記事・インタビュー

2017.12.15

【Doctor’s Opinion】救急医から在宅医へ 救急医が在宅医療を行う意義

コールメディカルクリニック福岡 理事長
コールメディカル在宅医療研修センター センター長

岩野 歩

 

当院は複数の救急医で構成された強化型在宅療養支援診療所です。同じく救急医出身の「コールメディカルクリニック広島」前理事長の故岡林清司先生より「在宅医療への思い」を同じくできる仲間として、救急医から在宅医へのキャリアパスの構築を託されて名称を頂いた形です。

「救急と全く畑違いの在宅になぜ?」と聞かれることがあります。しかし救急医出身の在宅医は思いのほか多いのではないでしょうか。その理由をここに述べさせていただきます。

在宅医療には三本の柱があります。①高齢者医療②終末期医療③障害児者医療です。いずれか一つでも疎かにすれば地域のニーズに沿った在宅医療ができているとはいえません。それぞれの観点から救急医が在宅医療を行う意義を述べさせていただきます。

■ 高齢者医療

超高齢化社会において、救急車で運ばれてくる高齢者は年々増え続けていきます。救急=三次救急・重症救急という発想の救急医にとってはモチベーションを削がれるのが昨今の状況ではないでしょうか。しかし、もう高齢者診療から逃げ果せられる時代ではなく立ち向かうしかありません。しばらくは救急=高齢者救急の時代が続きます。救急車は患者さんの病気だけでなく様々な社会的問題も運んできます。生活にまで踏み込まなければ患者さんが救急車で来てしまう原因となった問題の解決には至りません。姑息な対応に終始すると、そのしわ寄せは結局救急の現場に行き着く悪循環に陥ります。どうせやるなら効率的・効果的に行い、患者も医療者も地域も幸せにありたいものです。救急外来で高齢者診療の歪みの煽りをダイレクトに受ける救急医こそ、高齢者に適切かつ効率的な医療を提供する方法として在宅診療を行い、高齢者救急の問題解決の一助となるべきではないでしょうか。

■ 終末期医療

救急医の多くが救急外来で背景も分からぬまま超高齢者に対して蘇生術やそれに引き続く集中治療など、とことん治療を行った経験があるかと思います。集中治療室入室者の大半が80歳台後半という事態もよく見受けられます。高齢だから治療はほどほどに、ということではありません。「(治療を)どこまでやるのか」というのは本当に難儀な問題です。ただその選択をするのは患者さん本人やその家族であり、その選択に当たり医療者は情報提供を適切に行う事が重要です。どこからが終末期なのか、どこまで治療をやるのか、救急医はトコトン治療を尽くした経験が多く、その結果についても体感しています。

「引き際」 – 終末期への移行のタイミングの判断や本人・家族への説明がトコトン実体験に基づいているため絶妙です。終末期医療まで救急医が担うことに賛否があるかと思いますが、この領域に介入していかないと救急外来での不適切な蘇生術、それに引き続く集中治療という負のスパイラルは続くと感じています。

■ 障害児者医療

医学の発展により今まで救命できなかった患者も長期の生存が可能になりました。しかし、そのような方々には重度の機能障害を残した方も多く含まれます。障害児者は救急医が助けた患者さんのその後です。

「こんなになるなら助からなければ良かった」

幾度も患者さんやその家族から投げ掛けられた言葉です。「救命救急」とありますが、ここで言う「命」が「生命徴候」と考えるなら患者さんは助からないのです。助けたつもりの命にもっと責任を持たなければ、救急医の存在意義を危うくします。救急医としての仕事 – 命を救う – 事を完遂するためにこれらの方々を支えていく道を選択する救急 – 在宅医が必要です。

救急医は在宅医に向いています。24時間365日体制が習性としてしみついている事、不条理ともいえる様々な急激な変化への適応能力がその理由です。救急外来に運ばれてきた様々な問題を捌いてきたからこそ醸成される能力であり、その能力を在宅医療の現場に導くことが私達の重大な使命と考えています。

いわの・あゆむ

1994年 産業医科大学医学部卒業。1997年 北九州総合病院 救急救命センター救急部 麻酔・救急集中治療、2003年 浦添総合病院救急総合診療部医長、2006年 小倉リハビリテーション病院、2009年 医療法人矢津内科消化器科クリニックを経て、2012年コールメディカルクリニック福岡を開業。

 

※ドクターズマガジン2017年9月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

医師×訪問診療・在宅医

岩野 歩

【Doctor’s Opinion】救急医から在宅医へ 救急医が在宅医療を行う意義

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