記事・インタビュー
医療法人雄心会 函館新都市病院院長
青野 允
医療を過去に遡れば原型は医師対患者であった。原始時代の経験医療から呪術、僧院医療をへて、ヒポクラテスの時代から自然科学の一部となって現代に至った。
現在我々の病院では、患者の疾病や悩みを中心に置いて周囲を取り巻く円周上に、医師と看護師、次に患者自身と現在厚労省が認定する24種の医療職と保守・運営に携わるすべての職種の人達をも加えた医療チームとなった。
チームメンバーは相互に各職種の役割を認識・尊重・尊敬しつつ、評価し合う。医師はチームリーダーとなって、患者の疾病・悩みの解決に当る最終責任者である。
昭和ヒトケタ生まれの筆者は、インターン終了後直ちに麻酔科に入局して以後50年余にわたり麻酔業務に従事してきた。通常、手術室で麻酔する患者さんは他科の患者さんで、主治医も執刀医も助手も皆麻酔科所属ではないし、器械出しの看護師も同様である。しかし全員自分の役目を果たしつつ、同じ目的に向かって協働している。
当時の麻酔科助教授はこの状況をオーケストラになぞらえて、我々若い麻酔医はいつも、「君らは手術チームの指揮者になれ」と叱咤激励されていたことを思い出す。
ところが、最近世間では、組織に馴染めない(馴染まない)チームリーダーとしての責任を放棄する医師が問題になってきている。
直近の原因は、研修医の研修システムの変更にあると私は考えている。大部分の医療従事者はこの事実を知っているが、これに代わる代案を積極的に提案する機運が見えてこない。国あるいは国民はこのような医師を望んでいるのだろうか?
考えられるもう一つの基本的原因は、我が国の大家族制の崩壊と共稼ぎによる核家族のために、家庭における躾の欠落と〝お手手つないで徒競走〞のような不思議な教育にあると愚考している。
偏差値が良いというだけで、医学部を目指す学生、あるいは勧める学校など、集団生活の経験がないために、これに馴染めない人間の誕生であろう。「ガキ大将、いじめ役、いじめられ役、慰め役、仕返し役等々」子供時代の「小さな社会」の経験がない。これが手加減を知らぬ、バーチャル人間を作り、いじめの発生に関与している可能性がある。
医局から医師の供給が滞り、途絶えて医師紹介業者に頼ると、時にこのような医師に行き当たる可能性がある。医局派遣医師の場合にはあらかじめ「情報」があり、ある程度バックアップ体制があった。これも紹介業の難しさであろう。
集団生活になじめない、倫理観の欠落、サーカディアンリズムを無視した9時〜5時ドクターや高度技術の時間売りなどさまざまである。
自分自身も患者と同じ人間であって、加齢に伴い病人になるなどとは思ってもいない。
かつての古い時代には、〝自分は医師だから当然〞などと、困難に立ち向かうのが常態であったが!世間からは〝お医者さんだから当たり前、逆にお医者さんだから、まあ仕方ないか〞と大目に見てもらったことなど、まさに昔話になった。
思わず「人間になる前に医者になったやつがいる」と怒鳴りたくなることがある。
昔の中国の諺、「少医は病を治し、中医は人を癒し、大医は国を脩める」と言われたが、中医を目指す医師が希少価値になったのではないかと恐れる。
新人の医師が「あの医師と一緒に仕事がしたい、勉強になるし、苦しいけど達成感がある。」今後こんな医師を世に送り出すことを皆で考えなければならない。
今話題のハーバード大学、マイケル・サンデル教授の言葉を借りるならば、医師も「良い市民」の一人であってほしいと心から願っている。
こういう医師供給システムのなかで、現時点で我々に出来ることは、就職希望医師に、あらかじめ誰かの「推薦状があることが望ましい」という項目を常態化し、推薦状が採用に有利であるとの印象を持たせることから始めることが重要であろう。勿論その根拠を明確にした「自薦」でもよいという事にしてはどうだろう。
最後に、ISOや病院機能評価など病院の国際化が迫られるが、医療経営は非常に厳しい。医療費も国際化し、自分たちが目指す病院が生き残れるようにしたい。
※ドクターズマガジン2013年4月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
青野 允
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