記事・インタビュー
名古屋第二赤十字病院 名誉院長
同 健康経営センター 産業医
愛知医療学院短期大学 学長
石川 清
政府が「働き方改革」を推し進める中、その影響は医療機関へも波及し、長時間労働等厳しい勤務環境の是正を求められています。各医療機関はその対応に苦慮していると思われますが、さて、皆さんのところではどのように対処しておられるでしょうか?
昨年6月成立し、本年4月施行が決まっている「働き方改革関連法」の骨子となるものの一つに「労働時間法制の見直し」があります。その内容は長時間労働の是正や産業医・産業保健機能の強化等であり、働きすぎを防いで「健康を守る」ことに力点が置かれています。
一方、近年、国が積極的に推進していることもあって、『健康経営』の取り組みが注目され、一般企業を中心に『健康経営』に力を入れている企業が増えています。『健康経営』とは、「企業が職員の健康に配慮することによって、経営面で大きな成果が期待できる」との基盤に立ち、健康管理を経営的視点から考えることです。2016年、経産省が認定制度「健康経営優良法人:ホワイト500」を創設したことから、『健康経営』への注目度が年々高まっています。しかしながら、医療界では一部の医療法人が取り組んではいるものの、関心度はまだまだ低いと言えます。
当院では職員の健康管理の重要性を認識し、2013年「職員健康対策室」を立ち上げ、毎年人員を充実させ、現在では副院長が室長を兼務し、専任の産業医、保健師2人、看護師1人、主事1人、その他8人の兼務職員(精神科医、臨床心理士等)を配置しています。2015年には職員健康管理システム「従業員健康管理クラウド」を導入し、健診データの一元管理を実現しました。各種健康診断の実施、健診結果に基づいた二次健康診断・保健指導、ストレスチェック等メンタルヘルス対策、各種ワクチン接種・抗体価検査による感染予防、過重労働者への面接指導、職場復帰支援などさまざまな業務に取り組み、特に、産業医や保健師による面談を重視してきました。そして、昨年4月、職員の健康管理をさらに推し進めるべく『健康経営センター』を立ち上げ、「健康経営優良法人:ホワイト500」の認定を目指しました。まず、「健康経営宣言」を策定し内外に公表、職員の健康増進目的に、時間外のリハビリ室を開放し院内フィットネスジムを開設、職員食堂ではヘルシーメニューの提供を始めました。さらに、禁煙対策として職員向けWEB広報誌に「禁煙のすすめ」を掲載し、禁煙教育を実施するとともに、職員を対象とした禁煙外来も開設しました。
私自身も昨年3月定年退職したのを契機に、昨夏、産業医の資格を取得し、健康経営センター産業医として職員の健診に関わっています。健診を通して分かったことは、不規則な勤務体制や時間外労働等多忙でストレスフルな業務のために、ほとんどの職員が規則正しい食習慣や運動習慣を犠牲にしていることです。また、そればかりでなくメンタルに問題を抱える職員も少なからずいることです。医療界は健康に深く関わる業界でありながら、自分自身の健康に無頓着な職員も多く、まさに「医者の不養生」という現状があるのは否めません。このような現状を鑑みても、一般企業で『健康経営』がかなり普及しているのに、医療界で『健康経営』が普及していない現状は大きな問題かと思います。
冒頭に述べたとおり、医療界でも「働き方改革」は喫緊の課題であり、早急にその対応が求められています。その対策としてまず『健康経営』に取り組むべきです。そもそも医療界における「働き方改革」の本質は、単なる長時間労働の是正ではなく「職員の健康」です。医療機関にとって最も大切なのは、「健康な職員」であり、健康とは単に病気でないということではなく、心身共に健康でいきいきとして働ける状態です。職員が健康になることが経営にとってプラスになることをトップが認識し、職員の健康づくりに投資することが大切です。医療機関として「職員の健康」を最重点目標と位置づけ、その対応をしっかりとっていれば、働き方はおのずから改善されるものと思います。
以上より、医療界に『健康経営』がもっと普及することが望まれますが、さて、皆さんのところでは如何でしょうか?
いしかわ・きよし
1970年名古屋大学工学部航空学科卒業、1977年名古屋大学医学部卒業、1978年名古屋市立大学病院麻酔科、1986年カナダトロント大学麻酔科留学、1989年名古屋市立大学病院集中治療部助教授、2001年名古屋第二赤十字病院副院長・救命救急センター長、2007年同院長、2018年より現職、専門は、麻酔、集中治療、救急医療、災害医療、国際救援、日本コーチ協会認定メディカルコーチ、2019年より愛知医療学院短期大学学長
※ドクターズマガジン2019年5月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
石川 清
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