記事・インタビュー

2018.03.25

【Doctor’s Opinion】患者とともに生きる医療

社会福祉法人 三井記念病院 院長
東京大学名誉教授

髙本 眞一

 この40年余り、医療の進歩は素晴らしいものがありました。医療のあらゆる領域で以前には考えられないような発展があり、手が付けられなかった病気も治るようになりました。

心臓移植、人工心臓、再生医療、ロボット手術、TAVI(経カテーテル大動脈弁置換術)、MitraClip®(経カテーテル僧帽弁形成術)、ステントグラフトなど数え上げれば切りがありません。そうなると、どのような病気でも治るのではないかという幻想も生まれてきます。しかし、人間の能力には限界があり、現代医学でも人間の体についてほんの僅かのことしか分かっていません。生命(いのち)がいかにして生まれてくるのかはまだまだ謎の中です。

医学がそのように謎の塊の中にいるのに、医療はなぜ成り立つのでしょうか。今までの経験からこのようにしたら病気が治るということが分かり、そのことについて学問が成り立ってきましたが、医療が成立するのは患者の生命(いのち)があるからこそと思います。病気からの治癒の力は患者の生命力であり、医師の役割はその患者の生命力を最大に活かすべく、ガイド役を務めることだと思います。外科手術は外科医が手術をして患者を助けたという感覚を持つ可能性が高い領域ですが、患者の生命力がなければ、何もできません。医師は生命力を持った患者とともに生きなければならないのです。

患者中心主義(Patient-centered Care)ということが医療のパターナリズム(医師中心主義)からの脱却ということでよく言われておりますが、一つの難点は患者に余りにも集中し過ぎて、医療者が消耗してしまい、仕事を中止してしまうぐらいになることがあるのです。それに対して関係性中心主義(Relationship-centered Care)という言葉が出てきました。患者さんを大切にするが、消耗するところまではしない。医療者同士の関係もチームワークを大切にして、共同作業を行う。また、医療者と患者が住んでいる地域の関係も大切にする。これらは先ほど述べた「患者とともに生きる医療」を関係性の面で捉えた見方で、中身はほぼ同一です。

「ともに生きる」とは、能力の有無にかかわらず、生命(いのち)を持つその人を大事にすること、皆が平等であること、その人の能力を最大限引き出すこと、誰も傷つけないこと、生きようとするエネルギーを大切にすること、悲しみをともに、また喜びをともに持つことです。そこに生きる意味や希望があるのではないでしょうか。ともに生きるときには、仲良くするだけでなく、ぶつかることもあります。それを乗り越える情熱、我慢も大事です。乗り越えたときには大きな感動があります。

このような患者とともに生きる医療にはチームワークが必要であり、その医療チームの中心に患者がいるのではないかと思います。全員が患者の周りに集まり、患者をいかによく治療するかについて皆が心を一つにして頑張る。患者もチームの皆と一緒になって病気と闘うのが大事ですし、その治療には僅かながらも患者としての責任が生じます。医師も患者も同じ人間として医療チームの中でともに生きようとしています。その認識を医師、患者が共有できれば、双方にとってともに大きな癒やしとなります。そのためには医師、患者双方の意識改革が必要です。医師と患者が「ともに生きる」という意識改革ができれば、現代の医師患者関係は驚くほど改善するのではないかと思います。

東日本大震災の最中に救援物資をリレーして皆で助け合った状況がテレビや新聞で報道され、世界の多くの人に感動を与えました。多くの国ではそういう災害が起こった時は盗難、放火が日常時で、日本のような状況は見たことがないと外国人は言っておりました。このように、「ともに生きる」ことは日本人に備わった特性かもしれません。そして、「ともに生きる」相手として社会や世界との関わりも同じように大事で、旧来の資本主義、個人主義に代わり得る新しい生き方になるのではないでしょうか。患者とともに生きる医療、 皆でともに生きる社会を進めるため、皆で頑張りましょう。

たかもと・しんいち

1973年東京大学卒業。同年三井記念病院に入職。1978年ハーバード大留学、その後埼玉医科大学、公立昭和病院、国立循環器病センターを経て、1997年東京大学医学部胸部外科教授、2009年より現職。アジア心臓血管胸部外科学会(ASCVTS)理事長、日本医学会連合理事、日本心臓血管外科手術データベース機構代表幹事。

 

※ドクターズマガジン2018年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

髙本 眞一

【Doctor’s Opinion】患者とともに生きる医療

一覧へ戻る