記事・インタビュー

2017.10.26

【Doctor’s Opinion】地方病院における医師確保の難しさ

富士重工業健康保険組合太田記念病院院長
佐藤 吉壮

 我々の病院は群馬県南部に位置しており、埼玉との県境まで数キロ、栃木との県境まで数キロと近く、前橋・高崎までは40キロと離れている。

 太田・館林保健医療圏は、県内全10圏域の中で人口10万人あたりの医師数が最も少なく、2010年12月時点の厚労省調査では、全国平均230・4人に対し、太田・館林は137・0人であり、かなりの医師不足である(表1)。また、二次医療圏だけでなく県外からの需要に対応することもしばしばとなっている。

2013年3月現在、我々の移設の常勤医は81名であるが、内科系医師が不足している。関東一円で接触可能な大学に医師派遣の要請をしているが、増員には困難を極めている。

医師確保が困難である理由として地域性があげられる。地域性と言っても東京都心からのアクセス利便性があまりよろしくないことを指摘されるケースが少なくない。市内への乗り入れ路線にJRはなく、高速自動車道は市内に北関東道インターがあるが、東北道あるいは関越道を経由して都心へアクセスすることになる。この地域性が大学病院からの医師派遣を困難にしている理由のひとつとなる。我々が若い時代には、医局の異動命令には逆らえずに異動していた。現在は不本意な異動を打診された場合には、「行きたくありません。強要されるようであれば退職します」という風潮であると聞いている。

若手医師が臨床経験を積むことは医師としての経歴において不可欠であり、基礎系の医師を除けば臨床から全く離れた経歴を進む医師はかなり少ないはずである。冒頭に記したようにカバーする医療圏は広いため経験出来る症例数は多く、1次から3次までの重症度の疾患に対応しなくてはならず、「臨床経験を積む」という意味合いでは十分にアピールすることができる地域である(表2)。しかし、対応する医療施設不足から3次といえども1次救急までも部分的にカバーしなくてはいけないいわゆる「コンビニ受診」への対策など、今後の課題となっていることも事実である。

それぞれの医療機関の診療の特徴を全面的に出すことも重要である。

当院は2012年6月に上記の条件をすべて満たす形で新築移転し、現在病床数400の地域救命救急センターとして、3次救急を行っており、平均在院日数は11・0日、救急車受け入れは月平均486台と急性期型病院である。

医師の待遇については各医療機関で差違があるが、少なくとも都内の医療施設と比較して劣る待遇ではなく、むしろ上回る待遇を用意している施設が多いと思われる。

総じて考えるに、臨床経験が積め、待遇も悪いものではないのにもかかわらず医師確保が困難をきわめるのは、やはり地域性の問題であろうか。しかし関東でも、地域性では不利な条件にもかかわらず十分な医師確保ができている医療機関もあり、各医療施設の努力が足りないのであろうか。

施設に最新機器を導入するなどのハード面の充実、医師にとって働きやすい環境と各科にまたがる横の連携の充実も必要であると考える。カリスマ的な指導医の存在は当該科においては人材確保に有利となるが、他科とのバランスが崩れてしまう危険性をはらむため、注意が必要となる。また過去に、招聘した医師のアフターケアも重要であると痛感した経験があり、ハード面・ソフト面ともにいかに勤務継続をサポートできるかの努力も必要である。

勝手に綴らせていただいたが、皆様方のお知恵を拝借できれば幸いに存じます。

※ドクターズマガジン2013年6月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。

佐藤 吉壮

【Doctor’s Opinion】地方病院における医師確保の難しさ

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