記事・インタビュー

2017.10.26

【Doctor’s Opinion】「活躍が期待される女性医師」

伊藤病院 院長
伊藤 公一

 ヨーロッパの土産品で、職業分類されたガラスや木彫りの人形がある。そのなか、ドクタードールなる医師モデルは実に分かりやすい。大概が縁の濃い眼鏡をかけた白髪・髭の大柄初老男性で、白衣姿に聴診器をぶらさげている。優しい街医者をイメージしての製作であろうが、人の良さそうな顔立ちにお腹が突き出た恰幅が万人に安心感を与える。

古今東西、医者の働き場所は、病院か診療所である。そこで開業医(診療所の開設者)のロールモデルは、間違いなく「おじさん」である。なぜならば、いずれの国においても医師になった途端に、開業する者はまずいない。通常は病院勤務で相応の経験を積んだうえで創業するか家業を継承するので、スタート時点にはある程度の年齢となっている。

その後の人生は、自営業者であるゆえ定年はなく、自ずと業界は高齢化が進んでいる。現状では、農業・漁業同様に、男性高齢者が医師不足が危ぶまれる日本中の地域医療を支えている。そして、これら開業医師の集まりである医師会に参加すると、ドクタードールそのものである善良な年配男性医師に出会う。

一方、病院で働く医師は開業医と比べれば当然に平均年齢が若いわけだが、その勤務医の世界で今、男女の割合が激変している。

女性の社会進出が確立されて久しいが、圧倒的男性社会であった医師の世界でも、顕著に女性医師の存在感が強まってきた。

それもそのはず、医学部に進学する女子が増え続けている。実際に医師国家試験合格者における女性数を見れば、20年前には僅か10%程度であった割合が次第に増加し、1990年以降は年平均6%の伸びで増加し、現在は40%近くにまで達している。半数以上が女子大生という医科大学も存在し、医大の合格者を高校別に見た表でも名門女子校が上位に並ぶ。

このように女性医師の数と、占める割合は着実に増えているが、それでも現時点では活動する医師全体の2割に過ぎない。理由は単純明快で、増え続けた女性医師集団がまだ若いからである。よって、開業医にまでは至らず、最も忙しい病院勤務医である20代、30代年齢に集中している。

拙院を見ても明らかである。祖父の時代には皆無、父の時代には希少であった女性医師が、私の時代で急増し現在はフルタイム勤務13名である。

一方、我々が専門医療を施す甲状腺疾患は患者の9割が女性である。女性独特の悩みを女性医師に相談する女性患者も少なくない。そこで院長としては、女性医師のアドバンテージが活かされる病院創りに務めているつもりだ。

とはいえ、家庭を持った女性医師が男性医師同様に長時間労働に励むことは並大抵の努力では収まらないのは当然だ。そこで出産・育児の負荷が追加されながらも、総合職として逞しく働く彼女たちの姿に、いつも励まされている。

21世紀は明らかに女性の時代であろう。間もなく、女性医師が勤務医の世界でも開業医の世界でも、数、実力ともに男性医師を席巻し、学会や医師会の重鎮の席に座り、ドクタードールの題材には、素敵な「おばさんモデル」が加わるであろう。

3年前に出席した愚息の医大入学式での光景。そこでも女子の多さに圧倒された。よくよく見れば、男子集団は呑気そうな輩ばかりで何とも幼い。一方の女子は、しっかりメークで気丈な子が目立つ。そして、おそらく煩悩がない分男子に比べて勤勉なのであろう。在校生の成績優秀表彰者には女子の姿が目立ち、入学者総代も利発な雰囲気の女の子であった。

頑張れ女性医師の卵たち!もっと頑張れ日本男児!


先代、故・伊藤國彦氏をモデルにしたドクタードール

※ドクターズマガジン2013年12月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

伊藤 公一

【Doctor’s Opinion】「活躍が期待される女性医師」

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