記事・インタビュー
川崎市立井田病院内科医
鈴木 厚
未曾有の経済不況と就職難、若者の学力低下とオリンピックの金メダルゼロ。これらを示すまでもなく、日本の国力低下は誰もが認めることであろう。労働人口の低下と非労働人口の増加、つまり、少子高齢化が、その原因と思いがちであるが、衰退にはたぶん、それ以上の要因がある。
世界第2位の日本のGDPは中国に抜かれようとしている。しかし中国の人口は日本の10倍なので、中国のGDPが日本の10倍になって初めて同じレベルと言える。韓国の飛躍が目立つが、韓国の人口1人当たりのGDPは日本の半分にすぎない。
日本の高度成長期は、1950年の朝鮮戦争からバブル崩壊までのおよそ30年間。一方の中国の高度成長はこの20年、韓国はIMF管理の国家破綻からまだ10年にすぎない。中国や韓国の経済成長の将来予測は別としても、残念なことに、日本の若者の目には輝きがない。品性のないアホな元気ばかりで、向上心と競争心、やる気と気骨が完全に失われている。
1991年の日本のGDPは世界第2位で、人口1人当たりのGDPも世界第2位だった。しかし現在、人口1人当たりのGDPは世界19位に低下している。つまり中国や韓国と比較するまでもなく、日本の国力は急速に低下している。財務省が「いざなぎ景気を超える」と数年前に自慢していたのは偽装公表であり、世界各国が十数%の経済成長を示す中で、日本は無為無策の20年の間、世界から取り残されてきた。世間受けを狙ったゆとり教育が若者の将来を奪い、技術立国としての日本の未来を危うくしている。人的資源を育てずに、このままでは資源のない日本は、衰退するだけである。
では、日本の活性化にはどのような方策があるのだろうか。少子高齢化、財政難などと嘆いているよりは、それを導いた正義ぶった行政の悪知恵を止めさせ、財政難脱却のための政治家の英断が必要だ。民主党は、埋蔵金の活用、官僚主導政治の打破、コンクリートから住民中心の政策を掲げて政権を得た。そして、日本語の重みを知らない火星人は腹を切る覚悟もないのに平成維新とほざき、平成の脱税王となった。納税という国民の義務を国政トップ2人が無視していたのだから、日本人が品性を失うのは当然で、国民性まで悪くしている。
ここで民主党の医療政策を検証してみよう。民主党は、国民医療費の0.19%増を自慢しているが、定期預金の金利より低い0.19%を自慢する見識を疑ってしまう。総選挙前、民主党は日本の国民医療費を欧米並にすると大ぼらを吹いていた。しかし、欧米並とは、日本の国民医療費10兆円増、30%増を意味している。病院に手厚い診療報酬と誇らしげであるが、公立病院の赤字総額が1.8兆円、国立病院が1兆円、医学部の負債が1兆円なのだから、逆立ちしても日本の医療は良くならない。
政治家の誠実な政策詐欺、官僚の統合失調の言葉、医療界の大御所の訳知り顔の茶坊主。そしてマスコミの正義ぶった論調による世論誘導が、汚れた尻尾できれいな胴体を振りまわしている。
厚労省の歴史を振り返れば、厚労省が日本の医療を良くしたというエビデンスはない。世界に誇る日本の皆保険制度は、厚労省がつくったのではなく、かつての日本医師会と政治家トップによるものである。また、保険医総辞退、医師国家試験ボイコットも、日本の医療を憂う医師や医学生の純粋な気持ちによるもので、厚労省の小役人どもは右往左往するだけだった。厚労省が医療を良くするというのはポーズだけで、良かったと思われる行政は、世間からの批判から逃れるための保身が動機だった。厚労省は国家統制による診療報酬で医師を縛り、通達という凶器で医師を脅し、医療の主導権を医師から奪ったというのが歴史的エビデンスである。
最近、「上から目線」という言葉が流行しているが、官僚も医療界のお偉方もまさに上からの目線である。さらには本来味方であるはずの患者までも、医療はサービス業との目線で医師を見下している。
お偉方は「医療は仁術、全人的医療」と学生に教えているが、実際には医療を算術とし、算術のできない病院の安楽死を導いている。彼らが何を言ったとしても、ヒポクラテスの誓いを忘れ、腐った脳味噌のお偉方に若い医師を指導する資格はない。ご高説など聞くだけでも胸くそが悪くなる。お偉方は若者の堕落を言う前に、自分たちの医師としての堕落、人間としての私欲を恥じるべきである。
さて、どうするか。財源がないのに文句ばかりの小手先の策では、改善はありえない。まずは医療財源確保のため消費税を上げることである。さらに1割の行政悪貨が9割の良貨を駆逐しているのだから、良識に反する政策を止めさせ、正義ぶった屁理屈を断罪することである。日本の将来を担う政治家や教育者は私欲を捨て、腹を切る覚悟で国民のために正義の道、若き医師のために正しい医道を自ら示すことである。
※ドクターズマガジン2010年6月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
鈴木 厚
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