記事・インタビュー
帝京大学 名誉教授・客員教授/伊藤病院 学術顧問
高見 博
外科医師になって約40年間、大学中心の生活を振り返った時、それは「最悪の生活習慣」だと気付いた。生活習慣の柱である「食事」「運動」「精神生活」の中で、「食事」は野菜嫌いで大の肉好き。「運動」は元来、体を動かすのが好きではなく、時折ゴルフをする程度。さらに、通勤は全て自動車通勤。また、「精神生活」では、学内外ともにかなりのストレスにさらされていた。
大学を定年退任して、ふと思った。「こんな生活をしていたら、早死にしてしまう……」。そして、「体質改善」をした上で「人間改造」を目指すことを決意した。暦の上の長寿にこだわるつもりはないが、健康長寿にはこだわりたい。「アンチ・エイジング(抗加齢)」という概念には異議を唱える人もいるだろうが、「ビューティフル・エイジング」や「ウエル・エイジング」のイメージであれば納得する人も多いと思う。
抗加齢医学の立場から見ると、医学の卒前・卒後教育の中で抗加齢に関連する項目はあまりない。例えば、日本の医学部教育で、食事の基盤をなす栄養学を学ぶ機会はほとんどない。運動でも正しいウオーキング、ジョギングなどはスポーツ医学の分野だろうが、日本では専門にするところは少ない。精神生活にしても、旧来型の精神神経科での範疇よりも欧米型のカウンセリングの方が役立つだろう。
ここで趣を変えて、日本における抗加齢(加齢制御)医学についての「My Opinion」を述べたい。
言うまでもなく、日本は世界でも有数の長寿国である。2013年8月の「社会保障制度改革国民会議」の報告は、少子高齢化が進む中で国民皆保険を維持するには、「病気を治療する医療」から「生活習慣を改善して健康を維持する予防医学」への転換が必要だと提唱した。今後、後期高齢者が右肩上がりで増えるに従い、医療費も2012年の38兆円から団塊世代が後期高齢者になる2025年には50兆円を超える、と試算されている。従来型の治療中心の医療では国民皆保険を維持することは極めて困難である。
生活習慣を改善し、病気を予防する中で中心となる病気は「がん」「糖尿病」「高血圧」「動脈硬化」などであり、これらは加齢とともに増加する。抗加齢医学の基本は「食事」「運動」「精神生活」だ。これらについても科学的研究により健康長寿への道が明らかになりつつある。
「食事」ではEPA・DHAからなるオメガ3多価不飽和脂肪酸は脂肪肝を改善し中性脂肪を減少させ、アディポネクチンを上昇させ、心血管疾患を予防することが明らかになっている。また、アカゲザルの実験ではあるが、2009年に米国・ウィスコンシン大学での20年以上にわたる研究で、「エサを30%カットした群は通常のエサを与えた群よりも健康で、かつ長寿だった」という画期的な報告がある。この研究はエサの内容について議論があったが、今年になってカロリー制限が寿命延長に有効であることが再確認された。
「運動」では「サルコぺニア」「フレイル」という新しい概念が登場した。「サルコぺニア」とは筋肉量・筋力・身体能力の低下を指し、進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群である。一方、「フレイル(frailty)」は加齢とともに心身の機能が低下し、日常生活の活動性や自立度が低くなり、要介護状態に陥っていく過程を指す。また、日本独自の研究であるが、「ロコモティブ・シンドローム(ロコモ、運動器症候群)」という言葉が登場し、メタボに対比させ将来の運動器(骨・関節・筋肉・神経)障害の可能性の判定、早期発見、予防のトレーニング方法などが明らかにされた。
「精神生活」では、にこやかに、ストレスをためず、好奇心や感動の大事さも指摘されている。副交感神経の優位性も重要である。また、良質の睡眠、認知症では精神科、神経内科のみならず、循環器科、リハビリなどの横割りの有機的研究で治療、そして予防の研究がなされつつある。
これからはさらに抗加齢・予防医学を目指した前向き臨床試験を行う必要がある。WHOの高齢者研究では、健康の指標として「自律していること(autonomy)」が最重要としており、そのためには各分野が連携して健康増進を目指していく必要がある、と結論づけている。抗加齢医学・医療の社会への浸透は重要であり、それが病気を予防し、健康増進、健康長寿をもたらす、と考えられる。
※ドクターズマガジン2014年9月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
高見 博
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