記事・インタビュー
めぐみ在宅クリニック 院長
エンドオブライフ・ケア協会理事
小澤 竹俊
積極的な治療が困難になると、治療医は患者さん・家族にベストサポーティブケアを勧めることになります。では、ベストサポーティブケアとなった患者さんに対して、どのような関わり方ができるのでしょうか?
私は、1994年よりホスピス・緩和ケアを専門とし、やがてお迎えが来る人とその家族の支援に従事してきました。3000人近い患者さんとのお別れを通して学んだことは、痛みを和らげる技術や、人生の最期に立ち会う方法だけではありません。私は、自分が末期の患者さんを前に何をしてきたのか、多くの医療・介護に従事する人たちに伝えていく役割があると考え、2015年に有志でエンドオブライフ・ケア協会を設立しました。そこで 紹介している”苦しむ人への援助と5つの課題”についてお話ししたいと思います。
苦しむ人への援助と5つの課題
(1)援助的コミュニケーション
“苦しんでいる人は、自分の苦しみをわかってくれる人がいると嬉しい”という援助的コミュニケーションをすべての出発点とします。相手からわかってもらえたと思う聴き方として、”反復、沈黙、問いかけ”を学びます。反復は、相手の伝えたいメッセージを言葉にして返す技法、沈黙は、相手が心に思う大切なことを言葉にするまでの必要なエネルギーがたまるのを待つ時間、そして、問いかけは、潜在化している相手の支えを意識化する技法です。
(2)相手の苦しみをキャッチする
次に意識することは、”相手の苦しみをキャッチする”ことです。苦しみは、希望と現実との開きであることを意識すると、何気ない相手の言葉から、多くの苦しみをキャッチする力が養われていきます。苦しみには、答えることができる(改善できる)苦しみと、答えることができない(改善できない)苦しみがありますが、どれほど医学が発達しても、すべての苦しみをゼロにはできません。なぜ、私が幼い子供を残して死ななくてはいけないのですか?という問いに、病状説明だけでは、真の援助を提供することはできないのです。
(3)相手の支えをキャッチする
ここでは、苦しみを抱えながらも穏やかになれる可能性を意識して、相手の支えをキャッチします。改善できない苦しみの中にいても、今まで気づかなかった自らの支えに気づくとき、穏やかさを取り戻す人がいます。家族との何気ない会話が嬉しかったり、庭に咲いている花に心打たれたりします。それは気が弱くなったのではなく、大切な支えに気づいたのです。支えられ方は一人ひとり異なりますが、将来の夢、支えとなる関係、選ぶことのできる自由などの共通点があります。
(4)どのように相手の支えを強めることができるのかを知り実践する
どんなときにその人が穏やかになれるのか?と意識すると、穏やかさを取り戻す可能性が見えてきます。自宅で過ごせること、痛みがないこと、家族がそばにいること、ふるさとの話をしているとき、好きな相撲力士を応援しているとき、などを挙げることができます。これらの支えを応援できるのは、医療職だけではありません。それぞれの職種の持つ強みを意識すれば、より良い緩和ケアチームが形成されることでしょう。
(5)支えようとする私たちの支えを知る
現場は決してきれい事だけではありません。どれほど願っても力になれない場面があり、自分の弱さ・無力さを認めた上で、なお自分自身を自己肯定する力が求められます。関わる私たちも、自らの苦しみから学びます。苦しみの中から見えてくる支えは、今まで出会いお別れしてきた多くの患者さんやその家族の存在、医師としてご指導いただいた多くの先輩、ともに働いているスタッフ、家族、人を越えた存在への畏敬の念であったりします。そのような支えに気づくことによって、力になれない弱い自らでありながらも、”そこにいて良い”との確かな力を得て、現場から逃げずにこの仕事を続けることができるのです。
最後に、私の座右の銘をご紹介します。
「誰かの支えになろうとする人こそ、一番、支えを必要としている」
おざわ・たけとし
1987年東京慈恵会医科大学卒業。1991年山形大学博士課程卒。山形県立中央病院、白鷹町立病院を経て横浜甦生病院ホスピス病棟に勤務。2006年10月めぐみ在宅クリニックを開設。多死社会に向け人生の最終段階に対応できる人材育成を行っている。最新刊「今日が人生最後の日だと思って生きなさい」(アスコム)
※ドクターズマガジン2017年2月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
小澤 竹俊
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