記事・インタビュー
福島県立医科大学医療人育成・支援センター
大谷 晃司
福島医大では、2008年に医学部定員増に対応すべく、医学部教育から卒後教育、さらには医師生涯教育、あるいは子育て・介護等で中断した医師の復帰支援をする医療人育成・支援センターを立ちあげました。私は、主に卒後教育を担当することになりました。約4年の活動を振り返り、自分なりの地方の医師不足への処方箋を提示したいと思います。
1 臨床研修制度への対応
福島県全体で見た場合、臨床研修が終了した医師の2/3から3/4が、そのまま専門研修医として福島県にとどまります。つまり、地方の医師不足への対応の第1の処方箋は、いかに臨床研修医を招聘できるかにかかってきます。福島医大出身だから福島に残るとか、福島出身だから福島に戻る、といったレベルでは、いつまでも現状を変えることは出来ません。よい研修を提供することが重要です。
よい研修を提供する取り組みとして、福島県臨床研修病院ネットワークをつくり、研修病院間での研修の相互乗り入れを活発化しようとしています。個々の研修病院の良いところ、あるいは欠点があるのは事実です。指導医が少ないとか、施設が未熟であるといった欠点の改善を目指すのはもちろん、各研修病院の特徴を活かし、“いいとこ取り”の研修が出来ることを第1の目標としています。施設間で研修医が交流することができれば、おのずと他施設の良いところが拡がるでしょう。さらには、指導医の交流へ発展することが出来れば、研修の質のさらなる向上が期待されます。
研修の質の底上げも重要です。福島県では、全臨床研修病院共通の教育ツールを導入しました。ひとつは経験すべき症例に関するe-learning、他方は、EBMを学ぶための二次情報ツールです。特に後者は、県内の研修病院で導入されていない病院もあることから、導入を決めました。また、2012年度からは、福島ACLS協会の全面的な支援の元、福島の研修医全てがBLS/ACLSを履修できるように準備を進めています。これらはすべて、福島県全体で研修医を育てるという方針の具体例であります。
2 医学生への対応
福島県や地方自治体、あるいは医療機関等の協力のもと、①福島県を知ってもらい、興味を持ってもらう、②地域密着型の医療機関や医療施設が、地域社会を支えていることを知る、をコンセプトとして、長期休業期間に“地域交流事業”と名付けた単位認定外の地域医療教育を試みています。2009年度からの過去3年間に、42の協力施設(13病院、17診療所、5介護老人保健施設、4保健福祉事務所・保健所、2保健福祉センター、1託児所)の協力の下、22大学のべ272名(福島医大216名、福島医大以外56名)の参加がありました。参加者の満足度は高く、地域をまず知ってもらうという初期の目的は達成された、と自負しています。臨床研修医招聘への直接的な効果は不明ですが、地道な活動が将来、花開くことを期待して、県や自治体、あるいは医療機関等と連携しながら、大学外での教育を進めていきたいと思います。もちろん、福島医大における学部教育も大きく変化しています。こちらの方は、当センターの医学教育部門の石川副部門長が精力的に活動をされ、模擬患者の養成とスキルラボの整備が進んでいます。よりよい教育を提供することが、母校、あるいは福島に残ってもらう処方箋の王道であることは間違いありません。
3 東日本大震災とその後の放射線問題を越えて
いろいろな活動を通じて、長期低落傾向であった福島県の臨床研修医の採用者数は、2010年度からはわずかではありますが、増加に転じていました。しかし、東日本大震災とその後の放射線問題が、その効果を吹き飛ばしてしまいました。結果的には災害発生後、5名の研修辞退者が出て、研修開始者は69名となってしまいました。2012年度は、マッチングの段階でマッチ者数は61名で、過去最低でした。これ以上悪くなることはないだろうと思いながらも、次年度がどうなるかがすでに心配ではあります。我々が出来ることは、良い研修を提供し、福島で医師としての基盤を培ってもらうよう援助することです。そして、福島で研修することで、他の地域では学ぶことが出来にくい“何か”を提供できることが、この逆境を逆転できる処方箋となると信じています。この“何か”を福島の現状、研修医の要望などを勘案しながら、探していきたいと思います。
※ドクターズマガジン2012年5月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
大谷 晃司
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