記事・インタビュー
横手市立大森病院 院長
小野 剛
近い将来、日本では人口構造が変化し「超少子高齢・人口減少社会」に突入することが予想されている。今後高齢者は増加して老年人口は2010 年の2948 万人から2035 年には3741万人に増加し、75歳以上の後期高齢者人口は2010年から2035年にかけて1419万人から1・6倍増えて2278万人になること、死亡者数も120万人から166万人まで増加し「多死社会」となることが予測されている。
国では、高齢者の尊厳の保持と自立生活の支援の目的のもとで、可能な限り住み慣れた地域で、自分らしい人生を最後まで続けることができるよう、医療・介護・住まい・予防・生活支援を包括的にかつ継続的に提供する体制(地域包括ケアシステム)の構築を提唱している。また、先の8月の社会保障制度改革国民会議でも、今後必要とされる医療は「病院完結型」から地域全体で治し、支える「地域完結型」であり、地域包括ケアシステムづくりを推進していく必要があると報告されている。
超高齢化社会での医療の目標は延命期間の最大化ではなく生活の質(Quality of Life : QOL)の最大化であり、高度専門医療の重視ではなく生活機能の重視である。また、予防・リハビリテーション・認知症・緩和ケア・在宅医療・看取りなどが主要な対象領域であり、臓器別専門医だけではなく総合的対応能力を持った医師の関わりが重要であり総合診療医の育成が課題である。
高齢の患者さんは、複数の慢性的な疾患を抱え、治療を行っても病前の状態に完全に戻ることは難しいことが多い。また、基礎疾患の急性増悪がしばしばで、それによってQOLが損なわれさらに症状の改善が阻害されることが経験される。そのため、疾病を含めた高齢者の全体像を把握し、疾患の治療と並行してQOLの維持を図るとともにQOLの悪化を予防する必要がある。地域の高齢者医療では臓器別専門医が病院で治療を完結することは困難で、総合診療医が介護や行政・地域と連携し、地域包括ケアシステムの中で、治し、支えていくことが望まれるのではないかと考える。
医療機関の機能分化と連携という医療提供体制の再構築は地域包括ケアシステムを構築する上で重要な部分である。今後都道府県が、医療計画の一部として、医療機関から報告された情報を活用して、二次医療圏ごとに各医療機能の必要量を含む地域の医療体制の将来の目指すべき姿を「地域医療ビジョン」として策定することになる。高度急性期〜急性期〜回復期〜慢性期〜在宅医療の流れの中で各医療機関がそれぞれの地域の将来像を考え、同じテーブルについて自分の役割を踏まえ議論することが必要である。当地域でもこれまで何度となく医療機関の機能分化は言われてきたが、「総論賛成、各論反対」で先に進まない議論になり頓挫することがほとんどであった。各医療機関や介護保険事業所がwin |winの結果が出せるような地域医療ビジョンを策定しなければ絵に描いた餅になってしまい地域包括ケアシステムの構築も困難な状況になるのではないだろうか。
高齢化が進む中でとりわけ中小病院は「地域密着型医療機関」として急性期病院と在宅医療の中間施設的機能、高齢者の急性増悪に対応できる機能、リハビリテーション機能、認知症対応機能、在宅療養支援機能を有し、他の医療機関や介護施設と連携して地域包括ケアの中心的役割を担うことが必要であると考える。
「多死社会」となる今後、国では在宅医療推進のため在宅療養支援診療所や支援病院を新設して診療報酬上も手厚く評価している。また、2011年度からは在宅医療連携拠点事業を全国で展開して成果が得られている。在宅医療を推進するためには医療分野と介護分野の多職種連携が重要である。しかしながら地域によっては医療と介護の間の壁は依然として高く、連携がうまく進まない要因になっている現状がある。医療の中心である医師と在宅の中心であるケアマネージャーのコミュニケーション不足がネックであり、ここを解消することによって医療と介護の連携は更に進むのではないかと考える。コミュニケーションの場を多くすること、ICT活用による情報の共有化が今後の課題ではないだろうか。
全国には様々な地域がある。田舎や都会、山間部や離島、社会資源の多い地域や少ない地域など状況が異なる中で地域の実情にあった地域包括ケアシステムの構築を望みたい。
※ドクターズマガジン2014年1月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
小野 剛
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