記事・インタビュー
鳥取大学 教授
医学部附属病院放射線治療科長
内田 伸恵
病院で画像検査をオーダーすると、キー画像などが貼り付けられた診断レポートが作成されて送られてくる。
ごく当たり前のことと感じられているかもしれないが、レポートは、CT装置が自動的に作ってくれるわけではない。放射線診断専門医が日夜専門性を発揮して、画像所見、画像診断名や鑑別診断、次に行うべき検査の提案などを記載したレポートを作成している。
放射線診療のもう一つの柱は、がんの放射線治療である。リニアックを代表とする体外照射、体内に放射線を出す小線源を留置して局所的な放射線治療を行う方法に大別される。放射線治療は、がん病巣を切除せずに根治を目指したり、術後再発を抑制したり、転移による疼痛などの苦痛を和らげることに威力を発揮する。
このように、放射線診療は大きく診断と治療に分野が分かれてはいるが、互いに関連しあい、放射線の医療応用分野として発展してきた。また、近年のコンピューター技術の進歩に伴い、装置や診療技術が飛躍的に発展したことも共通している。しかしながら、診療内容の高度化、専門化に伴う変化も見られる。現在では、放射線科とは独立した放射線治療科や放射線治療部門がある病院も多い。専門医制度も2段階方式となった。卒後臨床研修終了後の3年間に放射線診断、治療、核医学、IVR(インターベンショナル・ラジオロジー=画像診断を使った治療手技)など全領域を研修して受験資格が得られる「放射線科専門医」取得後は、「放射線診断専門医」「放射線治療専門医」どちらかを目指してより専門的研修を受ける。直近のデータでは、放射線診断専門医5057人、放射線治療専門医1019人であり、医療現場のニーズの高まりに対して専門医数が大幅に不足している状態である。
ところで、2012年の厚生労働省のデータでは、日本の総医師数における女性医師割合は、19.7%である。一方で近年医師国家試験合格者中の女性割合は30~35%で推移しており、若手女性医師が増えている。女性医師は医師や研究者として研さんを積む時期と、出産育児などのライフ・イベントとが重なるため、仕事継続の困難に直面することが少なくない。医療の現場でも30〜40歳台の女性が離職あるいは非常勤業務に変わり労働力率が低下する、いわゆるM字状カーブが問題となってきた。診療科により状況はさまざまであろうが、これが近年の医師不足の一因との指摘もある。その中で、病院内保育所の設置や育児休業からの復帰支援策など、女性医師が働き続けやすい環境整備も、全国で少しずつ進んでいる。
放射線診療は、専門性が高い上、力~仕事が少なく体力的なハンディがない、緊急コール・病棟フリーの病院も多い、画像診断では在宅という就業形態も選択可能など、女性医師が働き続けやすい分野と考えられる。いわゆるマミー・トラック(仕事と子育ての両立はできるものの、補助的仕事に留まる働き方)ではなく、女性が男性に肩を並べて働き続けることができるのだ。筆者が所属する日本放射線腫瘍学会事務局調べでは、正会員中の女性割合は16%、330人と、まだまだ少数派である。放射線治療の対象には、子宮がんや乳がんなど女性患者も多く、「女性医師に診てもらえてよかった」というお声をいただくことも多い。もっと多くの後輩たちに放射線治療医の道を選び、力を発揮してほしいと願っている。後進女性を支援し、その活躍の場を広げることを通じて放射線腫瘍学の進歩に寄与することを目的として、6年前に「日本女性放射線腫瘍医の会」が設立された。メーリングリストによる情報共有、学会学術大会開催に併せて年に2回セミナーや講演会の開催、研究や学会参加の助成、おしゃべりと食事を楽しむ女子会開催などの活動を行っている。興味を持たれた方は是非ウェブサイトをご覧ください。
うちだ・のぶえ
1984年島根医科大学(当時)卒業。島根医科大学、島根大学、鳥取県立中央病院を経て、2015年より現職。
放射線治療専門医、日本医学放射線学会代議員、日本放射線腫瘍学会理事、日本女性放射線腫瘍医の会事務局長
※ドクターズマガジン2015年6月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
内田 伸恵
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