている。日本で唯一の本部活動・被災地内での医療活動を円滑に行うことを目的とした研修会であり、ぜひ、皆さまにも参加してほしい内容となっている。また、医療従事者以外にも広く災害医療を理解してもらうため、一般の方を対象とした当センターの見学会、研修会なども開催している。

東日本大震災後の災害医療

災害といえば阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など地震災害が主であったが、最近は火山噴火、豪雨土砂災害など災害が多様化してきた。また、現在進行中の新型コロナウイルス感染症の対応も災害対応となっているように、近年では全国で災害対応が切れることなく必要となっている。現在は日本全体が新型コロナウイルス感染症対応中であるが、この中で従来の自然災害が発生したときの対応をそれぞれの立場で考える必要があると思われる。

今後の災害医療に必要なこと

●医療従事者として災害医療の知識を習得すること
最近の日本はいつどこで災害が発生してもおかしくない状況である。医療従事者として災害についての知識・ルール、医療対応を最低限身に付け、有事の際に速やかに適切に対応できるようにしておく必要があると考える。

●オールハザードに対応できる医療人の育成(対応の核になる人材)
新型コロナウイルス感染症が発生し、これにも災害対応が必要となり、現在も対応中である。今回のパンデミック対策は感染症の専門家のみでは対応ができない状況となり災害医療の専門家が入院、搬送調整等を行っている。自然災害はもとより、CBRNE災害等オールハザードに対応できる人材育成が急務であると考えられる。

●災害の対応チームの連携(その災害の対応に必要な人材の共同での対応)
最近は、いろいろな医療チームが被災地で活動するようになってきた。被災地・被災者のために共通の目標の下で、各チームが連携していく必要がある。

最後に

今後皆さんが自分の専門分野で研鑽を積み力をつけていくことはもちろんだが、現在の日本の状況を考えると、自分の勤務している医療機関がいつ災害に巻き込まれてもおかしくない。そのときのために最低限の災害医療の知識を習得し、速やかに対応してもらえたらと思う。

眞瀬 智彦 ませ・ともひこ

 

岩手医科大学卒業。岩手医科大学脳神経外科学講座入局、同講座助手、高次救急センター助手、岩手県保健福祉部医務主幹などを経て岩手県立中部病院勤務時に東日本大震災を経験。2013年から現職。2015年より同学災害時地域医療支援教育センター長兼任。日本DMAT(統括資格、インストラクター)。日本災害医学会理事。日本脳神経外科学会専門医。社会医学系専門医協会指導医・専門医。岩手県災害医療コーディネーター。

※ドクターズマガジン2021年3月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

眞瀬 智彦

【Doctor’s Opinion】“東日本大震災から10年たって思うこと”

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