記事・インタビュー

2017.10.26

【Doctor’s Opinion】東大医学部再生のための3つの提案

社会福祉法人太陽会 顧問
小松 秀樹

 2014年4月、社会福祉法人太陽会は、房総半島の千葉県館山市に、千葉県の看護師不足と地域の雇用不足に対応するために、安房医療福祉専門学校を開校した。社会人19人を含む49人が入学した。以下にこの学校の基本認識の最初の4項目を示す。

【看護教育7つの認識】
1.学校の顧客は学生である。
2.非合理的より合理的な方がよい。
3.人生の方向転換ができる社会は明るい。
4.キャリアアップ可能な環境は人を大切にする。

この認識は、この学校のISO9001の品質方針でもある。社会にどう向き合い、どう貢献したいのかをアピールし続けなければ、房総半島の南端に新しく開校した小さな学校が生き抜くことはできない。日本の看護教育は、権威勾配が強い。意味もなく長大なレポートを書かせるなど、非合理的な教育がしばしば観察される。学生を顧客と位置づけ、合理性を打ち出したのは他との差別化のためである。

人生の方向転換を可能にするための学校であり、社会人を積極的に受け入れている。就労支援が大きな目的なので、その後のキャリアアップの支援も当然のことである。

それぞれの認識には短い説明文がついている。以下の5、6、7には説明文も併記する。

5.社会の要請に合わせて自分を変えると、自分の価値が高まる。

日本では出生数が減少し、世界史上かつてなかった高齢化が進んでいます。生産拠点が海外に移転され、産業構造が大きく変化しました。貧富の差が拡大し、社会的に孤立した人たちが増えています。社会が変化する中で、医療の在り方も変化せざるをえません。社会の変化と要求を凝視しつつ、自らを変えていきます。

この理念も時代の変化に合わせて常に見直します。

6.多様性は看護をしなやかにする。

看護を必要としている人たちは多様な価値観を持ち、多様な状況に置かれています。看護教育では、年齢、信条、性自認、国籍、人種、性別、性的指向に関する差別を認めません。

社会人を受け入れるなど学生の構成を多様にすることも、多様性の受容を高めるのに有用です。

7.世界を意識すると、別のものが見えてくる。

病者は日本人だけではありません。病者、弱者への看護、いたわり、気遣いで、日本にしか通用しない考え方を押しつけてはなりません。看護では、世界に通用する説明責任、利他主義が求められます。

最近、東大医学部ではさまざまな不祥事が頻発しているが、リーダーたちは構造的問題を放置している。大きな戦略とコミットメントを欠く。安房医療福祉専門学校の持つ緊張感がない。

多様性は米国の医学教育で最も強調されている価値である。東大は、事実上、これを拒否している。学生の出身高校、出自はきわめて似通っている。教授のほとんどが東大出身である。

再生のための3つの提案を示す。第1は、故・宇沢弘文氏から伺ったリベラル・アーツ強化案である。これは、医学部に限定したものではない。幅広い教養と強い人格を持った「独立した個人」育成のためである。日本では教養教育はないがしろにされているが、社会のリーダーにとって必須であり、きわめて実用的である。宇沢氏曰く「東大紛争の後、丸山真男氏と語らって、駒場(東大教養学部の所在地)をリベラル・アーツの大学にして、本郷(医学部などの所在地)を職業学校にしようともくろんだが、失敗した」。第2は、医学部医学科をメディカル・スクールに改組して世界基準の医学教育に変革することである。第3は東大病院を東大から切り離して、メイヨークリニックのようなIHN (Integrated Healthcare Network =統合医療ネットワーク) と呼ばれる非営利の巨大医療複合体を創設することである。医療、介護、教育、研究の水準を向上させ、世界の医療・介護の標準作成に参加して、日本のガラパゴス化を防ぐ。

 

こまつ・ひでき
1974年東京大学卒業、三楽病院、青梅市立病院、山梨医科大学泌尿器科助教授、虎の門病院泌尿器科部長などを経て、2010年から鉄蕉会亀田総合病院副院長・泌尿器科顧問。著書に『慈恵医大青戸病院事件 – 医療の構造と実践的倫理』『医療崩壊 -「 立ち去り型サボタージュ」とは何か』『医療の限界』

※ドクターズマガジン2015年7月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

小松 秀樹

【Doctor’s Opinion】東大医学部再生のための3つの提案

一覧へ戻る