記事・インタビュー

2018.04.25

【Doctor’s Opinion】IoT・AIを導入した在宅医療

社会医療法人 祐愛会織田病院
理事長

織田 正道

 超高齢社会の到来に伴い医療需要は大きく変化しています。特に地方では都会より10年、20年高齢化の進展が早く、既に後期高齢者の中でも85歳以上高齢者が急増するという大きな課題に直面しています。この問題は、従来のように施設などの箱物を作ったり、ただ介護スタッフを増やすというだけの発想では、財政的にもマンパワーの面からも無理なのは明らかです。そこで我々は「在宅は難しい」という考えを改め、「85歳以上でも施設から在宅へ」の流れを本格化するために、入院から在宅医療に向けての一貫した取り組みを進めています。本格的な「治す医療」から、「治し支える医療」への転換です。

我々の取り組みを紹介しますと、これまで実績を積んできた退院直後の多職種協働のチームによる在宅医療と並行して、2016年10月より、IT企業と協力して、IoT(モノのインターネット)とAI(人工知能)を使った在宅見守りシステムの実証実験を進めています。これはパソコン類以外の“モノ”にセンサーを取り付けて、インターネットを介して離れた場所でも、その状態を把握することができ、また、場合によっては、その“モノ”を操作することも可能という新しい考えの応用です。「アクシデント発生を如何に早く見つけることができるか」が、在宅見守りでの重要なポイントですが、IoT・AI技術を用いて、その可能性を探る大きなチャレンジです。自宅には「AIカメラ」を設置し、取得した映像を「OPTiM Cloud IoT OS」に搭載されているAIを用いて解析し、転倒動作や長時間不動などの異常を検知することが可能となります。このAIカメラはプライバシーに配慮しており、基本的に映像はAIを通じてのみの見守りになります。異常を検知したときは「OPTiM Cloud IoT OS」から病院や家族へ通知し、家族の許可を得た上で起動し、初めて病院において生の映像を見ることができる仕組みとなっています(特許出願中)。さらに、夏期の熱中症を防ぐための温度センサーによる室温管理や、患者が装着しているスマートウォッチ上のナースコールが押されると病院に通知し、患者宅のタブレット(一般テレビも使用可能)を強制的に起動させる「ナースコール機能」、患者の身体状態をより明確に把握できる「バイタルデータ収集機能」などをパッケージにして在宅での提供を検討しています。このパッケージによって、自宅に居ながら病院内で医師や看護師に見守ってもらっているような状態を実現することが可能です。

現在実証実験中ではありますが、お使いいただいた患者さんからは緊急時の不安が軽減し、退院後の自宅での生活に自信がついたとの声をいただいています。またご家族からも介護の不安が軽減したなど好評です。

少子高齢化が続く中、医療や介護分野においてもマンパワーに頼るだけではなく、ICTを活用した情報ネットワークが求められるようになるのは当然の帰結といえます。以上、パラダイムシフトが求められる時代にあって、我々の取り組みについてご紹介いたしました。

おだ・まさみち

社会医療法人祐愛会織田病院理事長、全日本病院協会副会長。1978年日本大学卒業、久留米大学耳鼻咽喉科。1980年久留米大学麻酔科、1982年佐賀医科大学耳鼻咽喉科、日本麻酔科学会麻酔標榜医。1986年久留米大学にて学位取得、1990年祐愛会織田病院院長就任、1998年より現職。全日本病院会副会長、佐賀県医師会監事、日本耳鼻咽喉科学会代議員

 

※ドクターズマガジン2018年2月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

織田 正道

【Doctor’s Opinion】IoT・AIを導入した在宅医療

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