記事・インタビュー
独立行政法人 国立病院機構 福山医療センター 院長
岩垣 博巳
自民党・日本経済再生本部の下部組織である「産業競争力会議」において、岡山市の大学病院を別法人化し、同病院を中核として組織母体の異なる近隣病院を包含した「岡山メディカルセンター構想」が審議されている。その背景には、医師・医療機関が県の中心部である岡山市に集中し、過当競争が起こり、その一方、県北では医療過誤が問題となっていることがある。加えて、人口減少の加速化を踏まえ、医療提供体制の効率化を目指した病院群の再編が急務と行政は判断したのだろう。現在、競合・分立している各病院の診療内容を同一ガバナンスの下に再編し、診療領域の規模及び質を向上させる事業体の創出にはさまざまな規制緩和が必要とされ、組織母体が異なることからも多大な困難が予想される。一般的には「不可能」とされるだろうが、かかる構想の実現に向けて工程表や目標値が審議されるほどに日本の医療は追い詰められている、とも言える。
毎年約9000人余りの医師が誕生している一方で、初期臨床研修制度以降、医師不足による地域医療の崩壊が叫ばれて久しい。近隣では、三原赤十字病院が昨年10月に産婦人科を休診して地域での出産が不可能となり、広島大学・岡山大学ともに常勤医師の派遣ができない状態である。尾道総合病院においても昨年春に小児外科医師の常勤医が不在となった。当院は、現在、地域周産期母子医療センターとしては広島県で最大規模の新生児室(NICU12床・GCU12床)を運営しているが、2007年より大阪大学から小児外科医師の派遣を受けている(常勤医師3名)。また、2009年度から岡山大学より医師の派遣がなくなって休診していた耳鼻科を、今年4月、5年余りの年月を経て再開した。北野博也鳥取大学医学部附属病院長のご高配によるものである。各診療科の医療の質を担保したうえで病院を運営するためには、一大学に依拠するのは無理がある。特定大学が病院人事を采配する時代は終わった、と実感している。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)締結によって、日本の医療はどのように変わるのか。プライベートな保険の導入の可能性は否定し得ない。欧米の医師に加え、東南アジアの医師の日本への参入の可能性もありうる。私は学生時代に岡山大学・アジア伝統医学研究会のメンバーとして香港・タイなどの医学生と交流した経験があるが、彼らは英語が堪能で優秀だ。その優秀な彼らに日本の医師・医学生は競合できるのか。先日、ベトナムと中国の病院・看護学校経営者が当院に視察に訪れ、「将来、日本に看護師を派遣したい」と発言していたが、野心にも似た向学心を有するアジアの看護学生に日本の看護学生は競合し、矜恃を持って職を守れるのか。7対1看護制度の導入以降は看護師不足も深刻だが、今年の診療報酬改定に伴い、機構病院でも急性期病棟から地域包括ケア病床や10対1看護への転換の結果、看護師が過員となる事態が招来され、来年度看護師募集がゼロの病院もある。医師不足・看護師不足が叫ばれて久しいが、近い将来、いずれも就職が困難になる過剰時代の到来も予感される。
冒頭に「岡山メディカルセンター構想」について触れたが、確かな経営基盤の下に病院を運営するためにも、一病院で全ての診療科を質高く揃えることは現況では困難であり、不経済でもあろう。当院は総合周産期母子医療センターを目指しているが、近隣の福山循環器病院(治田清一院長)と脳神経病院大田記念病院(大田泰正理事)の診療協力を得て実現したいと構想している。高い専門領域を有する「病院施設群」との密接な連携により、最高レベルの医療を効率よく地域住民に提供するシステムの構築は規制緩和も必要ではなく、その実現性は高いと考える。いずれにせよ、医師・看護師のみならず、全ての医療従事者は来るべき医療開国に向け、自らの技量のスキルアップと専門性の向上に努力しなければならない。
病院は「場」であると同時に「機能そのもの」である。その機能は、関係機関の連携によって、ますますの強化・発展が望めるものである。病院の機能を支える経営基盤もまた、地域医療への貢献力とともに強化されるべきである。医療機関に身を置くものとして、「連携システムの構築と機動」を最優先と考え、日々の業務を見つめ直す昨今である。
※ドクターズマガジン2014年11月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
岩垣 博巳
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