記事・インタビュー
国立大学法人 東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科
全人的医療開発学講座総合診療医学分野 教授
竹村 洋典
日本は人口の減少とともに少子高齢化が進んでいる。納税者が減少し、一方で社会保障関連費を必要とする高齢者人口が増えている。70歳以上で社会保障関連費の半分以上を使用するので、これから先、さらに国家の財政を圧迫する可能性がある。抗がん剤など良い医薬品がさらに開発されれば、その傾向は強くなる。また人口当たりの医師数はOECD諸国の中でも低値にとどまっている。働き方改革などで医師のマンパワーが減少することも考えられる。これからも医療に関わる問題は増大するであろう。しかし、日本以外の国から見れば、世界で最も長生きできる国家であり、羨望の眼で見られているのは間違いない。高齢者の多い日本社会で多くの国民が幸福な人生が送れるようになってほしい。
そして高齢化社会が問題となるのは、決して地方の話だけではない。例えば東京の高齢者増加率は47都道府県の中で最も高い。一人暮らし率も高い。また、筆者の調査によると受療抑制、すなわち病気にもかかわらず受療をしなかった人の率は、東京では3人に1人で、地方県(三重県)では4人に1人であることと比べるとずっと多い。日本では受療しないと医療のレールに乗れないため受療抑制は大きな問題である。このような状況下で、多くの国民が幸福でいられるような施策があるのであろうか。医学部の定員を増やすことはその医師が機能するまでに時間を要するし、また、2040年度以降、今度は日本の高齢者人口すら減少することを考えると得策とは言えない。一方、現存する多職種連携によって各職種がお互いに支援しあい、限りある医療資源を効果的に使用するような施策、例えば地域包括ケアの構築などは現実に進みつつある。男女共同参画を可能とする環境づくりも重要である。また、住民による地域共生社会、すなわち住民が主体的に参画するような社会の構築も将来の日本人が幸福になることに寄与するかもしれない。人工知能(AI)や情報通信技術(ICT)による医療や介護への支援も将来は重要となってくるであろう。アジア大洋州における日本の他地域との関係を考えると、海外から看護や介護などさまざまな職種の人材を迎えることも考慮すべきかもしれない。
近年、総合診療医が注目されている。総合診療医とは、地域住民のニーズにあった医療を全人的に提供する医療である。総合診療医は、主に「包括性」、「連携性」、「患者中心性」、「近接性」、「継続性」の5つの機能が備わっている。筆者の研究によると、地域のかかりつけの医師に上記の各々の機能が多く備わっていればいるほど、その患者は費用対効果が上がる受療行動をするようである。総合診療医によって、これからさらに深刻化する医療問題を解決できる可能性がある。
しかし、問題は総合診療医の数である。日本専門医機構が2018年度から総合診療専門医の育成を開始したが、2018年度、2019年度と200人に満たない専攻医が研修を始めたにとどまる。今後、日本専門医機構のさらなる努力が続くと思われるが、これからの医療問題を解決する数にはならないかもしれない。一方、総合診療医に備わっている上記の5つの機能を備える地域のかかりつけ医・総合医は決して少なくない。診療所や市中病院で活動するかかりつけ医・総合医は、診療所と病院で違いはあるが、近接性、継続性、そして患者中心性は十分に具備されていると思われる。今後は総合診療機能をさらに向上するために包括性や連携性を教育・研修で補強すればいい。特に地方では包括性の機能、都市部では連携性の機能が重要だと思われる。総合診療医はそのような機能をかかりつけ医に具備するための教育・研修に協力することも考えられる。これにより、総合診療能力を補強された地域で活動するかかりつけ医・総合医がこれから日本が迎える問題を解決できる可能性が高くなると思われる。
たけむら・ようすけ
1988年防衛医大卒業。1991年米国テネシー大にて家庭医療レジデント、1994年米国家庭医療専門医および家庭医療フェロー取得。2001年三重大総合診療科准教授、2009年三重大大学院家庭医療学分野・総合診療科教授。2018年東京医科歯科大大学院総合診療医学分野教授就任。日本専門医機構総合診療医検討委員会委員。
※ドクターズマガジン2019年7月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
竹村 洋典
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