記事・インタビュー

2020.06.29

【Doctor’s Opinion】卒前教育から生涯教育までのシームレスな展開で総合的な診療能力(医師免許の質)を保証する理想的時代へ

秋田大学大学院 医学系研究科 医学教育学講座 教授
日本医師会生涯教育推進委員会 委員長

長谷川 仁志

医師免許の質を保証するための各分野統合された卒前教育の実現は50年以上前からの課題である

基礎・臨床各分野の専門化・高度化が進み、それが医学教育においても専門に偏り過ぎていることが危惧されてきたのは、日本でも50年以上前からとなる。実際、1965年に全国の医学部の代表が集まって東京大学で開催された「第1回医学教育シンポジウム」でも、戦後からの問題として、基礎と臨床医学が統合した教育の必要性が中心的に取り上げられている。その後、50年経過し、専門分野のさらなる細分化・高度化が進んできたが、同時に医学教育改革も徐々に進められてきた。

 

卒前教育からシームレスに展開する日本医師会生涯教育

卒前教育には、各分野の専門に偏り過ぎることなく、内容を症例ベースで精選し、基礎と臨床医学各分野が同じ教育目標に向かって統合することにより、将来、何科に進んでも修得しておくべき総合的な診療能力(臨床推論・一般的な対応(治療))を卒業生全員に実践レベルで修得させる責務がある。それには患者、家族、医療従事者との円滑なコミュニケーションのために必要とされる豊かな人間性、プロフェッショナリズム、医療行動科学も含まれる。

近年、日本医学教育評価機構(JACME:Japan Accreditation Council for Medical Education)による国際基準に準じた分野別認証評価により、医学教育改革が一気に進み、大学と地域の関連医療機関との連携が強化されるとともに、卒後臨床研修、新専門医制度、生涯教育へと一貫した体制が構築されてきている。

 

すべての医師に総合的な診療能力が必要な日本の国情

日本は、長年、そのほとんどが各科専門医へ進むキャリア形成が続いてきた。この間、各専門分野が細分化・高度化するとともに、どの科の医師にも必要な総合的な診療能力についてのレベルも高まってきた。後者は、各専門分野が統合して進めるべき卒前教育目標の中心であるが、近年まで十分に教育展開できていない時代が続いた。これまでは多くの各科専門医が、病院内で総合的な診療を担ったり、勤務医がキャリア転換して地域医療に携わることにより、総合的な診療能力を持つ医師が育成されてきた。今後、新専門医制度における総合診療専門医や内科専門医の展開が期待されるが、歴史的な国情から、卒前教育改革に引き続き、医師免許の質保証として、全医師に総合的な診療能力の質保証をする生涯教育もこれまで以上に重要である。

 

圧倒的なデジタル教育を推進する生涯教育で理想を目指す時代へ

今回の新型コロナウイルス感染症対策に際して、インターネットを介したタイムリーな情報提供による学習の重要性に気付かされる。このように緊急時に絶大な力を発揮するITを使った情報提供であるが、残念ながら卒前・卒後〜生涯教育では、日本で十分に活用されていない現状があり、世界に遅れをとっている。働き方改革時代の多忙な医師が、一定の目標に向かって学習を進めるには、日本で遅れているeラーニングなどのデジタル教育を飛躍的に充実させていく必要がある。

日本医師会の生涯教育推進委員会では、次世代に向けた生涯教育の環境整備に取り組んでいる。今後、いつでも、どこでも、学習できるデジタル教育を、次世代の医師・医療従事者、さらには患者さんに向けて圧倒的に発信していく必要がある。

 

将来予想される医療の一歩・二歩先を見越した教育改革

高齢化、グローバル化時代における医療は、30年前に比べて大きく変化してきた。この間、医療の変化を見越した教育改革は必ずしも十分ではなく、そのつどOn-the-Job Trainingに頼ってきた部分が多い。全ての医師・医療従事者は、将来予想される一歩・二歩先を見越した教育改革を実践し、社会の期待に応えていく必要がある。最近のシームレスな教育改革がさらに進み、このような教育を実現可能なものにしていくことができれば理想的である。

はせがわ・ひとし

1988年秋田大学医学部医学科卒業(総合内科専門医、循環器専門医、米国内科学会fellow)。2007年同大学院循環器内科学・呼吸器内科学講座准教授、2008年同総合地域医療推進学講座教授を経て、2013年より現職。2012年から秋田県医師会理事、2016年から日本医師会生涯教育推進委員会委員長、2019年から日本医学教育評価機構(JACME)評価委員会委員。

※ドクターズマガジン2020年4月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

長谷川 仁志

【Doctor’s Opinion】卒前教育から生涯教育までのシームレスな展開で総合的な診療能力(医師免許の質)を保証する理想的時代へ

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