記事・インタビュー

2019.03.25

【Doctor’s Opinion】総合診療医・家庭医の思想 ~沖縄離島から発信~

沖縄県立宮古病院
院長

本永 英治

 総合診療医・家庭医とは何か、の思想を持つことが、揺るぎない総合診療医の活動の源泉になると思い、私はその思想形成に力を注いできました。最近になって漸(ようや)く自分自身の中に思想としての、また哲学としての「総合診療医」観を形成することができたように思います。それには尊敬する三石巌先生と共に、先生とモノーの著書である『偶然と必然』の書を何度も読むことと、離島医療の臨床経験を通して、私自身の「総合診療医・家庭医」観を形成することができたように感じています

総合診療医・家庭医とは何か、を問う時、家庭医療学の父と尊敬されているマクウィニー先生は、医師-患者の人間関係を重視し、患者一人ひとりを、特殊な複雑生体システム系の中で活動する生活者として捉え、患者と間主観的な人間関係の中で個別的に信頼関係を構築し、責任を持って医療を継続していく、ということを基本中心原理に謳(うた)っています。さらには人間関係の中で自分自身の中で起こってくる感情的な部分を自己省察していくことが大変重要であると謳っています。

他の臓器専門科が卓越した高度な技術で診断・治療にあたり、また病理診断を筆頭に分析的に病因と疾患の関係を探っていく中で、家庭医療学(総合診療)は、これまでの臓器専門科と同様の還元的分析方法に加え、患者の訴えをやまい(Illness)として捉え全人的に統合的に診療していくことが、総合診療医・家庭医の方法論であると掲げています。

我々医師が対象としている患者や患者家族、つまり人間は、遺伝子分子-細胞-組織-臓器-身体-個人-家族-コミュニティー・社会というシステム化された各ヒエラルキー(階層)の中で互いに複雑に絡み合いながら存在しています。また複雑性・多様性である自己は、外部環境に対して、細胞膜にある受容体や言語や感覚器からの情報を受け止める神経免疫系システムなどを通して開放系になっており、このことがさらに複雑性・多様性を増幅させています。一方、複雑性・多様性である自己は、自己の内外部で生体活性物質と言語という情報によるコミュニケーション、さらには社会の汎抵抗資源の活用によるサポートでも調節されており、そのことが病むことから治癒という方向性と新たな環境に適応する可塑性を生み出してもいます。

このように一人ひとりの患者は、自己組織化された生体システムの中で成長、発達、病気(やまい)、老化を経験する中で、自己の可塑性を探り、激しい環境に適応しながら生きようとしています。残念ながら死に至ることだってあり得ます。

家庭医療学の方法は新しいパラダイム(Glodstein 医療の考え)

私は、総合診療医・家庭医としてこれまで述べてきたような思想を持ち、住民一人ひとりが自分自身の健康を自主的に管理できるようお手伝いしていくのが役割と考えています。これが私の医療観であり医療哲学です。

もとなが・えいじ

1982年自治医科大学卒業、沖縄県立中部病院、名護病院附属伊是名診療所、八重山病院附属西表診療所、八重山病院を経て1995年東海大学大磯病院リハビリテーション科に。1998年より宮古病院、2017年4月から現職。2010年地域医療貢献奨励賞受賞。座右の銘は「漫然と年をとるべからず、学習者として年をとるべし」。趣味は宮古島民謡、方言研究、自然散策など多彩。

 

※ドクターズマガジン2019年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

本永 英治

【Doctor’s Opinion】総合診療医・家庭医の思想 ~沖縄離島から発信~

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