記事・インタビュー
留萌市立病院
院長兼病院事業管理者
笹川 裕
2006年、北海道留萌市の財政は危機に瀕していた。同時に医療の状況も悪化し、医療と地域を同時再生することが必要とされた。医師不足や赤字に苦しむ市立病院、少子高齢化に伴った労働人口・総人口の減少、地元産業の低迷が影響し、財政難の市行政とともに負の課題が山積していた。
多くの改革が断行され、市立病院は2010年に不良債務を解消し、市も2011年に財政難から脱却した。何よりも市民や市・病院職員の協力、議会・行政などの地域力・総合力が大きな成功要因となった。しかし、財政危機を乗り越えても、新たな課題が生まれていた。
①地域の政策的医療といえる小児・周産期・救急医療が高齢化に伴い、さらに不採算性を増すと予測される。
②住民の多くが地域完結型の医療・介護体制を望んでいるが、ポスト急性期、包括ケアシステムが十分に成熟していない。
③地域医療の安定には医師確保が重要であり、ここでは大学との緊密な連携がカギとなる。
最近、国は高齢化を見据え、リハビリ医療、回復期医療、在宅医療など、「ポスト急性期」へと大きく舵を取り始めている。医育大学も地域医療枠を増設し、地域基幹病院と連携して、卒前卒後一貫した「地域での実習と教育」に取り組み始めた。地域では安定した医師確保と完結型医療体制に加え、人と連携でき、総合診療マインドを有する医師の育成が望まれている。
このような地域事情を背景に、2009年7月に高齢化が進む港町、留萌市で生まれたのが「るもいコホートピア構想(以下「るもい構想」)」だ。従来のコホート研究が「集団を長期にわたって追跡し、エビデンスを追究する」のに対し、「るもい構想」では高齢化に伴って発生するさまざまな地域の課題を抽出・分析し、解決へのアプローチを住民に提示することを目指している。最終的な目標は住民の意識を活性化し、住民の健康づくりやコミュニティー活動を喚起し、地域に安心と健康をもたらすことだ。従来の研究スタイルとは異なる、新しいタイプのコホート研究だ。地域への研究誘致が、医師をはじめとした医療人の確保につながり、地域医療再生への突破口の一つになることが期待された。課題が山積し、閉塞感に苛まれていた当時の留萌市民にとって、「るもい構想」は地域に必要かつ望まれる活動・研究だった。
私は2007年4月に留萌市立病院の院長に就任し、医師不足・累積赤字と格闘してきた。そうした当事者からしても、「るもい構想」は医療人を留萌に引き付ける、宝箱のような魅力を秘めていた。
当初から、「るもい構想」には、①高齢化社会で深刻化する課題の予防(発病予防、再発予防、転倒・骨折予防、介護予防、寝たきり予防等)、②課題に取り組むマインドの育成と住民を核としたコミュニティーの創出、という二つの基本的姿勢が貫かれていた。この5年間の研究と活動の詳細はサイト(※)を参照されたい。
このように「るもい構想」の理念と地域医療とが密接に関わっている点が留萌コホート研究の大きな特徴といえよう。
地域が変われば、地域医療も変わる。高齢化に伴い、地域に必要とされる医療も変容するだろう。その過程で生まれる課題を医学生らと共に研究することが、地域医療マインドやリサーチマインドに富む医療人の育成に役立つはずだ。近い将来医師になる学生に対して、地域医療マインドと地域連携マインドを教育することは大切だ。そして、こうした医療人のマインドの醸成こそ、これからの地域医療と地域包括ケアの機能を本質的にかつ持続的に発揮させる必須条件だろう。
今後「るもい構想」が過疎・高齢化が進む留萌市の地域医療再生のみならず、地域再生へ向けての起死回生の一策へと発展していくことを期待している。
※ドクターズマガジン2014年10月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
笹川 裕
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