記事・インタビュー
IMSグループ 医療法人社団 明芳会
板橋中央総合病院 院長 / 総合診療科 主任部長
加藤 良太朗
2019年2月3日に日米医学医療交流財団(以下、JANAMEF)は30周年記念式典を開催し、黒川清先生が「日本版ホスピタリスト宣言」を行った。私にもお話をする機会をいただき、日本版ホスピタリストを10年間で1万人育成することを目指したいと宣言した。
日本版ホスピタリストとは、「病院のサービスを患者に最適化する」医師のことであり、転換期にある日本の医療にとっての処方箋となり得る。日本には病院が多いが病院当たりの医師数は少ない。そのほとんどが専門医であるため、診療領域は狭い。その上、専門医の数は患者数に対応しておらず、例えば糖尿病患者1000万人に対して、糖尿病専門医は2000人しかいない。結果として、病院経営も非効率的で、8000以上ある日本の病院の7割以上が赤字である。
ホスピタリストとは一体何なのか。昔の米国では、かかりつけ医が診ている患者が重症化すると、契約している病院に入院させ、外来の合間に病棟に赴いて、診療を行っていた。ところが、医学の発展とともに、外来の合間に入院患者の診療をすることが不可能になった。そこで登場したのが、ホスピタリストである。ホスピタリストは病院に常在し、かかりつけ医と連携をとりながら入院診療を提供する。つまり、手術室における麻酔科のような存在になったのである。
この新しい職種の登場には、かかりつけ医も患者も大いに喜び、何よりもホスピタリスト自身が喜んだ。それから20年間。今では5万人以上のホスピタリストが存在するが、これは循環器内科医の2倍以上に上る。
では、日本版ホスピタリストはどう違うのか。元来、ホスピタリストとは、病院のニーズから生まれた職種であり、臓器別に定義される既存の診療科とは根本的に異なる。今の日本の病院が必要としているのは、医者目線の縦割り医療から、患者目線の横軸の医療への転換である。
こういった観点から、JANAMEFでは日本版ホスピタリストが満たすべき三つの要件を提示した。すなわち、(1)いつもベッドサイドにいる、入院患者にとって最も身近な主治医、(2)患者の訴えをよく聴き、診察し、横断的視点から適宜専門医と協力し、最適な医療サービスを提供する、(3)病院診療の全体像をみることにより、質の高い、安全な病院サービスを提供する。結果的に、全体的な観点から医療経営の知見を修得している。
私が院長を務める板橋中央総合病院では、総合診療内科が日本版ホスピタリストとして機能している。つまり、チーム医療を展開することで、主治チームの誰かが常にベッドサイドにいることを可能にしている。働き方改革が医療現場でも求められる昨今、チーム医療は避けては通れない。
次に、問診や診察といった、医師としての基本技術を大切にしている。患者の声をよく聴くことは医療の原点である。
また、他の診療科と競うことが役割ではない。日本の専門医は診療の幅は狭くはあれ、専門領域におけるレベルは世界的にも非常に高い。専門医が専門医らしく働けるようにするのが、ホスピタリストの役目でもある。例えば、大腿骨頸部骨折の患者は、総合診療内科に入院してもらっている。そうすることで、整形外科医が手術に専念できるからである。
また、当院では、外来から病棟まで内科患者の半分近くを総合診療内科が診ている。結果として、総合診療内科の医師は、病院のあらゆるオペレーションに絡み、救急外来における診療から、入院時の指示の標準化、多職種回診のリードや、後方支援施設との連携など、病院の運営のみならず、地域医療の中核ともなっている。
今後のわれわれの課題は、いかに日本版ホスピタリストを増やすかであるが、その障壁となっているのは、指導医の不足である。これについては、二つの対策がある。一つは、指導医を目指す医師に積極的に米国を訪れ、実際のホスピタリストの活躍を目の当たりにしてもらうことである。百聞は一見にしかず。もう一つは、指導医の共有である。都内などを中心に、さまざまな勉強会などが自主的に開かれており、お互いの施設を見学し合うなど、すでに草の根の交流は始まっている。院長としての私の役割は、こうした活動を全力で支援することであると考える。日本版ホスピタリストがつくる病院は、未来に選ばれる病院である。
かとう・りょうたろう
1999年東京大学卒。帝京大学医学部附属市原病院(現・帝京大ちば総合医療センター)麻酔科、米ワシントン大学医学部内科、同大学ロースクール、米セントルイス退役軍人病院内科、米ピッツバーグ大学集中治療科などを経て、2019年より現職。ニューヨーク州弁護士。ホスピタリストとして総合診療、医療安全に従事。監訳書に『ワシントンマニュアル̶̶患者安全と医療の質改善』(MEDSi)など。
※ドクターズマガジン2020年5月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
加藤 良太朗
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