記事・インタビュー
木村専太郎クリニック院長
木村 專太郎
「着眼大局・着手小局」は、中国の荀子(じゅんし)(313〜238BC)の言葉である。人生、幾つになっても、いつも大きな目標(大局)を持ち(着眼)、その目標に向かって計画(小局)を決めて実行して(着手)生きて行くことが大切である。私は飯塚の県立嘉穂高校の剣道部に入部し、後の人生の師匠になる松尾隆文師範から、「專太郎、医者になるなら、卒業までに剣道五段は必ず取れ!」と言われた。大学時代の私は、大学6年間で英語が自由に話せるようになることが「着眼大局」の一つであった。「着手小局」として週1回英語を習い、毎朝NHKラジオの英語講座を聴いた。
昭和35年、医学部二年生のとき、同級生の西田博文君と医学部剣道部を創設した。今年が剣道部創設52年目。その年、空軍立川病院でのインターン試験に合格することを「着眼大局」にした。米国の医学問題集を全科10冊買い、1冊に500問ある問題を1日10問ずつ解いた。結局、大学時代の「着眼大局」は、剣道五段位取得、英語会話習得、世界の歌を原語で歌うこと、東京の米軍病院で「インターン」試験に合格をすることは、「着手小局」が幸いに成功して全て成就した。
インターン時代の「着眼大局」は、米国での臨床トレーニングを受ける資格、当時「ECFMG」という試験の合格であった。そのころ、山本周五郎作の「赤ひげ」が映画化され、医者人生最大の「着眼大局」は「赤ひげ」のような医者になりたいとおもった。日本の研究主体の制度では、「赤ひげ」達成には、程遠いことを悟り、一念発起して渡米を決心した。渡米後の「着眼大局」は、米国外科専門医試験「ボード試験」に合格することであった。外国人が、この資格取得する合格率は25%と難関である。ドレイク(Drake) 大学「夜間コース」の“public speaking”(人前で喋ること)のクラスに、週1回6ヶ月通った。私以外の9人は全員アメリカ人で、スピーチの基本、種類、発表時の留意点、スライドの創り方など、日本ではあまり重要視されない貴重なことを習った。幸い試験は「A」(優)で合格した。2度目の渡米の昭和52年(1977)に、米国で外科の専門医試験「ボード試験」の「筆記試験」と「口頭試問」に合格した。
再渡米の費用300万円を稼ぐために、日田中央病院で毎週土曜日24時間働いて10万円、月40万円×8ヶ月を稼いだ。そして翌年の4月の渡米時、残る「着眼大局」は米国で開業することであった。その年の10月にクリニックを開業し、午前中の国立病院勤務、午後の外科開業、週2回夜間の「ER」勤務などして、年に20万ドルを稼ぐほどに成長した。しかし、渡米に便宜を図ってくれた大恩ある日田中央病院の院長が急死し、御恩返しと思い昭和56年(1981)に日田中央病院院長として帰国した。その5年後に、福岡市南区那珂川病院院長として15年間務め、両病院の立て直しに尽力した。
10年前に南区三宅に、最後の役目になる「病と健康のよろず相談所・木村専太郎クリニック」を開業した。両病院院長時代には、その度に病院経営を成功させることを「着眼大局」を掲げ、よい医療を実践させる色々の「着手小局」を練って成就してきたと思っている。医療経営を成功させるには、良く「医学」を勉強し、患者に質の良い「医療」を提供し、損をしない金銭バランスのとれた「医業」を行うことである。そのためには、医業単価の高い「技」の効いた「技術」を会得しておくことが重要。私のクリニックでは、木村式ほくろとり、木村式陥入爪手術、外来ばね指手術、下肢静脈瘤の硬化療法など、毎日通常4例から多いときは、7〜8例の処置を行っている。開業以来、毎月一度東京に出て、皮膚の疾患の勉強、糖尿病の治療法など、より健全なクリニックの経営のために勉強をしてきた。
6年前から分子整合栄養医学を学び、さらに研鑽して、ビタミンC大量療法や、血液を綺麗にする「キレーション」療法をマスターすることにより、さらにより良い「赤ひげ」に近づいたと考えている。日進月歩は世の慣い、終わりの無い「ゴール」を目指して、さらに研鑽していきたい。
色々なことを成就させるには「4つのキ」が必要である。これは「やる気、根気、暗記と、のん気」である。今まで、私が自分なりに色々の「着眼大局・着手小局」を決めて成就させた根底には、高校と大学で7年半の間「剣の道」を収める過程で学んだ「やる気の精神」であり、学生時代に「五段位」を取るという「着眼大局」と黙々と稽古に励んだ「着手小局の根気」のお陰であると思っている。
※ドクターズマガジン2012年4月号に掲載するためにご執筆いただいたものです。
木村 專太郎
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